夢で聞こえた魔人王の声
真っ暗な暗闇の中、三年前に聞いた事がある懐かしい声。
低い声で独特なイントネーション、威圧感が特徴的な声。
『これは忠告だ。
一週間もしない内に俺の部下がお前達の住む街の一つを襲う。
これは一種のゲーム。
お前が再び俺達の前に立ちはだかり敵となるか、
ただ傍観者として見て見ぬ振りをするか。
さぁ、お前が好きな方を選ぶといい。
――と言いたいがお前は必ず俺の誘いに乗る事になるだろう。
三年前、お前は俺を封印した。
これはお前へのリベンジマッチ。
三年の時を経て、再び人類の力を見せて貰う。
後、今日はプレゼントを用意したから受け取ってくれ。
とても大きな物だから見たらすぐに分かると思う。
では近いうちにまた会おう。『古き英雄』と呼ばれた者よ』
夢の世界で突然聞こえてきた声の主――魔人王に一言ぐらいは言い返してやろうと思った時、タイミングを見計らったかのように突然目が覚めた。目を覚ました少年はベッドから上半身を起こしため息を吐く。
「はぁ……」
本名と年齢は不詳、性別は男性、赤紫色の腰まで伸びた髪と少し高い声が特徴的。外見は肌の潤いや肌の質感から20代前後と推測できる。
「くそっ……またこの夢か」
ここ数日同じ夢ばかりを見る影はベッドから立ち上がりながら言葉を吐き捨てる。
影は三年前までオルメス国の軍に全権代理者兼総隊長として所属していた。しかし三年前の四月十四日から始まったオルメス国と魔人王との戦いでオルメス国に甚大な被害を出してしまい影はその責任を全て一人で負い辞職した。
当時、オルメス国は空間魔法を使い突如として転移してきた魔人の総攻撃を受けていた。空間魔法――魔力を使いある一定範囲内の座標を点と点で結ぶ事で遠くに瞬時に移動したりできる魔法。
その数は数えたらキリがなく、守護者を中心とした兵士達が王都に隣接した四つの街を手分けして同時に護っていた。魔人王の幹部を中心とした数千の魔人は容赦なく同時に各街を襲う。更に大量の魔力兵器まで持ちだし攻撃してきた。手数の多さにオルメス国の兵士達が少しずつ後手に回り始めると魔人達は大量の魔力兵器を使い続ける為に街の人間を大人、子供、男、女関係なく連れ去り人間魔力石に魔法を使い変換していた。人間魔力石(魔力を持った石)――人が生きたまま石化され魔力兵器や魔法発動の動力源になる。ただし、身体が石化した部分のみが対象。
戦える者は全員で対応するが、それでも時間の経過とともに戦況は悪くなるばかりだった。更には各戦場での兵士達の指揮が下がり始め、副総隊長と守護者達だけでは指揮系統を維持するのも徐々にでは合ったが手一杯になりかけていた。そんな中、総隊長影が直接指揮を執り、更には全権代理者兼総隊長でありながら影が最前線に出る事でオルメス国は九死に一生を得た。しかし、その戦果は良くも悪くもだった。オルメス国は王都を中心として円状に隣接する四つの街から出来ている。王都と四つの街は何とか影の采配により存続は出来たものの当時はとても悲惨な状況にまで追い込まれる事になってしまった。又、街と避難民を護る為にオルメス国の最高権力者である女王陛下の勅命に背いた部下達の命令違反に対しても同時に責任を取った。結果として今までの功績から死罪は何とか免れたが世間の目、特に周辺諸国の大国五か国の目を気にして辞職した。そんな影ではあったが、辞職してからは毎日平凡な生活をしていた。




