7 デート?
予定よりも早い時間にチャイムがなった。それも一時間。
違う人かもしれないが宅配も何も頼んでいないし、この家のことは両親を除いて二人しか居ない。
最近出来た人じゃない方は急に来るような人でもないので一人しかいない。
若干めんどくさい気持ちになったが出ない訳にもいかないのでこの気持ちを押し殺しながらドアを開けた。
「さー早く行こう!」
「・・・予定では一時間後のはずですが」
「楽しみだったから早く来ちゃった!」
効果音を付けるなら「キャピ✩」が一番似合うだろう顔で言ってきた。世の男はこのスマイルひとつで落ちてもおかしくないだろう。
「てかお前昨日の帽子とメガネはどうした?」
「・・・いる?」
「お前って学校での自分の立ち位置理解してるか?」
「まぁそこそこ目立ってるよね」
「なら分かるだろ。お前と俺が一緒にいること自体問題なんだよ」
「え?別に問題ないと思うけど」
「お前の意見はどうでもいいけどつけてくれ。俺がお前のファンに殺されるから」
「はーい」
「てか俺から呼びに行くから家にいてくれ」
黙って頷いたはいいが、笑顔でソファにくつろいでいるのに問題がある。
「おい。何でくつろいでいるんだよ」
「え?私眼鏡と帽子つけるだけだから」
「そういう事じゃ・・・もういいや・・・」
もう何言っても聞かないことは目に見えているので諦める事にした。
聡利自身も、いくら学校で陰キャを極めていたとしてももし見つかったらと思うと何かしらの変化をもたらした方がいいと思うので、洗面所に向かった。
目を覆うほどの長い前髪を分けるだけでも見違えるほど変わった。あとは一人暮らしする際に親から押し付けられ少々お高めの服で取り繕えばいいだろう。
「今から着替えるから家に戻れ」
「りょ〜か〜・・・い?」
一拍。
「何方?」
「へぇー。昨日散々世話になったやつの顔と名前を忘れるかー」
「え?聡利なの?髪を分けるだけで大分変わるね。かっこよくなった!」
「お世辞をどーも。着替えるから一旦出てってくれ」
「はーい」
毎回思うがどうしてこいつは語尾にハートがつくような話し方をするのだろうか。こう言ってはなんだが極々一般的な女性がそんな話し方をしたら、ある程度人は離れていくと思うが琴音がそんな話し方をしたところで人が離れていくということはない。寧ろ男女問わず寄ってくる始末だ。
理由はハッキリ分かっている。こいつの人柄だろう。誰にでも分け隔てなく接するし、顔もモデルと比べて大差ないどころか、見る人によっては勝っているレベルである。
そんな琴音と二人で出かけるのでガチ恋勢からは喉から手が出るレベルで欲しいチケットだろう。
(てかこれってデートだよなぁ〜)
デートと言われたら一応否定はするがデートの定義を考えたらデートになるだろう。結構本気で琴音のファンから殺されないか不安になった。
そんな事を考えてもどうしようもないので着替えて琴音を呼びに行った。
インターホンを押そうとしたところで一歩後ろに下がった。
下がった瞬間ドアが開いた。
「さー!早速行こー!」
「ちょっと待て。狙ってやってるよな?」
「さぁなんの事だか」
無言の圧力をかける。口角は上がっているが目が笑っていない顔で琴音を見る。否、睨む。
「うぅぅ、今回だけだから!これはほんとだから!」
「はぁ、最初から自首しろよな」
「だって二日続けてドアゴンしたんだから今回もするべきかと・・・」
「だからドアコープから覗いてたと」
「YESボス!」
「一応言っとくが天丼は二回までってのが我が家のルールだったから三回目はキレるかもだから気を付けとけよ」
「なんやねんその謎ルール!」
ケラケラ笑いながらも了承の旨を伝えるように「イエッサー!」と言いながら何処かの軍隊のポーズの真似事をしている。
「んじゃーしゅっぱーつ!」
琴音の掛け声と共に歩み始めたはいいが聡利は嫌な予感がして気が気でない。