10話
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俺らは終始無言のまま並んで歩いた。学校から駅、電車の中も
橘が口を開いたのは電車が駅に停まる少し前だ。ここで降りるわと橘が言ったのは丁度俺の家の最寄り駅と学校の最寄り駅との真ん中にある駅だった。俺が降りたことのない駅だ
電車を降りてからはまた沈黙が続く
何処に向かったんでしょうかね?
俺はふとそんな疑問が湧いたが口にはせずに心の中にしまった
駅から出て橘は淀みのない足運びでどんどんと歩いて行く。俺はそれにただただ付いて行くだけで、やる事と言えば初めて来た土地の周辺をキョロキョロと観察するぐらいだった
駅から10分ぐらい歩いただろうか。ピタッと橘が立ち止まりある所に目を向けた
お?ここですかな?
橘の目の向く先に俺も目線を合わせると、そこは喫茶店であった
駅の近くやショッピングモールの中にある所謂チェーン店ではなく、趣きのある純喫茶店
店構えや外から見える店内を覗くだけでも、ああ、なんか橘好きそうだななんて勝手に思ってしまう。こういう落ち着いた雰囲気の所が似合うとイメージから思ったからである
「ここよ。入りましょう」
橘はそう言うと先頭をきって店に入っていく
ドアを開くと如何にも純喫茶な鈴の音がして、いつもチェーン店ばかりでこういう個人がやっているだろう喫茶店には入ったことのない俺は少しテンションが上がる
店に入ると橘は少しの迷いも見せずズンズンと進み奥の小さなテーブル席に座った。定位置なのだろうか、俺もそれに続き席に座る
席に座るや否や橘は手を挙げる
「マスター、いつものを二つ」
そう言うと、コクリとマスターと呼ばれた男性は頷き、厨房の方に向かいいそいそと何かし始めた。マスターは見た目初老の男性で口に白い髭を蓄え、渋い雰囲気を纏っており店の主人としての貫禄を感じさせた
そこからはただ沈黙が場を支配した。店内には俺ら二人しか居らず、普段は気にも止めない程度の音量で店に流れる小粋なピアノ音楽、厨房から聞こえてくる音が大きく聴こえた
やばい、話す事がない……。俺は基本誰とでも話せる方だが(内容は薄い)、彼女の様な人間と何を話せば会話が繋がるのか分からない。
しかし、何も喋っていない時間というのがたまらなくむず痒い。相手が他のクラスメイトならば適当に話題を振る事も可能だが、目の前にいるのはあの橘だ。何となく話す内容にも気を遣ってしまう自分がいた
橘から話しかけてくれないかな、と思っていると思いが通じたのか、彼女の方からポツリと口を開いてくれた
「ここ、私の行きつけのお店でよく来るのよ」
「今注文したのをいつも来たら頼むの。それが私の楽しみの一つなのよ」
橘はそう言ってマスターの方を向きワクワクしているような微笑みを浮かべている。学校でいつも隣に座っているが、こんな表情を見たのは初めだ…
これは好機と俺はそんな橘を見て思いついた他愛もない質問をした
「いい雰囲気の店ですね。たまたま見つけたんですか?」
「いいえ、私ここが地元なのよ。だから昔からこの店のことは知っていたわ…。だけど通い始めたのは高校に入ってから」
「ヘェ〜、そうなんだ……」
「ええ………」
そこからはまたお互いが無言になってしまう………
誰か助けて下さいッッ!!