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真相

 あからさまに嫌そうな顔をするヘルバに、ハイドラは同情の眼差しを送りながら語り始めた。


「まず……エリック様とアネッサ様はヘルバ様の処刑後、すぐに結婚なさるおつもりでした。その準備もなさっていたようでして」


 元婚約者を処刑して即座に結婚とは、怪しさしか感じられない。

 それ、通用するもんなのかとヘルバが少し引いていると、ハイドラが苦笑を浮かべた。


「勿論、反対する声もありました。まるでアネッサ様と結ばれるためだけにヘルバ様に偽聖女の烙印を押し、処刑へと追い込んだように思われてしまうのではないかと」

「私の感性間違ってないじゃないですか……何で結婚計画押し進めた?」

「その……『俺とアネッサの幸せを邪魔するな』と周囲を黙らせたようです」


 んな馬鹿な! と仰天するような強烈なワードだが、発言者がエリックであると考えれば「まあ、馬鹿だしな……」で済ませられてしまうのが恐ろしい。

 しかし家臣たちは済ませるわけにはいかない。そんな馬鹿が将来国のトップになるのだ。下手をすれば国が滅ぶと、ヘルバでも分かる。


 だが、フィオーナ王国は想像以上に腐っていた。


「エリック様が王位を継承した暁には昇進を約束された者たちは、この計画に加担していたようです。勿論、女王陛下には何も伝えないまま」

「あ、確かに女王陛下はまともだったような……?」


 牢獄に閉じ込められていたヘルバに会いに来た時や、玉座の間で何かを言っている時も彼女は気遣うような、哀れむような表情を見せていた。

 彼女がエリックのやらかしをもっと早く察知していれば、あのような惨事は起こっていなかったかもしれない。


「私が視た予知の内容を纏めた書類も、女王陛下のお手元に届かず、別のものとすり替えられていたようでした」

「ああ、もうおしまいだ……」


 ハイドラがヘルバを救えなかったのは、こういうことだったらしい。


「そして、ヘルバ様が逃げ出した日のことです。陛下が隠されていた本来の書類を発見されました。どうやらエリック様とアネッサ様を不審に思い、極秘に調査を行われていたというのです」


 エリックは癒しの聖女の中でも、並外れた力を持つヘルバを妃にすることで、自らの地位を確立させようとした。そのために、勝手に婚約関係まで結んでいた。

 だが、(魔法を使いすぎて)見た目がボロボロのヘルバをエリックは愛することが出来ず、文官の娘であるアネッサに惹かれた。

 結婚したいのはアネッサ。けれど、王太子として都合がいいのはヘルバ。

 そこで彼らはヘルバがアネッサの振りをして、王太子妃になろうと目論んでいたことにした。 

 アネッサが癒しの聖女なのは本当だ。そのスケールが違い過ぎるだけであって。


 あとはヘルバさえ始末すれば、二人は幸せなゴールインを迎えられる。そう考えていたエリックに大きな誤算が二つ生じた。

 一つはヘルバが脱走したこと。

 もう一つは女王がハイドラの書類を発見したことだった。


「陛下はエリック様の行いに怒り狂われ、同時に焦っておられました。民たちは真実の愛を見付けたエリック様と、悲劇の聖女アネッサ様との婚姻を祝福しておりましたから」


 まあ、ヤバいだろうなとヘルバは空笑いを浮かべた。真実が知れたら、人々は間違いなく王族に怒りと不信を募らせるだろう。女王としても、それは何が何でも避けたかったはずだ。


「私を処刑したって嘘の情報を流したっていうのは、国の面子を守るため?」

「はい。尤もヘルバ様が自らの冤罪を訴えられる恐れもありましたので、半ば博打のようなものでした」

「まあ、私としてはもう関わらないでくれるなら、どうでもいいですけど……びっくりするくらい失うもの何もないし」

「……ありがとうございます、ヘルバ様。私もこれ以上あなた様を人間の都合で振り回したくないと思い、ゴーニック国におられることを知っても、口を閉ざしておりましたが……」


 一拍置いてから、ハイドラはどこか言いづらそうに言葉を発した。


「どうやらエリック様は、ヘルバ様との仲を取り戻そうとなさっているようです」

「何だと!?」


 あの男と親密な関係になった覚えなどヘルバには毛頭ない。架空の仲を取り戻そうとするのはやめろやと叫びたくなった。



 


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