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人生とは人生にあらず  作者: ゆくねこ
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鍛錬

 言い忘れていたが、私の名前はイヴェルア。この様な一人称であるが、一応生物学的には男となっている。顔も割と良い部類だろう。だが間違えないで欲しい。私は鈍感では無い。それに何故か私は同性に好かれる。これは私が悪いのだろうか。

 私の所属部隊は特殊機密部隊だ。極秘の任務に携わっている、国の中でも最強の部隊。とは言っても、表向きにこんな軍を公表するわけは無い為、これは非公式となる。しかし実力は私の部隊が最も優れている。

 私はこの部隊の隊長を務めている。しかし、私はこの部隊を踏み台だとしか思っていない。この部隊も、王ですらも。私は国の上に君臨する。私が求めるのは軍事力。私の言葉を聞かない民は要らぬ。殺処分となる。それらは全て許される。全世界は一度、ファシズムによって一つになるべきなのだ。

 私の目は鋭い。鷹の様で全てを見透かされていると思ってしまうらしい。自覚は無いが。

 髪は黒い。俗に言う、ボブカットだ。日の光に弱く、焼けると瞬く間もなく茶色に染まってしまう。数日経てば治るが、その度に私を他の人間と間違えられる。不愉快だ。

 肌は白い。そのままだ。薄橙では無い。白なのだ。青白いと言った訳ではなく、例えるならば死人だ。

 敢えて自画自賛するが、私は容姿が優れているだろう。冷酷、残虐非道。そう言われても、容姿は隠せるものでは無い。女が寄ってくるが、何故か男も寄ってくる。それなりに筋肉質であると自負しているのだが、それでも周りはもやしだのヒョロガリだのと言ってくる。潰してしまいたい。

 普段は防具などを身につけてはいない。だからと言って楽な格好をしている訳でも無い。この部隊は命懸けだ。

 話が変わるが、なんでも、私には欲がないらしい。三大欲求が異常に無いのだ。睡眠欲が無く、一時間寝れば一週間は動ける。食欲も無く、三徹飯抜きでしっかり生きている。性欲も無く、女を買った事がない。別に書類欲と運動欲があるから私はこれで満足だ。

 書類を弄りながら無駄口を叩いていたが、そんな安らかな時間もこれ以上続かない様だ。現に、外から扉を叩く音が聞こえる。子供の様な声を掛けてくるが、私は知っている。あれがただのまやかしである事を。実際に会ってみれば想像が崩れる。私の頭の中には彼と初めて会った時の事が浮かんでいた。


「今もしかして僕の事考えてます?嬉しいなぁ!」

「許可無く入るなと言った筈だが?ベルよ」


 今扉を蹴破って来た彼は、私の思想に飽きずに着いてくる稀有な人間だ。名をヒルベルートと言う。我が部隊の中で重宝されている人材だ。華奢で可愛げのある容姿をしているが、内面との差が激しい。初めて会った時は、罵詈雑言の嵐だった。今となってはただの忠犬であるが。


「出てこなかったイヴェルア様が悪いんですよ!僕を放っておいて……放置プレイですか!良いです!」

「黙れ貴様」


 この様に、何故かベルは私に対してとてつもなく懐いている。迷惑でしか無いのだが、そんな元気なベルに心を癒されているのも事実。中々本気で拒めずにいた。私は世間でとてつもない極悪人と言われているが、私は戦争が大好きなただの人間だ。それ以上でも、それ以下でもない。

 思考を巡らせながら書類に目を通していると、唐突に鍛錬がしたくなった。書類のやる気は無くなっていないのだが、何故か無性に体を動かしたい。この体の気分に、いつまで経っても私は慣れる事が出来ない。

 音を立てて椅子から立ち上がり、目を光らせて上着をベッドに投げ捨てる。暫く使っていないベッドからは、咳き込んでしまうほどの埃がたった。


「げほ……あ!イヴェルア様!怒られるのは僕なんですからね!」


 窓枠に飛び乗り、特殊機密部隊専用の訓練場へと飛び降りる。私の部隊専用とは言ったものの、ここに特殊機密部隊の人間は誰も入らない。私がかなり好き勝手やっている為、訓練場が訓練場として成り立っていないのだ。

 地面に転がる持ち手が壊れた握力計。重りの重さに耐えきれずに折れたバーベルの持ち手が壁に立てかかっている。地面にはクレーターが出来ており、本来矢の刺さる筈だった的は根本からへし折られている。これら全て、私が行った事だ。


「……無事なバーベルは無いのか」


 近くにあった残骸を眺め、クレーターの出来ている地面を眺める。どれも、いつやったのかすら覚えていなかった。軽く溜息を吐き、城下町へと向かう事にした。

城の内部に入ると、誰もが私に頭を下げてきた。将来的に私の人形となる生き物の生き様に手は出さないが、これは少し不愉快だ。餌を貪る豚の様に私を物色する視線。不愉快だ。


「……まあ、どうせ死ぬなら何も変わらないか」


 一人で納得し、それなりに高い位置にあるマントを取る事にした。あの高さだから、勿論正規法で取るわけがない。手の関節を付け、詠唱を唱える。


「『かの戦を司りし神、アーレースよ。今一度私の手を取り、共に歩もう』」

「思ってもいねえ癖になぁ?」


 この世界には、従属と呼ばれる異界の妖が居る。業火、滝壺、突風、紅、青銅という属性の五種だ。未だに全ては明らかになっておらず、他にも仙花や幻斎も存在しているかもしれないと、考古学者は日々思考を巡らしている。

 私の従属はアーレース。戦を司る神だ。私の考えに合うからというのもあるが、此奴が私に執着するという事実がこの関係を紡いでいる。不安因子は肥大化する前に確実に取り除くべきだが、此奴は私を裏切る可能性が少ない。

 だからこそ敢えて私の側近にさせている。戦闘において私自らが手を下す場合が多い。人々の心を

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