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皆殺し



『さて、これでゾンビはほとんど倒したか。』

こいつらはそれなりに強いが、まだまだ序の口といったところか。


『なあ、マサチカさんよ。これでテストは終わりか?俺ら全員生き残ったぜ。』

棍棒使いのリーが俺に話しかけてきた。

『いやあ、みんな強いなあ!正直ここまでやってくれるとは思わなかったよー!報酬もしっかり弾まないとだよねえ!』

報酬は50万ゴールドだ。


通常の依頼に比べてべらぼうに高いのだ。


『マサチカ殿、どうするのだ。仲間は1人だろ?報酬は分け合うとしてだな。』


『そうだねえ。本当は1人残るくらいの難易度なのかなって思ってたからね。これは参ったねえ。報酬はキレイに分けられるからいいけどねえ。』


イリノイノビスが近づく。

『なあ、マサチカ。報酬の分け前は、契約書通り5当分なんだな?』


『ナーニャ、契約書読み上げてくれ。』


『は、はい。ほ、報酬については、各々の話し合いのう、うえ、決める。なお、話し合いとはいかなる手段を、と問わない。』


『え?それだと5当分じゃなくても、いいってことか?』

ケインが発言する。


『あれ、そうだったかあ。忘れていたよ。悪い、悪い。どうしようかね。』



『ふざけんじゃねえ!このバカ女!契約書見せてみろ!』


ルーンが突然ブチギレた。ナーニャが突き飛ばされる。


『っ、痛い、、、。』

ナーニャは膝を擦りむいたようだ。



『おいおい姉ちゃん、八つ当たりはいけないなあ。』


リーが、ルーンを嗜めようと近づく。


『私に近づくな。』




『おいおい、姉ちゃんよ、、あれ?』








次の瞬間、リーの首は宙に飛んでいた。




ナーニャの前に、リーの首が落ちてくる。


『・・っ、きゃあああああああああああ!』



ルーンが剣を抜いていた。剣の刃は、リーの血だろう。べったりと赤く染まっている。



『クレア、俺とナーニャとお前に防御魔法と結界魔法をかけろ。』

『なんで、あの奴隷女にも、、』

『クレア、お前に頼めることだ。ナーニャはまだ使い道がある。』


『わかったわよ。これがマサくんのためになるならやるわ。』

マサくんとか、なんなんだ。この距離感。



『くそ!ルーンを取り押さえろ!』

『ケインさん、お任せを!』


霧雨がルーンに向けて吹き矢を放つ。

ルーンは剣戟で弾く。


しかし吹き矢と同時に、ルーンの足元に何かを投げ込んだ。



爆薬だった。




激しい爆音とともに、床が崩落しルーンは落ちていった。



『お、おい殺しちまったのか?』


『わからない。』

『ミッション中の殺害は、死刑だぞ、どうするんだ、、』


『正当防衛だから、問題ないわよ。』


霧雨は落ちついて、イリノイノビスの焦燥を打ち消す。



『さて、依頼主よ。とりあえずダンジョンを出て話し合うのが良いかと思うがいかがかな?』


ケインも落ちついている。


『お任せしますよ、皆様に。』


かくして、俺らはダンジョンを出る方向で一致した。


♦︎

『皆様、お疲れでしょう。すこし休みましょう。』


大広間に出たタイミングで声をかける。


一同はゾンビ討伐に加えて、無用な殺生による疲労もあるようで、緊迫感が伝わってくる。


とくにイリノイノビスは顔色も悪く、ガタガタ震えながら何かを呟いている。


『ナーニャ、飲み物を差し入れてあげなさい。』


ナーニャはコップに、作ってきた紅茶を入れ、各戦士に回す。


『そういや、マサチカ?この依頼を請け負ったのって誰なの?』


『ああ、討伐団という名義にしてある。』

『討伐団?』

『うむ、名前を連ねているのは、5人と私とナーニャとクレアだ。』



ナーニャが霧雨とケインに紅茶を渡して、イリノイノビスに渡そうとするときだった。



ガチャん!


『い、いやああ!』


『て、てめえら。この女を助けたかったら、その契約書を渡せ!』


イリノイノビスがナーニャに剣を突き立てている。


ケインが真っ先に口を開く。

『どうした?イリノイノビス!?』

『ああん!?その契約書おかしいだろ。俺ら5人はわかるが、なんでその3人も名前を連ねている!この紅茶で毒殺して、報酬を掠めとろうという魂胆だろ!?』


『イリノイノビス、私達は紅茶を飲んでも何も起きない!大丈夫だ!安心しろ!』


『この茶を運んだのは、この修道女だろ?こいつが俺の茶にもったのかもしれない。そうか、この溢れた茶を舐めさせよう。おらっ!』


イリノイノビスはナーニャの首を掴み、床に顔を押し付ける。


『ほら、どうだ!毒紅茶の味わよお!』


『うぐぐ、痛いよお、、!!助けてマサチカ、、』


なかなかサイコパスでよろしいが、ちょっとメンタル弱そうだな。こいつは不合格だ。


クレアに合図を出そうとした刹那、鎧の男がふわりと宙を舞い、イリノイノビスの脳天に斧を直撃させた。


『え、、あ、、』


イリノイノビスの脳天は割れ、血を吹き出し絶命した。



『け、ケイン、、』


『霧雨、私も人を殺めてしまったな。この修道女の命がかかっていたのでな。しかしこれは正当防衛に足り得ないだろう。この際は、私は逃げ失せるかここで自決するかだ。』


『ケイン、、』


『だが、私はまだ死ねないのだ。よって、お前に報酬と仲間になる権利を譲る。私はここを去る。』


『私達があなたを捕まえなくては、見逃した罪に問われそうだが。』


『私に手負いにされ、逃げられたとでもでまかせろ。そのほうは得意であろう。』


コイツ、俺を見透かしてたか。しかしなぜ、ナーニャを救うために、こんなリスクを。


『では、さらばだ。マサチカ、修道女はもう少し優しく扱え。』


ケインは広間を去った。



♦︎

1時間後、ダンジョン入り口付近にて。


さて、残ったのは霧雨だ。とするとコイツが仲間か。しかしコイツはつまらないなあ。くの一は意外と倫理観があって壊れてない。扱いづらそうだ。

『霧雨さん、報酬と仲間に、、』


『マサチカさん、これは契約不履行ですよね。信用商売である、ギルドしかも後ろ盾に教会。告発します。あなた方もこれで、終わりだ。』


『クレア、転移魔法。』

『はい、マサくん。』





次の瞬間、霧雨の胴体は真っ二つにされた。



『よくやった、ルーン。君が仲間だ。』

『わ、私、ナーニャちゃんに許してもらえるかな?大丈夫よね、大丈夫よね、、。』


クレアの転移魔法でルーンを呼び、霧雨を仕留めたのだ。




♦︎

イリノイノビスが死んだ後、

すこし休憩時間を延長した。


その隙に転移魔法でナーニャをルーンが落ちた場所に送りこんだ。


『・・っ!』


『ああ、ナーニャちゃん、ナーニャちゃん。ごめんなさい、ごめんなさい。あなたに許してもらえるなら私なんでもします、なんでもしますからあ。』


ナーニャは紙切れを渡す。


『最後の1人になったら転移させるから、殺して仲間になって。』




『ナーニャちゃん、ありがとう。ありがとう。ありがとう。私、絶対殺すから。』



俺はこの仲間がいない5人の素性について前もって調べておいた。


それぞれ事情はあるものの、特筆すべきはこのルーンだった。


怒りで我を忘れると手がつけられない。

暴力を振るった相手の見舞いによく、行く。

追い返されてもずっとその人の部屋の前で泣きながら『許して。』と叫び続ける。



割とルーンのこのヤバさは村の噂になっていて、

気味悪がり、誰も近づかなかった。そんなおりに暴力を振るわれたナーニャが、許すというのだ。

従わないはずがない。


♦︎


『ナーニャちゃん、私、私やったよ!やったよ!』


ナーニャが近づく。


『人、殺しちゃったね。』

ナーニャに煽らせる。


『・・・・・!』

落ちつきを取り戻し、罪悪感に駆られたのか

頭を抱えて震えだす、ルーン。


『で、もね、ルーン。大丈夫。報酬をね、その、使えば、し、し、死体処理くらいできるから。』


『わかった。ナーニャちゃん、私報酬いらない!』


簡単なものだ。倫理観より感情が上回るタイプの狂戦士。まあ、最初のナーニャを襲う際には、

クレアにバーサクをかけてもらい、本当に軽く狂戦士になってもらったが。



『ルーン、君のような強い子を待っていたよ。ナーニャも歓迎している。うちのパーティに入らないか?』


『わ、私なんかでいいの、うう、うわあああん。ナーニャちゃあああん。』


『また体のでかい、お子様だこと。マサくんがいいならいいんだけど。』


かくして大した労力もかけずボディーガードと、50万の報酬を得ることが出来たのだった。


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