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真っ直ぐすぎる少女

『はっ!はっ!』


『素振りにせいが出るなあ、ソフィー。』


『マサチカ。お姉ちゃんの指示だからね。あなたはいざというときに立ち上がれば良い。体だけは鍛えておきなさいねってね。』


『お姉さんの事、慕ってるんだな。』


ソフィーはまっすぐ前を向き、ひたすら剣を振っている。大したものである。ソフィーは姉に命じられてから、剣の素振りを1日たりとも休んでいない。師匠はルーンだ。


『お姉ちゃんの指示は絶対なの。お姉ちゃんの言うこと聞いていれば、全て上手く行く。』


『シスターになったのもそうなのか?』


『そう。シスターになってあなたは人並みの暮らしをしなさいって。大変なことも多いだろうけど、頑張りなさいって。』


『貧民街にいたのも?』


『仲良くしておきなさいって。いつかあなたの味方になってくれる人ばかりよって。』


『じゃああの勝負も?』


『うん、注目を浴びておきなさいって。頼れる人かどうかはお姉ちゃんが判断するからって。』



全て姉の指示に従うか。




『その、、、お前はこれからどうしたいんだ?』


『・・・・・・・。』


訪れる言葉の凪。


剣を止めて、鞘に納める。

太刀筋はルーンほどでないが、悪くない。



『ルーン、どうだ?ソフィーの太刀筋は?』


『悪くないわ。あとは実戦経験が積めればね。』


『実戦か・・・。』


『なあ、ソフィー、戦いたいか?』


『お姉ちゃんがそれを望むなら。』



全ては姉の庇護下にいたい、という事か。

ソフィーは姉がいなくなったら、何を指針にして行動するのだろうか。何を糧に生きていくのだろうか。そうなった時のソフィーを俺は道具として、上手く扱えるのだろうか。


恐ろしくなる。人は一人一人違う。行動規範も常識も全て違う。だから、その人に合わせたプランニングが必要だ。


姉の方はほぼ完了。

妹は正直この先の展開に進むかどうかは

ギャンブル的要素が大きい。



不安ではある。指示がないから、死を選ぶなんてことも想定にいれながら準備は進めてきた。

しかし、支柱を失った人はどうなるか。これまでの詐欺経験でもこういった経験がないわけではない。しかしながら、法治国家の日本での経験だ。

正直、どう転ぶかわからない。


ソフィーはまっすぐ過ぎる。

まっすぐな人間が1番怖い。




しかし、切り出さねばならない。



『ソフィー、宗教都市に行かないか?お姉さんが戦っている。』

『いい。お姉ちゃんはここにいろって言ってたから。』

頑として言いつけを守るソフィー。

剣をまた取り出して素振りを再開する。



『お姉さんの勇姿は見たくないのか?お前の為に戦うお姉さんの姿を。』


大好きなお姉さんの姿。自分のために命をかけている姉の姿。


剣の動きが止まる。

俯いたまま。



『ほら、お腹だって空いてるかもしれないだろ?何か差し入れしてあげよう。』


顔をあげてこちらを見る。



『それはお姉ちゃんが望んでいるかな?』

『お前はお腹空いてたら、どうして欲しい?』


顎に指を当てて考える。


『そんな時、お姉ちゃんは頑張ってご飯を手に入れてくれたよ。でも、今のお姉ちゃんはそれを望むのかな?』



まっすぐ、人形のように表情がない顔つきでこちらを見る。ここまで意思のない人間がいるのか。否、姉の望むことなら喜んでやるのだ。しかし、明言されてなければやらない。言葉としてそうしなさいと。自分の心がざわつくのがわかる。

この後このソフィーをどう扱うべきか、そればかりが頭によぎる。


言葉で動かせない人間がいる。

信頼関係を超えた言葉などないのだ。



人間理解が足りなかった。

クレアにしても、アーニャにしてもどうすれば俺の言うことを聞いてくれるか理解出来ていた。

ルーンもわかりやすい。


しかし。絶対的な誰かにとって代わることができないならば、その誰かに頼らなくてはならないのか。



それは、ソフィーにとってのフィアなのだろう。

俺ではない。だから俺じゃ、騙せないのか。



『・・・・っ。』

歯を噛む。



そんな時だった。

『た、大変だー!!宗教都市の反乱軍が寝返った

!売春ギルドは崩壊!反乱軍に与するものは全て処刑だそうだっ!』


貧民街の男性が焦った様子で駆けてくる。


『・・・・!!お、お姉ちゃんわっ!?』


『ああ、ソフィー。フィアちゃんも参軍してるんだよな?生死不明だ!』



『そ、そんなあ・・・。』


ソフィーは腰を抜かし、その場に座り込む。


ソフィーの前に立つ。


『ソフィー行くぞ。大好きな姉さんがピンチだ。ルーン、ソフィーをたたせろ。』


ルーンが近づき両脇を抱えあげる。

しかしソフィーは全身脱力しており、ルーンの力ですら重そうだ。



『お姉ちゃん・・・こういう時は・・・どうすればいいの・・・?ねえ、ねえ・・・指示を出してよ・・・。』


フィアよ、恨むぞ。

こんな融通効かない妹になったのは、お前のせいだ。


バチーン!



張り手を頬にくらわせる。

ソフィーの頬が真っ赤になる。

『痛いよぉ・・・お姉ちゃぁぁぁん・・・うわあああああん。』


ソフィーは子どものように泣き出す。

否、ソフィーの思考は子どもより幼い。否、抑圧されたものか。


『お前!お前、姉さんが死んでもいいのかっ!立てっ!立って、姉貴を助けに行くぞ、このバカタレがっ!!』




なんでも頬を叩く。

目を覚まさせる。

なんども、なんども。

その度にどんどん頬は赤く染まる。



『マサチカ、その、あまりやり過ぎたら、死んでしまうぞ・・・。』


『このまま野垂れ死ぬか、姉を助けるか、お前がっ、お前がっ、選べっ!!!!』




叩き疲れた。


俺の手も真っ赤だ。

もうやめよう。間違えた。コイツの方がいらなかったんだ。間違えて・・・・・・。




カチャ。

ソフィーが剣を立てて立ち上がる。



息があがって膝で両手を支えている俺を見下ろす。


俺はその顔を見る。

そして、気づいた。コイツはやっぱり真っ直ぐなんだと。まっすぐすぎて、融通がきかないだけだと。



しかし道が変わっても、まっすぐなんだ。



『私、お姉ちゃんを助けに行く!』


扱うにはしんどいまっすぐな少女だった。

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