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古き英雄の新たな物語【リメイク】  作者: 光影
第二章 影の決断
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嵐前の静けさ

 影が意地悪と言ったのには理由がある。それはエアコンのリモコンが優美の服の中、それも胸の谷間の中に入れられているからである。影は後で「セクハラされた」「胸を触られた」等と言われても困るので仕方がなく本気のため息を吐きだしてリモコンを諦める事にする。

「はぁ~、わかりました。諦めますから」

「ふふっ。影ってたまに子供っぽくなるよね」

 優美が影の顔を近くで見る。

「俺は元々こうゆう性格なの」

「なら甘えもいいよ?」

 優美が両手を広げ、笑顔で言う。

「ありがとう。でも、気持ちだけで充分だから」

「そっかぁ。でも甘えたくなったらいつでも言ってきていいからね」

 優美がそう言って、さっき影から取り上げたリモコンを返してくる。

「なら私もう行くから。またいつか会えるって信じてる」

「どうゆうこと?」

「私、街に戻って街の皆と戦う事にする。だから影とは寂しいけど今日でお別れ。修行してくれてありがとう。それと、短い間だったけどずっと憧れていた影とこうして仲良く出来てとても嬉しかった」

「そっかぁ。気を付けてね」

 影は優美の意志を尊重して、そっと背中を推してあげる事にする。きっと影が優美の立場だったら同じ事をしたと思ったからこそ笑顔で見送ってあげる事にする。そして心の中で『死なないでね』と呟く。本当は口にして言いたかった。だけど、優美の実力なら少なくとも死ぬことはないと思った。だから、口にはしなかった。それが一番だとも思ったから。

「ありがとう。……ねぇ、影?」

「どうしたの?」

「全てが終わったら、ここに遊びに来てもいいかな?」

「いいよ。いつでも遊びにおいで」

「うん。なら約束。今度こうして会った時は私に甘えるって」

「うん。約束する」

「ならまたね~」

 優美が笑顔で手を振り影の部屋を出ていく。影も部屋を出ていく優美に手を振る。

 そのまま家の玄関を勢いよく開けて後ろを振り向かずにノーブルイヤン街に向かって走っていく優美。影も玄関を出て優美の姿が見えなくなるまで静かにその背中を暖かい眼差しで見送ってあげると、眩しい太陽の光が目に入って来た。手で眩しい光から目を守りながら空を見上げると雲一つない大空が視界に入ってくる。優莉達の情報が正しければ今夜には沢山の血が流れる事になる。まるでそんな事を感じさせないぐらいに空は眩しく静かだった。

「まるで、嵐前の静けさだな」

 影が空を眺めながら独り言を呟く。

 そのまま、まだエアコンの冷気が残った涼しい部屋に戻りくつろいでいると影の通信機の端末が音を鳴らす。

 影が通信機を付け、通信相手を確認して出る。

「どうしたの?」

『影様、申し訳ございません。至急ノーブルイヤン街に来てはいただけませんか? 予想外の事態にオルメス軍と街の警備兵だけでは太刀打ちが非常に難しい状況なりました』

 美香が慌てているのか、口調がとても早かった。

 ここまで慌てている美香は珍しい。

 影はただ事ではないと確信する。

 ここで影まで慌てしまえば、必要な情報を聞けなくなる可能性を考慮していつも通りの口調で落ち着いて美香から現状を聞く事にする。

「いいけど、そんなに慌てて何かあったの?」

『先日影様が言われておりました敵が見つかりました。ただしレベル六ではありません……七です……敵の拠点にて確認出来ました』

 通信機越しでも分かる美香の緊張感に影は落ち着いて現状把握をする。美香の緊張感の正体が分かり、これはノーブルイヤン街壊滅の危機で間違いないと確信する。もっと言えばオルメス国そのものの危機だと確信する。

 影はこの時、嫌な予感がした。美香の言葉からレベル七がいると分かった今王都にそれに対抗出来るだけの戦力がない。仮に総隊長と守護者二人で戦っても勝てるかは正直分からない。いや、単騎で優莉以上に強いレベル七が相手では勝ち目は殆どないだろう。更に守る戦いと攻める戦いでは、守る戦いの方が圧倒的に不利となる。

『もう一つご報告が……。精鋭偵察部隊が全滅し、杏奈が重傷となりました。先日影様の言われた通り念を入れて敵内部を探る為に杏奈が精鋭偵察部隊と潜入し、返り討ちに……。決死の思いで生き延びた杏奈がこの情報を提供してくれました』

 美香の言葉から悔しさが伝わってきた。

 影は後悔した。可能性を優莉に提示して指示をしておきながら、こうなる可能性を予知出来なかった自分の愚かさに腹が立った。三年の空白は影の魔法感覚や戦闘感覚に留まらず思考にまで平和ボケを与えていたのだと自覚する。

「ごめんね。俺が浅はかな事を言ったばかりに……」

『いえ、影様の助言がなければ今夜にも皆死んでおりました。レベル七に単騎で対抗できる者等、人類の希望と呼ばれている魔術原書の方だけですから』

「わかった。今からノーブルイヤン街に向かう」

『ありがとうございます』

 影は通信を切断して、魔晶石を持ち、三年前使っていた戦闘用の装束に着替え家を出る。



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