村長の追放
『いやはや、本日はお越しいただきありがとうございます。』
『いえ、こちらこそご招待に預かりありがとうございます。』
村長と執事。
アーニャと俺。
村長とアーニャで挨拶をさせる。
今日のアーニャの仕事は終わったと言ってもいい。
ワインが給仕によって注がれる。
乾杯の発声はこちらで行う。
『では、このよき日に乾杯!』
運ばれてくる料理。
芳醇な香のするワイン。
きれいに並べられた食器。
一流の調度品。
村長を迎えるにあたりかなり金をかけた。
後から回収できるから問題ない。
村長はだいぶ若い。
20代前半か?中肉中背で顔は良くもなく、悪くもなく。着ているものこそ、少し高めだが、着こなせていない。わざとだろう。執事の着こなしが見事すぎるのだ。白髪だが、見事な白髪でひげも整っており、着ているタキシードは年齢にも体型にもバッチリ似合う。村長より、きまっている。村長を立てる気はないようだ。自己顕示欲が強い。
見立てが当たってそうだ。
この執事は、村の経営にはたぶんそんなに興味がない。
さて、村長の暗愚さを確かめる質問をするとしよう。
ここでアーニャの権威を失墜しない為にもある設定を作った。
権威あるアーニャ様は、村民とは直接話さず必ず臣下のマサチカに耳打ちし、マサチカが全て代弁する。
言葉を交わすのは恐れ多いとの印象を与えるのだ。
また、アーニャの顔には布をかけてある。
普段は顔を見せてるが、食事の場では咀嚼や口に物を運ぶ姿を下々に見せられない、というちょっと違う感じ、神々しいまではいかないもののそのような演出を加えている。
敢えて説明もしない。
アーニャが耳打ちする。
何も話してはないが。
『えー、アーニャ様は、なぜ昨今村長は選挙制の導入や、税の改訂などの変化をこの村にもたらそうとしているかお尋ねになりたいようで、答えてもらえないだろうか?』
村長は完全に慌てふためいている。
目が泳ぎ、フォークを床に落とす。
執事も自ら助けようとしない。
『じ、じいやあ〜。』
村長が情けないような声で執事に声をかける。
そこで初めて執事は反応する。
『村長、公の場ですぞ。そのくらい勉強なさいませ。コホン、えー、確かに変化を加え民は少し戸惑いを感じています。しかしながら、世襲とはいえ安定よりもよりよく改善していく為には変化が必要なのです。』
こいつもっともらしいことを言っているが、わかりづらい。よおく、わかった。実務には興味がなさそうだ。
『おー、そうだ、じいや。星の占いでもそう出ていたなっ!』
村長は肉を食らいながら話す。くちゃくちゃ言わせながら、マナーがなっていない。
星占いって・・・。
いつの時代ですかね、占いに頼る政治って。
『ですので、改革をしてきたアーニャ様よりお告げがあるとのことで本日はどのようなお話かと思い馳せ参じた次第にございます。』
執事はいきなり核心にふれる。
話が早いやつは嫌いじゃない。
その前にだ。
パンパン!
手を叩く。すると、少し露出度が高い服を来た、艶やかな女性が数人現れる。
『村長様にはお楽しみいただきたく思いますがいかがかな?』
『い、いいのか!じいや?』
村長の鼻息は荒い。女遊びと美食に溺れて国を滅ぼすタイプの君主様だな。村長だけど。
『別室にお食事と酒もございますゆえ、お楽しみくださいませ。』
『村長、あとはじいやにお任せを。』
村長は両手に美女を抱き寄せ、ニヤニヤしながら、別室へと向かっていった。
さて。
『執事殿、話が早くて助かります。』
『それは、こちらの話にございます。』
『して、月いくらぐらいあれば、執事殿のお仕事ははかどりますかな?』
『そんな、ただ、献金していただくなど何かこちらも与えねばなりませぬこと。』
顕示欲
金と形だけの権力
それだけなのだろう、この男は。
女にも見向きもしなかった。
『では、そうですね。村の経営を私に委託していただけませんかな?』
『ほう、それは、それは。アーニャ様の手腕でしたら、ぜひとも。短期間で、これほどの信仰を集めたお方ですからな。しかし、献金はどう処理しますかな。都への事業報告にどう記載すべきか。』
『では、経営会議の参加券ということで、私がそれを買ったということにしてはどうでしょうか?』
『なるほど、経営会議で実質は経営を委託すると。新たな制度ですな。』
日本の株式に近い形をとる。
配当金を出せるほど裕福ではない為、そこは物での配当にする。経営会議の参加と物品の配当なら都も文句はあるまい。
『では、契約書にサインと捺印を。』
執事はやはり、契約書をパラパラとめくって、村長の名前の入って印を押した。
『では今後ともご贔屓に。』
その後は和やかに会食は進み、締められた。
村長は惚けた顔で別室から出てきた。キスマークだらけで、着衣は乱れている。もうこの村も長くはないだろう。
さて、会食から数日が経ったある日。
『な、なんで、僕がっ、僕が解任なんだ、!!じいやは、じいやはどこだっ!!』
村長が荒れ狂っていたのである。




