肉への執着
フィアは頼んだTボーンステーキを赤ワインで流し込んでいた。
ステーキから血が滴る。滴る血を皿ごと舐め取りながら、赤ワインを飲む。
さながら、足りなくなった血を吸い取るような
吸血鬼のような血への執念。
後から振り返っても、昂りを抑える気などなかったのだろう。
『肉、好きなんだな。』
『肉はいいわよ。闘争本能を鎮めてくれるからあ。お肉だーいすき。』
Tボーンステーキの骨の髄までしゃぶる。
唾液が骨につきすぎてテカテカだ。
顔は紅潮し、唇が灯りで反射するほどの潤いでみなぎっている。
『すみませーん、ターキーと子豚の丸焼きください!』
『よく食べるな。』
『ええ、取り戻したいの。肉が、私の人生で足りてないの。』
ターキーと子豚の丸焼きがくる。
子豚の頭から歯で肉を引きちぎりながら喰らう。
獅子が獲物を喰らうように、生命をいただく。
赤ワインで流し込む。
このプロセスが彼女を獣にしていないのだと
認識し直せる所作だ。
あんなに温厚な振る舞いをしていた人間とは思えない。
『子豚はなねえ。お腹が1番美味しいの。』
豚は生では食べれないから、血は滴らないくらいちゃんと火が通っている。
『肉が、、その足りてないか?』
見惚れた俺は意味不明な質問をする。
フィアは脂でまみれた口元に笑みを浮かべる。
『肉がない時間が長かったもので。小さい頃はぐずぐずの腐りかけの野菜ばかり食べてたからねえ。』
フィアの生育歴は不明だが、
おそらくあの売り物にならない野菜を食べていたのだろう。
しかし、なぜ?あんなものを。
『フードロスや余り物って必要なとこでは、需要がすごいのよ。市場で売り捌くつもりなんてもともとないもの。』
『どこで売れるんだ?』
『もうわかるでしょ?』
そうこの都市の教団の負の資産の全てを押し付けられる場所がある。
『貧民街に高額で流すのよ。それでこの都市は儲けているの。私はこの街にずっとずっと搾取されて育ってきたのよ。』
豚の太ももを食いちぎりながらフィアはそれだけ告げた。




