教会と奴隷商売
さて朝がきた。
隣では、クレアが寝息をたてている。
まつげは長く、体の線も悪くない。ただ、たぶん恐ろしく依存的な女だ。
味方がこの村にいないとはいえ、同じ村の村民たる女を魔窟に転移魔法で、飛ばすようなやつだ。
しかも出会って日が浅い男の指示によって。
何かにすがることしかできない弱い人間なのだろう。
さて、今日はあの人質の女と話しをしなくてはならない。
確かやつの身元を引き受けたのは教会だったな。
なぜ教会なのだろうか。
♦
「シスターはいるか。」
「はいはいこちらにおります。」
「昨日、身元を引き受けてもらった女を助けたものだ。あの女と会いたいのだが!」
「はあ・・・何用で?」
「それはおぬしに話さなくてはならないことなのか。
どんな人間を助けたのかくらい知りたいと思うのが人というものだ。」
「それがですね、大変心を病んでおりまして、寝込んでしまっておいでなのです。しばらく療養が必要かと思われます。」
「なんと、おぬしは医師もやっておいでか、それは失礼した。」
医師でないことは知っている。
おそらくこのような中世の世界は教会が
なんというか心のよりどころとしてメンタルケアのようなことも担っているのだろう。
「それは失礼した。いささか病んでいる様子だったのでな。すこし見舞いをと思ったが。これを渡してくれ。」
金の入った袋を渡す。
「これは、これは。神のご加護がありますように。」
宗教なんてこんなものなのか。
神とか悪魔とかの信仰があるだろうとは見越していたが、
おそらくそんなものは金稼ぎの名目でしかなく、献金したものに加護を与えて安らぎを売っているのだろう。
そんなものは現代でいう、ビジネスでしかない。
ただしかし、非常に合理的である。
しかし、なぜあの女一人を隠そうとするのであろうか。
教会が身元を引き受けたあたり、教会関係のものなのだろう。
しかし、ゴブリンに捕まったことにより表に出せない事情ができた。
そういう仮説をたてるのがよさそうだ。
このあたりの教会の闇の部分を探るには誰がいいのだろうか。
こういうのは探るのは禁忌としているし、村民も冒険者もおそらくアンタッチャブルな空気感を出してくるだろう。それは詐欺師としては分が悪い。
ならば。
♦
「マサチカ様、本日もお祈りにお越しいただき、ありがとうございます。」
「いや、シスターの顔を見るとね、こう安らいでいくからなあ。これ、今日も。」
「ああ、神のご加護が与えられますよう。」
「ふむ。そういや、教会で足りない備品などはないのか。信仰のためならば、いくらでも出すぞ。」
「それはそれは、実は表はいいのですがすこし教典などを置く書庫が手狭になってきまして。。」
きたきた。教典なんて今更そんなに増えるわけがないのだ。ならば、そこに何かがあるとふんだ。
「その書庫とやらは見せてもらえぬのか、私も教典をみたくてね。」
それっぽく伝える。そしてシスターに近づき、封筒を渡す。
「これはシスターへの個人的な支援だと思ってくれていい。」
「かしこまりました。」
シスターは簡単に書庫へ通してくれた。お付きの者としてクレアも帯同させた。
鉄の扉が開かれる。
「おお、これは立派な教典がたくさんあるな。シスター。」
そこには、牢屋がたくさんあり女子どもがたくさんいた。
「このものらは、みな、身元がなくてですね。ただ、信仰心がお強い支援者の方々が定期的に神のおぼしめしで引き受けていただけているのですよ。」
「まああれか。シスターはこのもの達に働き口を提供しているわけだな。」
言い方次第だが、ようはシスターは行方不明者などを引き受けて奴隷として売り飛ばしているわけか。この教会が村の生活水準に比べて内装や外壁が立派なのはそういうことか。
「シスター、私が助けたものはまだいるのか。」
「はいおります。」
シスターの手招きによってその女の前に3人はきた。
「ひっ・・・・・・・・・!!!!!!」
女は震えている。
「しかしなぜこの女にそれほど?」
「ああいや、こういうのは殿方の邪気を払うのが得意そうでな。」
「そうですか、そうですか。。」
女は意味を察したのか叫ぶ。
「もういやああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「こいつをもらい受ける。」
「かしこまりました。どうか神のご加護を。」
俺はこの女をどうこうしたいとかで買ったわけではない。もちろん、商売道具にするためでもない。
クレアが言ったのだ。
「この女の治療魔法はかなりのものよ。私が持っていないものを持っている。」
だからこそ買い受けた。
さて、宿屋に連れていき、歓待することにするとしよう。