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帰ってきた

世界を轟かせた最強の騎士、【皇】。寿命で倒れて死んだ。

弟子を一人もとらずに、彼が持っていた技術は失われたままだ。


と思っていた。

起きたら、転生していた。そして帰ってきたのだ、世界を変える存在が。


転生した名はテレス=フレイリア、伯爵家の長女だ。

彼は女性になってしまった。これが天の定めなのかもしれない。

記憶を持ったまま生まれ変わったテレスは、まず最初に能力の有無を確認した。


「ほらほら~テレス様~。ミルクですよ~」


そんなことを言われているとき、テレスは


(よし、能力は使えるみたいだ。)


能力の有無を確認していた・・・・・・テレスの前世である、【皇】の絶対的力の要因は、

技術や経験もあるだろう、だがやっぱり能力が強かったという面もある。

技術や経験はなくならないが、能力はすぐにでもなくなってしまうかもしれない。


「あれ、飲まない・・・・・・今はミルクの時間のはずなのに」


(なぜこれを飲まなければならないのだろう。早く感覚を取り戻したいのだが。)


「あ!飲みました。最近はすんなり飲むようになってくれました」


と言いつつ、テレスは飲む。

まだ0歳のテレスはベッドの上で眠らされている。首が据わっていないため、動かすこともできないのだ。


(しょうがない、能力の感覚でも取り戻していくいか。だが、この体が能力の負荷に耐えることはできるだろうか、まあ死ぬことはないだろう)


(《自空間》)


【皇】の絶対的能力、それは空間《Space》を自在に操る事ができるのだ。《自空間》は自分の空間をつくり、操る事ができる。この空間の主はテレスなので、命令権はテレスにある。自分が頭に想像した通りに動かすことができる。


(空間の生成に成功か、一応作ることはできるみたいだ。じゃあうご・・・・・・)


視界が暗転していく。懐かしい感覚だ、そう思った。なぜか不意にそう思った。


「テレス様!!どうしたんですか⁉大丈夫ですか・・・・・・え、旦那様ーー」


テレス・フレイティア、心臓が止まった・・・・・・


***


意識が回復する。目が見えるようになる。カーテンが取り払われたみたいな感覚だ。


「あうあぅ」


(何があった?)


「あ、テレス様・・・・・・よかったです。一秒くらい心臓が止まっていたんです」


(なるほど、《自空間》の生成ができても動かすことなるとダメか・・・・・・)

(相当この体は体力が少ないみたいだ。侍女も警戒が強くなっている。)


テレスの能力には代償がある。体にある霊力で、生成する操る空間。

それには強大な反動がある、それに体が耐えれなくなると異常が出てしまう。

心臓が止まるや、全身麻痺。症状はそれぞれだ。それが、《血統技》だ。

いろいろな血が混ざり合い、力が出る。テレスの前世はその血筋だったのだ。


霊力と言ったが、霊力はすべての事象に存在していて魔力とは似て非なるものである。霊力には謎がまだ多くあり、魔力の研究が進むにつれて、霊力は忘れ去られてしまったのだろうか。今、テレスの中にある霊力をすべて使っても、《自空間》の制御はできなかった。


(生成ができただけでもよしとするか・・・・・・)

(空間に干渉するのは控えた方が良さそうだ。)


テレスの能力は強大だ。それにあった戦い方も作っていかなければならない。


(霊力を増やすのが先か・・・・・・)


「さあ!テレス様。ミルクの時間ですよ」


(早くないか!!)


「元気を取り戻していかないとですよ~」


テレスには侍女が無理矢理笑顔を作っている事はわかっている。だがそれを咎めるのは、違うと思った。


『託す未来』(本文抜粋)

「大丈夫?」

「大丈夫。生き残って帰ってくるよ」

―――――その後は帰ってこない。


「ミルクを作りましょうか。水よ顕現せよ《オー》」


(それが侍女たちが話していた《魔法》と言うやつなのか・・・・・・)

(実に興味深いものだ。何もないところから水が出てきたようだ。)


「はい。できました。テレス様ミルクですよー」


(これが《魔法》というものなのか。)


まず、体力をつけていかなければならないな。だったら最速で体力がつく方法をやるか。つらくなるが、しょうがない。


(《自空間》)


「うぅ・・・・・・」

「テレス様!!旦那様、またテレス様が・・・・・・」


これを繰り返して、超回復と同じ原理だ。使った分、それ以上の量を回復してくれる。これを繰り返すしかない。そこの名の知らない侍女よ、迷惑をかける。


***


時は経ち、はいはいができるようになった。あれから毎日、心臓を止めまくったテレスは《自空間》の扱いも使いこなせるようになった。そのたびに心配されたが、もう考えないことにした。そしてこれから初めての外出をするらしい。


そしてこの世界には、魔物が存在する。それを騎士団が倒すらしいので見学するのをついて行くみたいだ。


(久しぶりに魔物を見る気がする。ずっと人間と戦ってきたからな。)

(人間以外と戦えるなんて楽しみだ。)


「我が愛しのテレスと外出できるなんて最高だな」


こんな控えめに言っているが内心喜んでいる男は、ブレン=フレイティアである。

中年とは思えないほどに整った顔立ちに、目は碧眼で髪は銀色だ。この男がフレイティア家を伯爵にまで上り詰めた猛者である。


統計学に秀でており、領民からの税の徴収量を計算しながらやりくりをし、領民のためなら出費をためらわないよく言えば善人、悪く言えば変人である。だが、その一目見たらおかしい政策のおかげでここまでフレイティア家が発展してきた。そして領民には絶大な人気がある。


「そう言えば初めてでしたね、テレスとのお出かけ」


この女性はテレスの母親である、マリナ=フレイティアである。

公爵家の令嬢でありながら、両親の反対を押し切りブレンと結婚した。美しいよりも、優しく朗らか印象を受ける。黒い髪の毛に、黄金の瞳はマリナの実家である、フラグメント公爵家の印である。


「あーあうあぅ」


そしてテレスも両親の特徴を完璧に受け継ぎ、完璧な女性の片鱗を見せている。

父親である、ブレンの顔立ちと銀髪をもらい。母親である、マリナからは黄金の瞳と優しい微笑みをもらった。そうPerfect Girlなのだ!!


「今日行くところもそこまで凶暴な魔物は出てこないから安心していいよ」

「それはそうです!テレスを危ないところには連れて行けません!」

「まあマリナも《魔法》が使えるから大丈夫だとは思うけどね」

「あら、ブレンもその剣と《魔法》で守ってくださいね」


微笑みあいあがら頬ずりしそうな距離まで近づいている両親。


(なんだこのイチャイチャは・・・・・・見てるだけ甘い気持ちになってくる。)


「ブレン様!!接敵です。馬車の中で安静にしていてください!」

「いや、私も行こう。一人でもいた方が楽になるはずだ」


そう言って上着を脱ぎながら馬車を降りていく、ブレン。


「頑張ってきてください」


死ぬことは考えていないような自信を持った応援を送る、マリナ。これを何回も繰り返してきたのだろう。そこには少しも疑いの意がなかった。


「では行ってくる」


馬車のドアが閉まる。ブレンは見えなくなってしまった。


(どんなものか見てみるか、《遠視接続》)


遠視接続えんしせつぞく》は《自空間》が見ている映像を見ることができる。負荷もあまりないから長時間できるし、そこまでばれないので諜報にも使うことができる。中々便利な力だ。


ブレンと衛兵たちが戦っている。魔物はギノウルフだな。下級の魔物だ。正直話にならないほどの雑魚だ。いかんせん数が多いが、圧倒的にブレンと衛兵たちが押している状況だ。ブレンは剣だけでも間に合っているが、衛兵たちは《魔法》を行使しているものもいるみたいだ。魔力は温存しておきたいのだろう。


(このまま見続けなくても大じょ・・・・・・前言撤回、ものすごくまずい状況だ。)

(《索敵結界》に引っかかった魔物がいるみたいだが、まずいな・・・・・・)


索敵結界さくてきけっかい》は自分を中心にして《自空間》を展開し、魔物が持つ魔力を検知したら知らせてくれる。霊力の消費は少なく、常に展開しておきたい力だ。だが、今のテレスでは500メートルが限界だ。


(いつもはもっと範囲の広い《索敵結界》を使っていたから気がつかなかった。)

(この魔物はギノウルフだが、これは《上位種エース》だな。)

(この魔物だけで100体以上の力がある。他のギノウルフを統率していたのか。)


正直戦力は足りないだろう。《上位種》は普通、グループが何個も集まって倒す魔物だ。だが今ここにいる戦力はブレンと衛兵たちで10人もいない。


(多分気づいていない人が大半だろうな。どうにかして逃げるのを考えるか。)


戦って勝てるわけがない。今のテレスなら倒せるだろうが、0歳児が上位種を倒したなんておかしいに決まっている。


逃げるのが1番安全だ。それはわかりきっている。だが、こいつが町に行けば町は甚大な被害を受けることは絶対的になる。だからここで処理するのが1番得策とも言える状況だ。


(そろそろブレンや衛兵たちが視認できるような距離になってきた。)


「あの怪物はなんだ!」


一人の衛兵が、気づいて震えた声で言った。


「あれは《上位種》か・・・・・・まずいな。この兵力では絶対的に勝てない」


ブレンは後ろに愛娘と妻がいることを思い出す。逃げ出す方が得策だとも、逃げたら町が危険な事も理解する。


「よし。ここで我らがこいつを討伐する!」


(良い考えだ。僕もそっちが良いと思っていた。)

(幸いブレンは《魔法》が強力と聞く、魔力も十分にあるだろう。)


「私が《魔法》を打つ!時間を稼いでくれ!」


おーーーー!!、と衛兵たちの雄叫びが聞こえる。ギノウルフは爪で攻撃してきたり、体当たりしてきたり、攻撃をしてくるが衛兵たちが盾で何とか耐えている。なかなかに練習を積んできているみたいだ。


ブレンの方には魔力と思われる、ものが集まってきている。それはまだ色が薄いが、実態になっていることは見て分かる。


「――――――風よ顕現せよ。《ヴァン》」


ブレンが胸の前で合わせていた手に集まっていた魔力は圧縮され、完璧な緑色になったと同時にブレンが詠唱を口にして、無数の風の刃が飛んでいった。それは命中し、ギノウルフの体を抉っていった。


「ガガオォーー!」


ギノウルフが吠える。大量の血だと思われる液体が出ている。致命傷だが倒せてはいないみたいだ。


「嘘だろ・・・・・・」「なんで生きてるんだ・・・・・・」

「倒しきれなかったか・・・・・・最近《魔法》の練習を怠りすぎたかな」


絶望にひれ伏す衛兵たちと、いまさら悔やんでいるブレン。誰もが死んだと思っている。それでもギノウルフは生きている。


(あれが《魔法》と言うものか、実に興味深いものだった。)

(ここは僕が何とかしよう。)


0歳の赤ちゃんがギノウルフを倒したらまずい、という考えはもうテレスにはなかった。


(と言ってもギノウルフも相当重傷だ。)

(父様の《魔法》はなかなか強かったみたいだ。弱っているていうことは・・・・・・)


「■■■■■」


(来やがったみたいだな。《魂業こんぎょう》が。)


「なんだこれは・・・・・・声が聞き取れない・・・・・・」


《魂業》、それは《上位種》が使える技。自分の魂に刻み込まれた意思を使う技。

自分の魂に何が刻まれているかで、技が変わる。これは連発をすることもできる。2回目は技がバレているため、初見しか通用しない技が多い。だから取っておくことが多いのだ。


今回のギノウルフに関しては、強い生存本能と長としての統率が使われたみたいだ。それが、雄叫びになったみたいだ。《魂業》は本来の種族を超越した言語を使うらしいので、言語を人間が読み取ることは人間が《魂業》を使うしかないと言われている。


この《魂業》によって衛兵たちとブレン、マリナが気絶してしまった。


(本来僕も気絶するところだったんだろうけど、僕は《防御結界》があるからね。)


防御結界ぼうぎょけっかい》それは《自空間》を体からだし、障壁として自分の身を護るというもの。燃費も悪くないが、物理攻撃にはすぐに壊れてしまう。そこが難点だ。この程度の攻撃ならば壊れない。


テレスは一人になってしまった。ギノウルフは今は戦力になりそうな奴らを殺そうと

ブレンや衛兵たちに向かって歩き始めている。足取りは重たそうだ。そうとうブレンの《魔法》が効いたのかも知れない。


(やっぱり僕がやるかぁ。《威嚇》!)


これは霊力の扱いができるなら誰でもできる技だ。霊力の放出を強制的にし、威圧させる技だ。そこまで強力なわけでもないから使う機会は滅多にない。


「ガルルル!」


(意識はこっちに向いたみたいだな。まあ僕の相手をした瞬間に君の負け。)


スパーン、急にギノウルフの首が吹っ飛ぶ。血とも見て取れる体液があふれ出てきている。この刹那の瞬間にテレスはギノウルフを倒したのだ。


自空斬じくうざん》これは《自空間》を鋭利にし、高速で飛ばしたものだ。

霊力消費は抑えられて、結構な威力が出る代物だ。


(《上位種》は難なく倒せるみたいだ。ならば、そこそこいけるな・・・・・・)


だが、急に視界が暗転していく。これは霊力不足で失神するのと似ている感覚だった。あぁ、テレスは納得した。


(これは眠いんだな。0歳児がここまでずっと起きれるわけがない。)


そっと地面に倒れるようにして眠った。これは【皇】の転生体である、テレスが一番最初にあげた武勲であった。


***


「んむぅ」

「やっと目が覚めたか、我が愛しの娘よ」

「本当に良かったわ・・・・・・」


目元が赤い両親をちゃんと視線で確認し、ここがまだ馬車の中だと言うことに気づく。ギノウルフを倒した帰りなのだろう。


(今日の外出はなくなったのかな。《珍しいものが見れると思ったのに・・・・・・)


両親がテレスが起きたのを確認するとひそひそと話を始めた。

それをテレスは《遠視接続》で聞くことにする。


「―――テレスは呪いにでもかかっているのだろうか。急に心臓が止まったり、外出したら《上位種》に会うなんて幸先が良いとは言えない」


テレスが災いの子でもかと疑っているみたいだ。ギノウルフの《上位種》がいたことは、けっして偶然ではない。そうテレスは考えている。


(僕が霊力をたくさん持っていたから引き寄せられてしまったんだろう。)

(だからこれはけっして偶然ではない。僕が起こしたも同然だ。)


「ちょっと運が悪いだけよ。これからもちゃんとテレスを見守ってあげましょう。それが私たちがやるべきことです」


テレスはこの人たちが親で良かったと心の底から思った。


みんなの話を聞く限り、ギノウルフは通りすがりの冒険者が倒したことになっており、それ以外に方法がないことがあげられる。だが、ギノウルフの毛皮や肉を持ち帰らなかったことが謎にされている。


ギノウルフの素材はバザーに賭けられ、フレイティア家の財産となったが、ブレンの命令でまずい事がない限り使わないそうだ。さすがにお人好しすぎだとは思ったが。


そしてテレスの修行は続いてゆく・・・・・・何回も心臓を停止して・・・・・・



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