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古き英雄の新たな物語【リメイク】  作者: 光影
第一章 歌う総隊長
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影と優美の演習 後編

こちらは八割。

 残り二割あるが、それを使うとなると最早対人演習ではなく殺し合いになってしまう。

 優美が考える。

 この後どうすれば影を本気に出来るかを。

「まぁ、そうなるかもね」

「てか、影ふざけてるの?」

「俺のパートナーになるなら最低限の実力は欲しいからね」

 優美の声がワントーン低くなる。

「なら、怪我しても文句言わないでよ?」

「勿論」

 優美が本気で行くことを決意する。十割の力で影を追い込むことだけを考える。魔力銃が起動している間に周囲の魔力量が上昇した事に影が笑う。

 魔法は発動している間、周囲にその魔法に応じた魔力を周囲に放出する特性がある。

 優美が強力な魔法を使えば使う程、影は周囲にある魔力を吸収して強くなる。


 ――故に、魔力ゼロでありながら無限の魔力を持つ『古き英雄』


 ――さぁ、影の力を見せてもらうわ


「魔法昇格、中級魔法から上級魔法へ。魔力銃を魔力機関銃に形状変化、出力六十%から百%へ上昇」

 優美の言葉を聞いた影は流石にこのままではまずいと判断したのか、鋭い目つきへと変わった。


 ――毎秒二・五発から毎秒百発に


 ――威力も四割上昇


 そして、影の表情から完全に笑みが消える。



 普通に考えただけでも幾ら人間離れしている影とは言え全ての銃弾を躱す事は出来ないはずである。それに機関銃が八個と言う事は毎秒八百発である。毎分四万八千発の銃弾を魔法なしで防ぐ事は出来ない。これは考えるまでもなく当たり前だった。優美の言葉に反応して魔法銃が一旦動きを止め形状変化をさせていく。優美の不敵な笑みと同時に重機音を鳴らし影に銃弾が襲い掛かる。上級魔法は下級魔法や中級魔法に比べるとその分扱いが難しい、だけど人や魔人を倒すのではなく殺す為の魔法である。故に威力は折り紙付きで優美の切り札でもある。


 ――ドドドドドドドッ!


「面白い」

 影が飛んでくる銃弾に向かって呟いた。

 優美は一旦影の出方を見る事にする。

 ここで慌てては影の思う壺だと自分に言い聞かせる。

「けど、優美はまだ甘いね」

 突然聞こえてきた声に優美は驚いた。これでも影は無駄口を叩ける余裕があると言うのか、そう思わずにはいられなかった。後、一秒~二秒程で数百の魔力の銃弾が影を襲う。

「なら数には数で対抗しようかな?」

「ん? 何をするつもり……」

 相手の動きを凝視し警戒する優美。

「軍隊抜刀術秘伝、千本桜」

 言葉と同時に抜刀した影の周囲に魔力で作られた無数の桜の花びらが影を護るように展開される。魔力機関銃から発射された銃弾が次々と桜の花びらに衝突して爆炎をあげて消滅していく。桜の花びらは影の魔力を媒体としており、消滅する速度より増殖する速度の方が早かった。

「ちょっと、勘弁してよ!!!」

 優美は思っていなかった光景に思わず驚きの声をあげる。影の姿は爆炎で見えなかったが桜の花びらの後ろにいる事は分かっていたので、さらに魔力機関銃の威力を上昇させ対抗する。こうなった以上、パワープレイで押し勝つ方法以外、優美に残された手はもう残っていなかった。

「まだよ!」

 大きく息を吸い込んで吐き出す。

「出力上昇、出力百%から臨界点突破、出力百五十%!」

 魔人以外での対人戦闘でここまで出力をあげて魔法を使った事がない優美は魔法を発動した瞬間につい頭に血がのぼりやり過ぎたと我に返る。

「あっ……」

 影に挑発されて本来百%でも人を殺傷するレベルの魔法を更に出力をあげて使ったことに影の身がヤバいと思っていると背後から声が聞こえる。

「人の心配してて大丈夫?」

 優美が後ろを振り返ると影が背後にいた。

 影の回し蹴りが脇腹に入り身体が浮き地面を転がる。

 優美の意識が魔法から途切れた事により、魔法術者の命令がなくなり魔力機関銃が動きを止め消滅していく。

 蹴られた脇腹を抑えながら優美が立ち上がる。

「流石ね。でも…………」

 優美の言葉が途中で止まる。

 そのまま優美は前のめりに倒れる。

 ガハァ――ッ!!

「無駄だよ。蹴りに俺の魔力も乗せた。目先の事に集中して打撃に対しては無警戒だった優美では俺の魔力の影響でしばらくは満足に動けない」


 ――この圧倒的な力、これが『古き英雄』の力。

 ――三年前、オルメス国と私を救った力。同時に私の心を一人占めし盗んだ者の力。



 影がゆっくりと歩きながら優美の元に来る。そして、手を優美の頭に乗せる。優美は魔法を直接身体に打ち込まれると思い涙目になりながら目を閉じる。

「よく頑張ったね。まだ続ける?」

 優美の頭を撫でながら影は優美に質問をする。

 てっきり攻撃されると思っていた優美は、

「え?」

 と、声を漏らす。

「ん?」

 影は笑顔で優美を見る。

「まだ戦いたいの?」

「ううん。それより影のせいで身体が痛いのと動けないんだけど?」

「ごめんね。これでもかなり手加減したつもりなんだけど……」

 隣に来て座る影を見ると、リラックスしているのか一人足を伸ばしてくつろいでいた。優美は少し考え、どうせ思うように動けないならと思い両腕を使って少しだけ身体を移動させる。

「何してるの?」

 戸惑う影の言葉に優美が影を見ながら、

「女の子を地べたに寝かせたいの?」

 と、正論を言う。

「確かにそれは良くないね」

 と影が優美の言葉に納得する。

 優美が影の顔を見ると、顔を上げ、しばらく空を眺める。好きな人にみてもらいたい気持ちとは裏腹な行動をする影に優美は少しばかり我儘を言ってみる事にする。

「ねぇ、空ばかり見てないで少しは私を見てよ?」

「いいけど、どうしたの?」

 我儘を言ってみると影はすぐに優美を見てくれた。急な嬉しい展開に優美の顔が赤くなる。必死になって冷静を装うとするが、それに反して身体を流れる血の巡りが早くなり体温も上昇してしまう。それが、自分で分かるからこそ余計に恥ずかしくなってしまった。

「それに顔赤くない?」

「何でもないわよ! ……それより私をパートナーとして認めてくれる?」

「勿論。でも人に向けて魔法機関銃を本気で撃ったらダメだよ?」

「誰のせいだと思ってるのよ!」

「あはは……」

 影は優美の言葉に心当たりがあったのか笑って誤魔化す。最近影の近くにいた優美は影がこうして笑って誤魔化しているなってのが何となく直感で分かるようになっていた。



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