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古き英雄の新たな物語【リメイク】  作者: 光影
第二章 影の決断
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杏奈との約束


「ではノーブルイヤン街侵攻の中心となっている魔人についてのご報告を聞いてはもらえますか?」

 杏奈がしっかりと影の目を見て確認してくる。

「お願い」

 影が顔をあげ、着ていた服の袖で涙を拭いて頷く。

「相手の拠点にはレベル七の魔人がいます。名を黒の剣士と魔人達が呼んでおりました。残念ながらそれが本名ではないでしょうが、影様と同じくかなりの強者つわものなのは間違いありません」

 杏奈は魔人の事をレベルで言っているが影は別名で呼ぶ。これはどっちでも意味が通じる為、人それぞれ呼びやすい方でオルメス軍の兵士は呼んでいた。

「やっぱり、魔人王の側近か……」

 影の口から出た言葉に杏奈が首を傾けるがすぐに話しを続ける。

「相手の得意魔法ですが、剣を媒体とした魔法全般です。近距離、遠距離関係なく黒の剣士は剣士でありながら戦う事が出来ます」

 影が杏奈の言葉を聞いて考える。杏奈の言葉が本当なら黒の剣士の攻撃範囲は剣の間合いだけでなく戦場全てだと言う事にもなる。剣士でありながら遠距離攻撃も得意とする者等オルメス軍ですら数える程度にしかいない。ましてやそれが高位魔人(レベル七)ともなればただ事ではなかった。

「…………」

「黒の剣士はとても恐ろしく厄介な敵です。聖剣エクスカリバー。魔法でありながら魔法陣等は一切使わずに自身の魔力を剣に流し、剣の中で圧縮し高密度魔力エネルギーに変換し放つ魔法です。その威力は絶大でノーブルイヤン街の城壁ですら一撃で破壊してしまうと言われております」

「それは……厄介…所じゃ……」

 影の表情が険しくなる。杏奈が影の表情と言葉から状況が芳しくない事を再認識したのか少し間をあける。守護者以上の力を持つ影が悩むと言う事は、本当に危ない状況を意味する。

「……黒の剣士の魔法構築の早さは影様には劣るもののかなり高いレベルだと見ています。魔法発動が恐ろしく早く、正確に狙った場所に遠距離攻撃も可能です」

「遠距離魔法攻撃が可能な剣士か。街を守りながら高位魔人(レベル七)の魔人の相手となるとかなりキツイ……。そこに沢山の兵士か……」

 影の発言に杏奈が心配そうな表情をする。

「黒の剣士の最大攻撃範囲わかる?」

「多分ですが百メートルあるかないかかと。恐らく周囲の魔力干渉が弱ければそれぐらいで強ければ七十メートルぐらいかと。私が病室で眠っている間に美香が調べてくれました。結局のところ黒の剣士は名前通り剣士なのでそれぐらいが限界かと思います。剣士にしてはかなり厄介所かそれだけ遠くまで攻撃できる時点で凄すぎるレベルですが……」

 魔法構築には周囲の魔力による干渉や周囲の気温、天候等がどのように魔法に影響するかを数値化して魔法に組み込まなければならない。そこから魔法を発動し実際に魔法を使う瞬間、最後に構築した魔法に発動の為の命令と発動後の命令を組み込む必要がある。

「聖剣エクスカリバー以外に黒の剣士が得意としてる魔法何かわかる?」

 影の質問に杏奈が手を頭に当てて何かを思い出そうとする。

 影は杏奈が考え終わるのを静かに待つ。

「……申し訳ありません。あの時、幾つか偵察兵に魔法を使う所を実際に見ておきながら逃げる事に必死で全然覚えていなくて……」

 杏奈が申し訳なさそうに影に謝る。

 影は杏奈に対して、首を横に振る。

「そんな事ないよ。後、黒の剣士の特徴とかは覚えてるかな?」

「はい。容姿は二十代後半の男前。体格が良くツンツンした黒髪短髪でオシャレなのか無精ひげを生やしていました。名前の通り全身は黒の鎧で固めており、剣も直径一メートル前後の真っ黒な剣を持っていました。恐らく戦場で見ればすぐにわかるかと思います」

 影は杏奈から聞いた全ての情報を頭の中で素早く整理していく。影の表情は険しく真剣な表情だった。しかしながら、三年前まで守護者達を正しく導いてきた影にとってはこれくらいの危機は危機ではなく三年前まで日常でもあった。

 頭の中である程度考えがまとまった影が不敵な笑みを浮かべる。

「影様?」

「なに?」

「いえ、何か希望が見えたって顔をしておりましたので」

 その言葉に影がほほ笑む。

「うん」

「って事は何か勝算があるのですね?」

「あるよ。俺の力も魔人王の力でも弱点は存在する。ならその弱点を見つけてしまえば後は何とかなるからね」

「影様に弱点……。私にはそうは見えませんが?」

 影の言葉に杏奈が首を傾ける。

「もし弱点がない生命体がいたらそれは神の力を持つ存在だけだよ」

 影が笑顔で言う。これで杏奈が尻目を感じないでしっかりと影の力になれて良かったと思い安心してくれればと思った。何も報われずただ怪我をしただけと思い込み沈んでいる杏奈より前を見て使命を全うしたと思って欲しかった。でないと、影自身の考えが甘かった為に死んだしまった者達へ申し訳なかった。お前達が命を落として護った上官はしっかりと希望の光を繋いだとあの世から思って貰う為にも。

「そうですか」

「そうだよ。なら俺ちょっと行ってくるから」

 影は笑顔のまま杏奈に言い、椅子から立ち上がる。

「はい。無事に帰って来て下さい」

「約束する。全部終わらせたらここに戻ってくると」

 杏奈にそう言い残し、影は病室を出ていく。

 そのまま病院を出た影はノーブルイヤン街に行く為に再び走りだす。


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