計略を仕掛ける!
この村の長である、
村長は村を作り上げた初代から継承した2代目の村長だ。
初代の村長は非常にリーダーシップがあった。
よく働き、改善が必要なものはすぐ改善。
能力のあるものをすぐ登用し、罰もしっかり行った。
村の立ち上げには金が必要で、村民には貧しい時代を経験させてしまったこともあったが、
同じ風呂に入らんとして、自らも質素倹約で村民と同じ生活を行う改革者、起業魂溢れる村長だった。
さて、そんな偉大な村長も、教育は苦手なようで
暗愚な2代目が村長を継承する頃には、側近たる執事に愚痴をこぼしていたようだ。
この執事が食わせ者であった。
『ふむー。似たような話を中国史で聞いたことがあるな。』
宦官である。かの漢王朝の立役者も晩年は、宦官に身を委ねることがあったとか。
執事も初代村長の心のオアシスとして、よく話を聞き、酒を酌み交わしたそうだ。
村長業務を執事にも教えて、暗愚な2代目を支えるよう頼んだようである。
しかし、執事は野心家であった。
世襲制を破壊し、自らがこの村を乗っとろうとしているという噂がある。
それを証拠に村長を選挙制にしようだの、改革なんだの2代目に吹き込んでいるようなのだ。
そんな情報収集ができるのもアーニャが教祖的扱いを受けているからである。
信仰は強い。
アーニャの元には金も情報もよく集まる。
もちろんアーニャもただの傀儡であるから、実権は俺が握っているのだ。
民は平和であるならば、改革を嫌う。
変化というのは心理的に厳しいのだ。
それを己が上司に吹き込むというのは、
牙城を崩しにかかっているとしか思えないのだ。
この執事と取引がしたい。
こちらには金と情報、そして教祖がいる。
あちらは現政権を内部崩壊できる距離感がある。
『クレアの宿の飯は美味いよな。あれはお母さんが作ってるのか?』
『違うのよ、マサチカ。宿屋には実は王都で宮仕えしていたシェフがいてね。だからあんなに美味しいのよ。』
こんな寂れた村になんで、
そんな人材がいるのだろうか。
『ここだけの話、そのシェフとお母さんができてるのよ。』
このバカ女は楽しげにヒソヒソ話を耳に当ててしてくる。悪寒がして、倒れそうだ。息がくさい。
クレアの父はすでに他界。このバカ女も、見目は悪くないから母親の遺伝子だろう。
女盛りの未亡人が宮廷料理人を己が肉体で、
引き抜きを行ったか。
この女はバカだが、
母は智略に秀でているのだろう。
やはり2代目は微妙なのか。まあ、暗愚な2代目も使いようであるからそこはこちらの腕次第だ。
『母に伝えろ。村長とそのお付きの執事殿を食事に招待したい。金はいくらでも積むから、宮廷料理人を1日貸し出せと。』
『愛するマサチカのためよ!お母さんを説得するわっ!』
うーんまっ!と投げキッスをしてくる。キモい、早くいなくなれ。
さて執事殿との会食が楽しみだ。




