修道女を拐かす
『あ、あ、あ・・・・。』
燃やされていく、ワタシの街。
ゴオゴオと音を立てていく。燃やされていく人々。そこかしこで聞こえる断末魔の叫び。いやだ、熱い、助けて、死にたくない。。
そんな声が頭の中をこだまする。
『お姉ちゃん・・・。』
お姉ちゃんならどうしたんだろう。私はやっぱりダメだ。誰かの意思がないと動けない。私の意思は何もない。そんなものはない。
この革命も、私の意思ではない。
『お前は、俺の言うことを聞けばいい。』
そうだ、お姉ちゃんの代わりになるあの人。
マサチカ。マサチカの言うことさえ聞けば私は、私は、生きていくことが出来る。
だから、私はあの人のいるところに行こう。こんな燃やされた街は捨てて。
ふらふらと歩く。私が率いていた民兵団も炎に巻かれたのか、逃げ惑っていた。石畳を歩く。建物が音を立てて焼け落ちていく。
よく行ったパン屋、八百屋、クリーニング屋。
看板が焼け落ちていき、名前も消されていく。
私の思い出は消されていく。大丈夫そんなものはない。お姉ちゃんがいなければ、あの人に従えばいい。
人影が見える。
剣を構えた女騎士とすらっとした男性。私の、新しいご主人様。司令官。
♦︎
『マサチカ、どうするの?占拠するはずの都市が燃えているわよ。』
ルーンは俺の顔を伺う。
『いや、これは俺のミスだ。あの修道女の思考行動パターンは知っていたのに。ツメが甘かった。』
『どうするの?近づいてくるわよ。』
『・・・。まあ、仕方ないさ。ルーン、剣を抜け。』
ルーンは鞘から剣を抜く。
そのまま、ソフィーの元へ走る。
ダッダッダッ!
『いやあああああああああああああっ!!』
大きく振りかぶった剣はソフィーの首をめがけ振り下ろされた。
3日後。
ザッザッ。
『はあ、、全然、街ないな。』
ザッザッザッザッ。
『食糧と水はあらかた宗教都市から持ってきたからなんとかなるが・・・、そろそろふかふかのベッドで寝たいわよね。』
ザッザッザッザッザッザッ!
『おーい、ソフィー。大丈夫か??』
『も、申し訳ありません。お兄様。』
『お前はもともとシスターだからな。おーい、ルーン今日はこの辺で野営しよう。』
『はあ、マサチカはソフィーに甘いな。まあいいか。』
ソフィーは連れていくことにした。
振り下ろした剣は首のあたりでスレスレで止めた。
『ひっ、ひっひいいいいい!』
ソフィーが座り込んだ石畳が彼女の着ているスカートごと湿っていく。休止に一生の気分なんだろうな。
これも、演出だ。
『ソフィーどうする?ここで野垂れ死ぬか、俺に服従するか。今、決めろ。』
ソフィーは震えながら、涙を浮かべ引きつった笑顔で目を見開き答える。
『は、はい。もちろん、従いますわ、お兄様。』
脅迫するまでもなかったが、明確に俺に従えという指示は彼女に必要だった。加えて明確な上下関係を今から叩きこんでおく。
そのまま食糧庫をあさり、宗教都市を脱出したのだった。
俺はツメが甘い。この異世界を征服したいが、個性的な女たちに邪魔されてしまう。ただ、まだこの異世界でたった2つ。都市や街はまだまだあるはずだ。ならば無いものねだりでなく、次の街こそ手中に納める。俺にはこの世界をとらねばならないから。




