5 手料理
「お邪魔しまーす!」
「邪魔すんなら帰れー(棒)」
「やだよん」
一人暮らし始めて初めて来た客人が女子とはなんかむず痒い気がするが、琴音のことを女子と見ていないのでそんな気持ちもすぐに何処かえ吹っ飛ぶ。
「てかお前、晩飯出来てから来れば良かっただろ」
「え?呼びに来させるの悪いし、SNS繋がってないし」
「んじゃー今から交換するから帰れ」
「もう来たからやだよ?あ、でも何かと便利だし後で交換しよ!」
「お前・・・俺を便利屋か何かと勘違いしてないか?」
「そんなことないよ!」
にっこりと浮かべている笑みのせいで殴りそうになったが、さすがに女子(?)の顔を殴るのはまずいだろうと自制した。
我が物顔でソファでくつろぐ琴音を横目に聡利はキッチンに向かった。
聡利は作り置きするタイプなので一人分よりも多めに仕込みをしていた。なので、二人分にするのは特に大変ではない。
「一応聞くがアレルギーとかないよな?」
「特にないよ。でもゴーヤとピーマンが苦手かな」
「安心しろ。容赦なく食わせるから」
頬を膨らませる琴音を無視しながら(今日はその二つとも入ってないけどな)と心の中でつっこんだ。
聡利は基本、作り置きするタイプなので1人増えたところで特に問題は無い。
しかし、作り手としては美味しく食べて欲しいのでこの前の昨日貰った沼を思い出しある程度味の濃さを考えて作った。
「おいしそーう!」
「そりゃどーも、冷める前にさっさと食ってさっさと帰れ」
「さとりんがもう冷めてるじゃん!」
「残念ながらいつもこんな感じだ」
「まぁいいや。いただきまーす!」
今日の晩御飯は麻婆豆腐に春雨スープ、白米という簡単な中華料理。
「っ!おいしい」
「まぁお前よりは出来るだろうからな」
「何ですぐに嫌味が出てくるかなー。でも内心こんな美少女と一緒にご飯食べれて嬉しいでしょ」
「もしそうなら沼ばっか押し付けてる時点で誘ってるわ」
「押し付けるとは失礼な!そういえばさっき私の家で沼のレシピ聞こうとしてたよね?てことは沼にハマってしまったのかな〜?」
「っ!それは・・・」
「それは?」
「・・・そうだよ!悪いか!?」
「そういう訳じゃないよー」
照れ隠しで渋々頷いたがすんなり頷いた方が良かったと後悔するまでに時間は要らなかった。なぜならまたムカつく笑みでにっこりと笑っているからだ。
(これ、手出していいよな)
拳を自分と同じ高さまで上げたが、今は食事中で、しかも失言したのは自分のなので殴る権利がない。仕方なく手を引っ込める。
「ねぇ?今殴ろうとしなかった?」
「気のせいだ」
「いやでも」
「気のせいだ」
満足していない顔を浮かべていたが、すぐに例の笑顔を浮かべた。
「嫌だ」
「まだ何も言ってないよ!」
「なんか嫌な予感がしたから嫌だ」
「別に大したことこと考えてないよ」
「じゃあ何を考えていたんだ?」
「明日一緒に沼作ろうとしただけだよ?」
「断る」
「私口で教えるの苦手なんだよねぇ〜」
(こいつ!!!)
またもニヤニヤしている琴音に頭の中で殴っておいた。
「分かったよ。明日お前ん家行くってことでいいか?」
「ふぇ!」
「ダメだったか?」
「全然いいよ♪」
「じゃあついでに掃除もするから見られてほしくないものとかあったら、あらかじめ納戸に仕舞っといてくれ」
「え?」
「お前絶対一人じゃ何も出来ないだろ。隣が汚部屋とか嫌だから仕方なく手伝うだけだ」
「そりゃ助かるけど・・・」
「じゃあ決まりだな。明日はいつでも空いてるから準備が出来たら呼びに来てくれ」
それから会話しながら食べた夕食はいつもより美味しく感じられた。