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8 波乱のデート

「ねぇねぇ、聡利って女子とお出かけした事あるの?」


 ニヤニヤしながら尋ねてくる。分かっているであろう事実を。

 どうして出かけてすぐに煽って来るのだろうか。


「逆に考えてみろよ。あると思うか?」

「ないね(笑)」

「ま、何回かあるけどな」


(2人きりでは一度もないけど、天寺の質問の仕方的に嘘は言ってないからな)


「ゑ!?あるの!」

「そういう天寺は何回男子とデートした事あんだよ」

「デートって。私は一回もないよ」

「へ〜、てっきり両手じゃ数え切れない数かと・・・」




「まぁ中学のとき、かなりの陰キャだったから、遊びに行くことが無かったんだよね」


 一枚の壁が建った気がした。人には触れられたくない過去が一つや二つ、あってもおかしくない。

 聡利はそこに触れた事を自覚した。


「その・・・悪気は無かった」

「あははは、気にしないで」


 聡利自身触れられたくない部分はあるので素直に謝罪の弁を述べた。しかし悪手だったかもしれない。かわいた笑い声が聡利の頭の中に響き渡った。

 

「はい、暗い話し終わり!今日は私の初デートなのでしっかりエスコートしてくださいな!」


 リピート再生されていたのが断ち切れ、代わりに正の感情が前に出てくる。

 声の力は偉大だと初めて感じた。


「はいはい、まず手を握ればいいか?」

「!?」


 冗談十割で言ったことがクリーンヒットしたらしい。

 いつも責められてばかりだったから余計効いたらしい。その証拠に顔は林檎のように赤く染まっている。


(どうせならもっと責めたいな)


 今度は聡利がニヤニヤする番になった。


「そうだよな、出来ないよな、恥ずかしいもんな!」

「!?」


 勝った、と内心思った。元々勝負などしていなかったが、そういう気持ちになった。

 しかしこれが勝負だった場合、最後までどうなるのか分からない。

 

 琴音は無言で手を差し出す。その表情は林檎なのはかわりは無いが、恥ずかしさを誤魔化すためのぶきっちょな笑顔と少しだけ涙を溜めた目をしていた。

 

 優勢だった為にこのカウンターは実に痛かった。それにこの立場もすぐに取り返されてしまった。

 おどおどしていたのを見逃さずに琴音が王手を仕掛けてきた。


「女の子が恥ずかしがりながら手を出しているのに握らないのは殿方としていかがなものかと思いますけど。それに男に二言があるとおっしゃいますか?」


 未だに赤面している所から、恥ずかしがっているのが手に取るように分かるが、ここは折れるしかないと思った。


「おや?そんな握り方にでいいんですか?」


(こいつ!!!)


 手を握っているだけでもギブアップなのにさらに高度な事を要求してきた。


「あのなぁ」

「ん?」


 琴音の顔が勝利を確信したような顔に変わってきた。なのでここでひと踏ん張りする気持ちになった。

 聡利は初めてのことだった為に、ぎこちなく琴音の指の間に自分の指を絡ませる。

 二人は暫く硬直した。

 


「手・・・離すか?」


 約二分後、聡利が口を開いた。


「・・・このままで」


 結局この後、特に会話もなくクレープ屋に向かった。




 クレープ屋に着くと蛍光色をふんだんに使った旗が嫌でも目に入った。『カップル限定メニュー!!!』の文字が書かれた。

 二人は再び赤面した。傍から見たらどう見ても仲睦まじいカップルでしかないことに気づいていなかったからだ。

 現に周囲の人から微笑ましい様子で見られている。一部嫌悪が混ざったりしているが。


「ね、ねえ聡利、どうせならこれ食べてみない?」

「俺はいいけど・・・お前はいいのかよ。店員側から見たら俺らカップルになる訳だけど」

「全然構わないよ、寧ろウェルカムだよ!」

「はいはい、お世辞ありがとうございます」


 

「いらっしゃいませ!カップル様ですか?」

「はい!」


 これが演技か疑うほどの満面の笑を琴音は浮かべていた。


「でしたらカップル限定メニューがオススメです」


 二人は甘酸っぱいがテーマであろうメニューに目を落とし、思考の末、琴音が伊予柑のクレープを、聡利がパイナップルのクレープをそれぞれ注文した。



「んっ、美味いな」

「美味し〜♪」


 汗ばむ季節なので酸味がいいアクセントになっていた。


「はい聡利、あーん♡」

「!?」


 二、三口くらい食べたところで琴音が爆弾を落としてきた。


(こいつ自分が何してるのか分かってんのか)


「まずこっちから食べろって、美味いから。はいあーん」


 もしこれで気づいてくれたら、と思った。


「ン!?これ美味しいね!」


 かぶりついた。

 確信犯だった。


「ほれほれ、はいあーん♡」

「・・・甘すぎるな」

「そうかな?」


 甘酸っぱいがテーマのはずなのに、甘味しか感じなかった。

 でもなんやかんやで聡利はこのデートを満喫していた。


「あれ?聡利?」

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