村長ご乱心
株式は、簡単に言うとある会社に出資することで
経営に口出しできたり、利益が出たら配当金という、利益出たから分配しますねーというお金がもらえたりなどの仕組みのことだ。
経営に口出しできるということは、誰を社長にするとかそのあたりも口出し可能ということになる。
現実では全発行株式の何パーセントがあれば、どのくらいの影響を持てるかなどが決まるものだ。
しかし今回は異世界にそれっぽい仕組みを導入しただけだ。
経営権を全て買い取った。
しかも、現実ではありえない、自治体の経営権をだ。
村全体にお触れを出し、
経営権がアーニャに移ったことを周知する。
『アーニャ様なら安定だわな。』
『二代目はなんか改革だとかなんとか言ってて意味わからなかったからな。』
こんな契約書よりこちらの世界では、
こういった民衆の心を掴めるかが肝だ。
だから、経営権の移行なんてものは大したことはないのだが、アーニャのイメージ戦略の為だ。
正しい手続きで合意のもと、
経営をバトンタッチしたという事実が重要である。
ちなみに実はこの前の会食以前に、
執事とは内通していた。
金を積み、
『改革派の村長』を演出するよう指示した。
内部崩壊のキーマンではあるが、
正直味方にはしたくない。
俺に対して妄信してくれないとダメだ。
恋愛感情や憧れ、信仰など、目に見えないが
俺のいうことは金目に関係なく従う。
そういったのが手駒たり得るのだ。
まあ、とはいえ企みを知る人物として無碍にはできないので、村の税収の10%を年俸にして渡すことで合意した。
あとは、この暗愚な村長をどうするか。
『ぼ、僕は認めないぞ!おい、村民!よく聞け!』
ビービー騒ぐ成人男性ほど見苦しいものはないな。致し方ない。今まで親の七光りでしか、生きてきてないのだから、はしごはずされたらどうしようもあるまい。
後は、村長を正統な理由で排除できればいいだけだ。
理由がないなら作ればいいのだ。
クレアの転移魔法を使い、
村長の部屋に拳銃を置いておいた。
『村長さん、契約書交わしたんだろー?』
『見苦しいで、お父さんはあんなに立派だったのに。』
『じいや!じいやはどこだっ!』
『はい、ここにおります。』
執事は荒れ狂うかつての主君に近づく。
『じいや!これは、どういうことだ!』
『どういうことも何も、ご主人様が捺印した契約書がここにございますが。』
執事は村長に見せる。
村長はその契約書を見ると烈火の如く、
怒り出した。
『こんな!こんなの、記憶にないぞっ!』
『左様ですか。ご主人様、よく飲んでいらしたからですかね。綺麗どころともお楽しみで。』
村長の顔が、強ばる。
ヒソヒソと村長を揶揄する声が聞こえてくる。
『そんな大事な場で酒かよ。』
『女遊びにうつつを抜かすからこうなるんだよな。』
『くそくそくそくそくそー!ふざけるなっ!』
ズドン!
『ご、ご主人様・・・。』
執事の下腹部に風穴が空いていた。
そのまま倒れた。血が吹きだしている。
『きゃあああああああ!』
『くそ、村長を取り押さえろっ!』
広場は、悲鳴と怒号で埋めつくされる。
執事の顔は血の気がなくなっていく。
村長は錯乱し、あたりに銃弾を撃ちまくった。
村長様ご乱心。
まさにシナリオ通りだった。
村長はその後自らの頭を撃ち抜き自ら命を絶った。
執事もそのまま倒れ、帰らぬ人となった。
その日の夜、
俺はアーニャを自室に呼び出していた。
『な、なんでしょう、マサチカ様。』
『今回はよく頑張った。』
アーニャを抱き寄せる。
『あ・・・。』
柔らかいキスを交わす。
『お前がいてくれて、助かるよ。』
『ま、マサチカさまあ・・・。』
これもまた戦術だが、少なからずアーニャに好意はあった。しかし、やはり色恋は拗らせると破滅に繋がる。
俺とアーニャの様子を見て、歯を噛んでいる女がいたことを俺はうっかり忘れていた。




