犯人の告白。
『パパー!今日はどこまでいくの??』
『ああ、地図のここまでだよ。』
『あたしもいくー!!』
『アルは、港でおじさんの手伝いだろ?』
『ええー。』
『いい子にしていれば、お土産買ってきてあげるからなあ!』
『ぶー。わかったよー。』
『アル、いい子にしてるのよ。』
『アルは間抜けだからなあ。』
『なあによ!ふん!お兄ちゃん嫌い!』
『じ、冗談だよ・・・。』
『はっはっは!アルには勝てないなあ!』
父は船乗りだった。
もともとは雇われの船乗りが50手前で自分の船を
持つことになった。
父は母と、2人のお兄さんと親戚だけでこの船の経営を行っていた。
母は料理がうまく、兄さん達も感じがよかったので常連がつくような船だった。
私も何回か乗せてもらい仕事を手伝った。
とても楽しかった。
あの日は私は乗船せず、お父さんの知り合いのおじさんの港での仕事を手伝うことになっていた。
『いってらっしゃーい。』
『アル!ちゃんと仕事するんだぞー!!』
兄さんが揶揄うように船上から叫ぶ。
『べー。』
あっかんべーで返す。
それが、私が家族の顔を見た最後だった。
異変が知らされたのは、数日後。
到着するはずの船が戻ってこないとこちらにきた連絡船からの伝達があった。
この海域は海賊などもいないはずだ。
嵐が起きたということもない。
私は孤児になった。
数年が経った。
私は仕事を手伝っていたおじさんに引き取られ港で仕事をしていた。
そんなある日だった。
ぼろぼろの客船が港に漂流したという知らせが届いた。
おじさんとその現場に向かう。
『お、おじさん、、あれ、、』
『間違いない、アルの父ちゃんの船だ。』
なぜこんな時間が経ってからこの港に?
すると、船からは何人か男が降りてきた。
当時の乗客だそうだ。
彼らの話によると、海賊に襲われて船員は
全員殺され抵抗しなかった乗客だけ海賊に拘束されていたそうだ。
しかし、誰が船の運転を・・・?
船は乗客らが買い取るという。
命を救ってくれた船員のためにも航行は続けたいのだという。
私は腑に落ちなかった。
だから。
給仕として乗り込むことにした。
新しい船長は、かなり女好きなようで、すぐに手を出してきた。想定通りだった。
彼とのピロートークで語られたのは、
自分は海賊であること。
この客船を襲い、乗客に見せかけて戻ってきた事。
船員は襲撃時、全て殺したこと。
今の船員は全て海賊である事。
すべてが明らかになった。だから、これで
私のなすべきことはよくわかった。
だから、私は船長の女になった。
船長の女になり、新しく給仕を雇った。
船長はその給仕にも手を出していたようだけど
愛のない結婚だ。何も問題ない。
私が雇った給仕だから、殺人の実行役を担ってもらう為、船長とは近い方がいい。
二等航海士のアレルギーを利用し、体調を崩す食べ物を用意し、部屋に寝かせる。
あれは、密室殺人ではないのだ。
二等航海士はたしかに部屋に入るまで生きていた。たまたま、椅子で寝落ちしてしまった彼を給仕が持ってきた毒針で殺した。
あのヤマダマサチカという男はさっきまで生きていた事を知っていた。
そのあと、私の偽装殺人を行い、アリバイが不要になった私は機関士を絞殺。
給仕が死んだのは計算外だった。
一等航海士を殺害する計画が狂った。
船長はたまたま姿がバレそうになったから突き落とした。実際は姿が見られてなかったようだ。突き落とされた瞬間以外は。
全て一等航海士に罪を押し付けるべく生き残ってもらった。1人なった瞬間、海に落として始末する。
私はやり遂げたのだ。
あの女騎士が厄介だが、そこはなんとかなるのだろう。
♦︎♦︎♦︎
『なるほど。わかりました。そういうことですか。であれば、私が見届けましょう。密室トリックに見せかけて、偽装殺人を行いあなたからの疑いを逸らしましょう。なあに、大丈夫。あなたの船ですからね。して、報酬はこのくらいですが、いかがですか?』
マサチカはアルリータ=ラムルドルフから相談を受けて、殺人計画を授けた事を思い出した。
ルーンが探偵ごっこと通報したのは計算外だった。なあに、問題ない。私に足がつくことはないのだから。
あの船にはすでに欠陥があった。
そうだから、アルリータがたとえ目的を果たしたところで、命は助からないのだ。
♦︎♦︎♦︎
私の船が沈んでいく。
船底に穴が空いたようだ。
私は、それを見つめている。
既に彼女は、生きていないのだから。
アルリータは、もう死んでいたのだ。
だったら私は誰なのか?そんなもの、あなた方に明かす必要はない。
また別の機会でお会いできますからね。




