痴情のもつれ
私は数ヶ月前に奥様に雇われたただの給仕。
それまでの人生は散々だった。
優しいお母さんが亡くなった後、
お義父さんは血が繋がっていない私を
子どもではなく1人の女として見るようになった。
何をされたかは思い出したくもない。
毎晩、毎晩私はお義父さんの寝室で弄ばれた。
お義父さんはそれに飽きたらず私を
商売道具として扱い出そうとした。
私が15歳の時、企みを知った私はお義父さんの寝首をかいた。
呆気なく人間は死ぬのだなと思った。
私をズタズタにした男の資産を全て金に換えて
私は再出発した。
資産があるのだ。
呆気なく私の育ての親は見つかった。
1人の中年男性。
私は親からの愛され方を忘れてしまった。
だから、引き取られた初日に、その中年男性の寝床で私は衣服を全て脱いだ。
『そんな事!そんな事しちゃダメだ!』
思えばこの時期が1番良かったのかもしれない。
中年男性は私を実の娘のように育ててくれた。
こんないい人がいるのだろうか。
しかし幸せは長く続かない。
中年男性は、いわゆる猟師で、弓矢を使い獣を狩っていた。ある日帰りが遅かったので、玄関先で待っていると、血まみれの中年男性が私に近づいてきた。
獣に襲われたのだろう。
私の前で彼は事切れた。
『なんで!なんで!私を、私を1人にしないでよ!』
傷口から彼の臓物に触れた。
『温かい・・・。』
彼から感じた最後の温もりであった。
1年ほどの幸せを終えて、私は1人で生きようと
考えた。
どんなにいい人でも、死をもって私を1人にする。
だったら、最初から1人の方がいいと感じた。
でも、私には1人で生きる術がない。
だから男を魅了し、引っかかった男を次々と始末した。私はかならず、中年の男性の死に様と同じ傷をつけて、そこから臓物に触れ温もりを感じることにした。
温もりがどうしても欲しかったから。
そんなこんなで、獲物を漁っていると、
奥様に声をかけてもらえた。
『ウチで働かない?』
私はもう安定しない生活に疲れていた。
だから、こんな脈絡のない誘いにのってしまった。
奥様はいい人だ。
だけど、船長さんはもっといい人だ。
今日はそんな船長さんに報告しなくてはいけない。
奥様が亡くなったこのタイミングであれば、ちょうど良かった。
♦︎♦︎♦︎
『おお、給仕君か。今日は気分でないのだよ。』
『お話があります。』
給仕はいつものような欲情した顔でなく、
何か凛としながらも少し喜びに満ちた顔だった。
『何かあったのかね。』
『船長。私、船長の子どもができたみたいです。』
一瞬、体が強張る。
給仕の顔を見る。
嬉々としている。
ああ・・・。
こんなこと。
『本当に私の子なのかね。』
その一言は言ってはならない言葉であった。
一瞥すると、給仕はナイフを持ち、こちらに剣先を向けてにじりよってきたからだった。
『うわああああああああああ!!』
その次の瞬間だった。飛びかかる給仕。
『うらああああっ!!』
タバコの灰皿を投げつける。
給仕の眉間に命中する。
そのまま崩れおちた。
『や、やってしまった・・・。』
恐る恐る近づく。
動かない。
脈をはかる。
脈はすでになかった。
致命傷だった。
『わ、私はなんてことを・・・・!!』
ようやく得たこの船長の地位を。火遊びごときで失うのか・・・。
『ゆ、遺言だ!』
金庫から遺言を出す。
『良かった。これに見立てれば・・・。』
怪しまれない。
この遺言ならば。
話をしておいてよかった。
遺言の中身を。
遺言に見たてて死体を処理することにした。




