異世界渡りの黄昏
汚い。
この世界に来て最初に感じたのは感動でも興奮でもなく嫌悪感だった。
私は渡異世。何の因果か不思議な力に目覚め、異世界を渡り歩く身となってしまった。旅し始めてまだ一年も経っていないが、今ではもう女子高生だったあの頃に戻りたいとも思わない。
幾つもの世界を旅しているうちに気が付いたことがある。気のせいかと思ったがそうではなかった。私が旅しているのはすべて日本だ。
もちろん私が生まれたあの日本と全く同じではない。だが、知らない場所のはずなのに聞いたことがあるような地名ばかり。住人はどこも黒髪で鼻の低い黄色人がほとんどで、日本語が通じる。
おそらく私が旅しているのは異世界ではなく「平行世界」。私がいた世界とは何かが違う日本。
この世界もそうだ。
消費社会が加速し、この世界はモノで溢れかえった。モノが増えればゴミが増える。最初は海に捨てていたが次第に捨て場がなくなり、今度は山に捨てるようになった。山にも捨てきれなくなると今度は陸地に投棄するようになり、人が住める場所はみるみる減っていった。今では「トーキョー」「オオサカ」などいくつかの都市以外の地域はすべてゴミに塗れ衛生環境は悪化、政治や経済どころではなく、このままでは世界は滅んでしまうだろう、というのもすべてこの世界の住民から聞いた話だ。
私が話を聞いた青年もまた、ゴミの上を歩き旅をしていた。元々都会に住んでいたが、あまりの過密ぶりに嫌気がさして町を出てきてしまったらしい。まさか都会の外に人がいるとは思わなかったようで、私の腹がなると少ない食料を喜んで分けてくれた。
彼は一緒に旅しようと私を誘ってくれたが、その申し出は断った。長時間同じ人と接すると情が移るからだ。すぐに別れのある出会いほど悲しいものもない。私は、自分の心が少しずつ冷たくなってゆくのを感じられずにはいられなかった。
私は週に一度、他の世界へ移動するこれを「渡り」と名付けた。次の渡りは二日後。青年との食事の後は前の世界から持ってきた堅パンと水だけでしのいできたが、それももう限界が近い。今は偶然辿り着いた家具などの粗大ゴミが多い場所にいる。臭いもマシだし、あと二日はここでなんとかやり過ごすつもりだ。
私はこの世界から逃げることができる。だがあの青年は?このゴミ山をあてもなく彷徨う彼に救いはあるのだろうか?
私は黄昏の空を見上げた。ゴミばかりの世界で、ただ星だけは綺麗に輝いていた。
以前書いた「異世界渡りの置手紙」から数か月後の彼女を書いた作品です。一応この作品単体でもある程度「読める」ものにはなってると思うのですが、前作も読んでいただけると嬉しいです。
彼女が渡っていた世界はすべて平行世界の日本、という設定も連載用に出したアイデアの流用です。もう連載しろや、ってツッコミはご勘弁を。後何作か渡異世の短編は書こうかなと思っております。
ではまた。