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古き英雄の新たな物語【リメイク】  作者: 光影
序章 魔力を持たない天才魔術師
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魔力石の制御

 優美の言葉に苦笑いをする影の顔を優美が抱き寄せ自分の胸に当てる。

 優美の胸に顔を埋める影は優美の温もりをさっきより強く感じる。


 ドクン、ドクン、ドクン


 優美の胸から聞こえる心音が影の気持ちを落ち着かせる。

 お母さんが我が子を安心させるように。

「一週間以内に魔人の軍団が私達の街を襲撃してきます。もう一度だけ私達の街を救っては頂けませんか? あの日のように私をもう一度……。この心臓が鳴り止まないように……」

 三年前、戦場から逃げるように軍を抜けた影は優美の胸に顔を当てながら考える。


 ……。

 …………。


 影は軍を抜けてからの三年間ほとんど魔法を使っていない。

 助けてあげたい気持ちはあった。


 だからこそ迷った。


 魔法はスポーツと同じで感覚、それも魔力操作と魔法構築、展開、発動までの一連の流れが大事になってくる。ノーブルイヤン街を助けたい気持ちはあったが今の影に本当にそれが出来るのかと言う不安もそれと同じぐらいあった。心の中で自分の気持ちと葛藤していると優美が影の頭を優しく撫でてくる。

「私の心臓の音が聞こえますか? これは私が生きている証拠です。もし良かったらノーブルイヤン街をもう一度救ってください。いつまでも待ってますから。では今日はこれで失礼します」

 優美が影の心情を表情から察し、微笑みながら離れ、脱いでいた服を着てロビーから出ていこうとした時、優美の通信機が音を鳴らす。静かになったばかりのロビーに二人にとっては聞きなれた音が鳴り響く。

 優美が立ち止まり通信機の音にすぐに反応する。

 影は思いやりがあり、少しばかり我儘なお願いをしてきた優美の言葉に耳を傾ける。事情を知った以上無視するのは人としてどうかと思った。

「どうしたの?」

『王都とノーブルイヤン街の境界上空B14区域に突如巨大隕石が出現しました。出現原因はまだハッキリとは分かっておりませんが恐らく魔人それもかなりの手練れ達による空間魔法かと思われます』

 通信機を介して一人の通信兵の慌てている声が下を向き過去の記憶を思い出し落ち込んでいる影の耳にも入ってくる。

「今すぐ王都と連絡を取って対空魔法で迎撃しなさい。街の対空兵器も全て使っていいわ! 何としてでも撃ち落としなさい!!!! これは命令よ!」

 優美の慌てた声が影のいるロビーに響く。どうやら状況が状況だけに慌てているように見える。影が立ち上がり窓から空を見ると、巨大隕石が見えた。まだ地球に到着はしていないが、これが街に落ちたらこの国が滅びる事は目に見えていた。隕石は魔人の魔法によって意図的に地球に向かって落ちるようにされている事に影は気づく。

「これが夢のプレゼント……なのか」

 影が巨大隕石を見て独り言を呟く。


 夢の件と優美の件。

 この二つは別々の件であり、そうじゃない気がする……。


 影の頭がそう認識した。

 落ち込んでいた影では合ったが巨大隕石を見た瞬間、身体に流れる血の巡りが速くなる感覚に襲われる。心臓の鼓動が強くなり、弱気だった影をいつもの影に戻す。

「オルメス国に手を出すなら排除するしかないな」

 影の闘志に火がつく。影は軍を逃げるように去ったが別にオルメス国が嫌いなわけじゃない。むしろ、大好きだ。皆が和気あいあいと日常生活を送れるオルメス国。そんな影の癒しの場所を奪うと言うならそれを黙って見ているわけにはいかなかった。

 優美と通信相手の会話に耳を傾ける影。

『無理です。大きすぎます。それに対空魔力障壁を張られていて現時点で隕石を破壊する事は不可能と今王都からも言われました。仮に対空魔法の射程圏内上空で破壊しても王都とノーブルイヤン街が壊滅し隣接する三つの街も大打撃を受けると総隊長が言われております』

「そんな……」

 優美が言葉を失った。

 影はこの状況をノーブルイヤン街の令嬢がどう対処するかを黙って見る。

 そして、影が窓から何かを見ているのに気づき優美が影の隣に来る。

「父はどうしているの?」

『先ほど側近の方と一緒に王都に向かいました。何でもこうなった以上、女王陛下に直談判じかだんぱんをしてオルメス軍の精鋭を派遣してもらえるようにお願いすると言っておりました」

「それじゃ、後日の魔人はどうにかなっても巨大隕石の方が間に合わない。それで、街の皆は?」

『只今地下施設に避難誘導しておりますが、多分無駄になるかと思います……。地下施設は隕石の落下の衝撃によって意味をなさないかと……』

 影のいる王都にも地下施設へ避難を促す緊急警報が発令され、王都に流れるアナウンスと警報音に賑わっていた街が突然慌ただしくなり始める。

「そう……。とりあえず避難誘導を最優先。それと、対空魔法と対空迎撃ミサイルの用意をお願い。それと、また何かあったら報告をお願い」

『かしこまりました』

 優美が落ち込みながら通信を切る。影は横目で優美を見ていたが、先程までの何処か強がっていた表情とは違った。影はこの状況でも諦める事を知らない強い女の子なんだなと思う。それはかつて三年前の自分の姿に何処か似ていた。だから、自然と助けてあげようという気持ちにさせられた。今は、魔法が上手く扱えないかもと言った不安はもうなかった。そんなことを思う暇はなくこの後の事を考える事が最優先だと頭が判断したからだ。見た感じでは後一時間前後で巨大隕石はオルメス国に到着しそうな勢いだった。限られた時間の中で影は全てを解決する為、重い腰をあげる。

「優美様?」

 影の言葉に優美が顔を上げる。

「バカですね。そんなに一人で背負い込んでも何も解決しませんよ?」

 その声に優美の声がワントーン下がり、目つきが鋭くなる。

「……だったら、諦めろと言うのですか? 私の街の民達を見捨てろと? いい加減にしてください。私は護るべき物の為、最後の瞬間まで戦います!」

「そうですか。後は誰かが解決してくれる事をたまには信じて見てはどうですか?」

「いい加減にしてください! 仮に信じてもし誰も助けてくれなかったらどうするんですか?」

「それはありませんよ、今回に限っては。それより、まずはやるべきことを先にしましょう。少しばかり痛いでしょうが我慢してください」

 影が先程見た優美の胸に服越しで手を当てる。そして影が目を閉じると優美の胸が緑色に光りだす。優美は少しばかり胸に痛みを覚えるが影に言われた通りに痛みを我慢する。しばらくすると影が微笑みながら閉じていた目を開ける。

「魔晶石から魔力を奪いました。これからは普通の女の子として生活できますよ」

 影は古代魔法を得意とする。古代魔法は周囲の魔力を使い発動するので魔力石のような魔力を宿した物を媒体としても魔法を発動することが可能である。その特性を利用して影は優美の体内に出来た全ての魔力石から魔力を吸い上げた。それにより優美の身体からは魔力石が全て消滅した。

 優美が半信半疑で自分の胸を見てみると影の言う通り魔晶石が全て身体から消えていた。これには流石の優美もどこか驚いていた。

「あっ、ありがとうございます」

「どういたしまして」

「えっ……でもどうして? 魔力石の制御はかなり難しいのに……」

「では今日はもうお引き取りください。少々急用が出来ましたので外出しようと思いますので」

 影が優美に会釈をする。

 優美が嬉しそうに喜んでる顔を見てそのままロビーにある魔力石を手に持ち外に出る。

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