第二の殺人。
『よお、にいちゃん。人が死んだってのにずいぶん余裕だな。』
『まあ、慣れちゃいるんでね。』
『この世界で命の重さなんて大したことねえけどよ。それはあ、目の前に敵がいえるからだぜ。』
機関士がタバコを燻らせる。
『俺はあ、海の男としてよ。いつ死んでも悔いはねえように生きてるよ。でもよ、そんなやつばかりではねえみたいだからな。』
ため息をつく。
『なあ、遺言ってなんだ?』
『・・・ああ、遺言か。なんだろうな。おまじないかな。いや、呪いだろうな。こんなことをした俺たちの。』
うみねこが鳴く。空はカンカン照りで、潮風が気持ちいい。
そんな爽やかな空気に似合わない重苦しい船内。
『にいちゃんには言えねえな。この遺言に巻き込んではいけないからな。ただよ。』
煙を一気に吐き出す。
『アンタはあんまり突っ込むな。死にたくねえだろ??』
機関士は階段を降りていった。
♦︎♦︎♦︎
『いや!あなた!痛い!痛い!』
『余計な、余計なことを言うな!』
このアマ。
遺言をお客様にも伝えるとかいいやがって。
乾いた音がする。
『いやあっ!』
夫人の頬が赤く腫れる。夫人の目には涙が滲む。
『客は巻き込むなよ。気高い遺言だぞ?お前はわからないのかっ!!』
『でも、あの人たちは巻き込まれたのよ!遺言を話さないと、不公平だわっ!』
腹パンをかます。
『ぐは・・・・。』
『なめた口聞きやがって・・・。誰のおかげで食えてるんだ、この売春婦が!!』
『ひ、ひどい。ひどいわ、、あなた・・・。』
叩いた衝撃で露わになる御御足。はだける胸元。
『へへ・・・悪かったよ。それよりよ。』
『いやっ!いつもそう、、あなたはそうやって私を。』
『うるせえ!!』
腹に蹴りを入れる。
嘔吐する。
『あーあ、汚ねえ女だ!ほら、風呂入れてやるよ!』
髪を掴み、浴室に連れて行く。
こんな女。
このくらいの扱いがちょうどいいんだよ。
♦︎♦︎♦︎
『よお、給仕さん。そろそろ昼飯かい?』
『いらっしゃいませ。どうぞお座りください。』
『めーし。めーし!』
修道女がはしたない。
『やはり、これは密室殺人!抜け道があるのでは!』
『うるさい方だ。お客様とはいえ。』
一等航海士がルーンをあしらう。
連れは脳筋ばかりで困る。
食堂には船長、一等航海士、給仕、そして俺ら3人。
『あれ?機関士は?』
『先程呼びに行きました。少し遅れてくるそうです。』
朝晴れとはうって変わっての曇空。
風も出てきた。
『ん?妻はどこだ?おい、給仕。呼んできたまえ。』
『あの髭、やな感じー。給仕さんはご飯係だっつうの!!給仕さーん、私が行くから早くご飯つくって!』
『しかし・・・。』
『ああ、優しいシスターよ。給仕、甘えなさい。早くご飯の用意を。』
ん?何か不自然なような気がする。
『よおし!お昼のためにひとっ飛びー!!』
ソフィーは自由な感じでよろしいが、なんか頭のネジが2つくらい取れた感じだ。
『まあ、これで、早く飯に・・・。』
するとソフィーの悲鳴が聞こえた。
『どうしたっ!ソフィー!!』
一同は廊下に出て、悲鳴の方に駆け出す。
『ソフィー!どうしたっ!』
夫人の部屋の前で、腰を抜かしてもよおしているソフィー。部屋を見ると、、
『な・・・。』
おびただしい血の量。
壁、床、机、ベッドまでが
ぶち撒かれたペンキのように赤く染まっている。
まるで、赤を基調にした部屋だったかのように。
窓は開け放たれて、窓のヘリには、
ナイフに尽きたてられた、ビリビリに裂かれた夫人の服だけが、潮風に旗めいていた。




