魔法使いの女の子
「うう・・・・ここは?異世界か。」
俺はどうやら無事異世界にたどり着いたようだ、
周りは木が生い茂っている。昼間だがひっそりとしており、樹海なのか
太陽の光も木漏れ日程度に差し込むくらいだ。
木の根の生え方も地面にうねるように生えており、まあなんというか
原生林に近いような構造をしている。
足下は湿り気があり、注意していないと滑って横転してしまう。
すこし歩く。木漏れ日の位置から方角をなんとなくわりだして歩いて行く。
こちらなら何かあるはずだ、と思いながら。
たまに鳥の声がするが、獣すら寄せ付けないような深い森。
ひたひたと歩いて行く。
30分ばかり歩いていると、水の音が聞こえてきた。
「池か沼でもあるのか??」
水音のする方に向けて歩いて行く。
そこにはひっそりと、控えめにある小川というべきか、この深い森にも
このようば水源があるのかというくらいの池があった。
その池では、なんともなまめかしい姿の発育のよい黒髪の女性が
全裸で水浴びをしていた。
「だれっ!」
俺のこの挙動でこのあとのこの世界のおける立ち位置が変わってくるはずだ。
だからこそ、いわゆる異世界の主人公というよりかは堂々たる立ち振る舞いで
正々堂々凝視してやることにした。
「いや、この深い森に迷ってしまってな。お嬢さん、辱めるつもりは毛頭ない。
私はこの迷走たる森を抜ける為の手引きがほしくてな。」
女性は胸を両腕で隠し、顔をすこし紅潮させているが
つとめておとなしく対応する。
「あまり人を信用していないのだけども。あなたが私の裸をのぞきにきたわけではないという
証拠は何かあるのかしら。」
こう毅然と対応してくるタイプか。。
こういうタイプは嘘を見抜くというか嘘でなくとも、猜疑心が強いタイプだ。慣れるまでは。
「お嬢さん、疑いの目を向けられることはわかる。だったら、私も裸になり、
武器をもっていないことでも証明すればよろしいかな??」
すこし変化球を加えながらユーモアを持たせてみる。どうでるか?
「・・・・そんな嫁入り前の女性が見ず知らずの男の裸なんてみれるわけないわ。
着替えるから向こうをむいていて。」
ここはおとなしく従う。
水から出る音、衣擦れの音が聞こえる。
「いいわ、こっちを向きなさい。」
そこには見事な黒髪に赤いマントに、黒のハーフパンツと黒のブラウス、赤い魔女がかぶるような
帽子を身に付けた見事な魔法使いというべき出で立ちの女性がたっていた。
「なによ・・・。」
「申し訳ない。すこしみとれていてね。」
「・・・・っ!」
顔が紅潮している。おそらく恥ずかしさの表れだ。男との恋愛経験が疎そうに見える。
すると年は10代中盤くらいか?この世界の恋愛事情はわからないが、
発育と肌つやを見る限りそのくらいかと推測される。
「で、あなたは何もの?」
「私か?私は旅のものだ。」
「旅人がこんな深い森にいるわけないでしょう。こんな獣すら寄せ付けないような森に。
・・・・あなた勇者かしら?」
勇者と深い森は何か関係があるのだろうか。
まあある意味手ぶらでこんな森を歩いているのだから勇者といえば勇者か。ここは嘘のないように
つたえねば。
「まあこのような深い森に丸腰で歩いているのだから勇気ある者だな。名前はヤマダマサチカ。」
「珍しい名前なのね。」
「お嬢さんのお名前は?」
「私に名前を聞くとか命しらずね。深い森にいてこんな出で立ちなら魔女とか魔法使いとか
すこし邪に近いものだと警戒しないのかしら。勇ましい方は。」
魔女か、魔女というより魔法使いという感じの方のイメージが近いような気がするが。
「名前は教えてくれぬのだな・・・。」
少しうつむく。悲しそうに。
「え・・・いやそんな悲しまれても。。。。私は、クレア。魔法使いよ。」
うむ、こいつはそんなに人生経験は豊富でない。このくらいで感情を揺さぶることができるとは
警戒心でなく、単なる人見知りなのかもしれない。
ならば・・・・
「クレアか!ありがとう名前を教えてくれて。その素敵な名前だな。」
クレアは顔を紅潮させる。
「そんな優しいクレアに頼みがあるのだが、、森を一緒に抜けてくれないか。その私はそんなに
強くはないのだ。あなたはその魔法とかすごそうな気がしてね。」
「わかる!?わたしがすごい魔法使いだってこと・・!?」
読みはあたった。すこし頭を働かせればわかる。女一人でこの深い森にいて、男一人に
臆することがないのであれば単純に強い。で、装備から見ればそのあたりだろうと。
「ああ、なんかオーラがすごいからな。美しく気高いオーラがな。」
「わ、わかる男ね。さすが、勇者。」
さてこんなチョロい魔法使いとともに、森を出ることにしたのだが、
早速モンスターに遭遇することになるのである。
♦
森の木々が明らかに変わった。道すじがあり、土も乾いている。
木も根がうねうねしておらず、まっすぐ立っている木ばかりだ。おそらく、
商用の木々を植えていて、その場所なのだろう。だからこそ、
こんな場所にモンスターが出るとは思わなかった。
10体のトカゲで二足歩行、槍をもっている。
「なんでリザードマンがこんなところに!?」
クレアは詠唱を始める。
「ファイアボール!」
ボウリング球くらいの火の玉が8,9個一斉に放たれた。
みるみるリザードマンが焼け死んでいく。
1体残ったリザードマンがクレアに襲いかかった。
「詠唱が間に合わない!!!」
チャンスだった。
クレアをかばい、リザードマンの槍が二の腕をかすめる。
「うぐあ!!」
さすがに痛い。
「そ、そんな大丈夫・・・・・!?」
「ああ、今のうちに。」
クレアは詠唱し、リザードマンを焼き殺した。
♦
「大丈夫・・・・・!?」
「うむ、かすり傷だ。気にするな。」
「でもでも。。。」
うむ、こいつ魔法の力はたぶんすごいが、実戦とか命のやり取りはまだ少ないのだろう。
「クレアとりあえず、美しききみの体に傷がつかなかったことが何よりだ。嫁入り前の
女性に何かあったら、、、クレアの親に顔向けできない。」
「そ、そんな・・・・。そんな為だけになんで命はって・・・」
すこし涙組んでいる。大げさだが、おそらく一度で全員を仕留めきれなかった自分の
未熟さと命が確かに刹那、危険だったことと、それを男性に助けられ
あまつさえ傷つけてしまったことで多少の混乱があったのだろうか。
「それに、きみを人目みて守ってあげたいと俺自身が感じたからかな。その・・・・
きみはとても美しい。」
「・・・・・っ!」
やはり顔を紅潮させる。
「その良ければいきなり恋人なんてハードルは高いだろうから、仲の良い友人から
はじめてくれないかな。こっちに知り合いがいなくてね。美しいきみとなら寂しさを感じることなく
やっていけそうだ。」
「・・・・うん。。」
こんな単純なのか、こちらの女性は。いや、たぶんこの女が箱入り娘もしくは、
たぶんこの手のタイプは友達がいないのだろう。
とにかく一人、仲間はできそうだ。
♦
「ここが私の村よ。マサチカ。」
きれいな村である。風車があり、田んぼがあり、自然豊かなだけでなく
酒場やギルドもあり、宿屋、市場、武器屋があるそうだ。
「マサチカはどうするの・・?」
クレアは上目つかいで聞いてくる。
「その実は無一文なんだ。ギルドで登録して金を稼ぎたいとは思うのだが・・・」
「わかった。お母さんにいって、部屋を1つあしらってもらう。」
「そんなに部屋数があるのか?」
「うん、だってうち宿屋だからさ。」
こうして、女一人たぶらかし、寝床も得た。さすがに稼ぎは必要だが、
このクレアたる魔法使いは戦う力もあるからせいぜい利用させてもらうことにしよう。
さあ、偽の勇者の冒険生活のはじまりだ。