幼き日の思い出、出会い。
ここは、、、。広い世界の中にある大国の一つ。近隣には大小様々な国があり、お互いがお互いに自国の
領土を広げるため、戦が頻繁に行われる。
今までで数多くの戦が行われてきたが、この国は敗北を知らない。
防衛戦、侵略戦ともに敵国の兵士を切り伏せ絶対的な力を知らしめてきた。
また、強国として数々の戦で勝利をしてきたこの国は領土に比例して経済も盛んで人々も活き活きしている。が、それは国の中心、城下ばかりである。
中心から離れるほどスラムと化していた。
その中ほどに、私は生きていた。
私には何も無い。才能も無ければ家族もない。早い頃に孤児となり、愛情も注がれず表情も現れず、言葉も全くと言っていいほど知らず、ただ街の家々の隙間に雑魚寝し盗みを働き生きていくだけの人生だった。
盗みをして店主に捕まることが多かったせいか喧嘩術だけが発達した。
ある日、街に外征騎士達が王宮に帰還するためいつも以上に賑わっていた。そんな事は露知らず、私はこの日も生きるために店の食料を盗んだ。
しかし運悪く、私が盗みを働いた店の近くの大通りに騎士隊が凱旋行進を行っていたため、盗みが見つかり騎士に見つかってしまった。いつかこんな日が来るだろうと分かっていた私は死など恐れなかった。
私を捕まえた騎士は私を抱え上げ、顔をじっくり眺めた。
「お前さん、国の騎士の目の前で盗みを働くたぁいい度胸だ。親御さんはどうした?」
話すことのできない私は首を横に振って反応を示すしかなかった。
「...ぁあ?言葉を話せねえのか?...そうか...そうだな...」
そう言ったまま騎士は私を抱えたまま何か物思いにふけっているようだった
その後、彼は私の予想や周囲で見ていた民衆の想像を遥かに超えた一言を発した。
「身寄りがない子供は見捨てられねえな。うちで引き取ろう。後々訓練もつけて戦えるようにもしよう。」
周囲の騎士は驚嘆し、私は呆然とするのみだった。
「ホ、ホントに言ってるんですか騎士隊長!?!?こんなチビガキが騎士になんてなれるわけないじゃないですか!!」
「そ、そうですよ!入団試験も受けてないのに!」
周囲の騎士達が私を抱え上げている騎士隊長とやらに説得する。
「こんな可哀想な子供を一人にさせられないだろう。それにこの歳でかなり身体能力が高い。こいつは後に良い騎士になるだろう。」
「で、ですが!」
「じゃあ何か?お前らは今回の戦闘で大きな戦果を上げたのか?」
怒りや戸惑いに声を上げていた他の騎士達は急に黙りお互いに兜をかぶったままの顔を見合わせた。
「そういう事だ。採用試験でお偉いのコネで志願する役立たずばっか採用しても意味はねえ、実戦で強い奴ばっか死んでいって生きるのは才能のねえボンボンばっかだ。金だけもらって何もできねぇお前らよりかはこいつの方が余程良いってもんだ。」
周囲の騎士はもう何も話さなかった。
騎士隊長は私を降ろすと、自らかがんで私と同じ目線になった。
「どうだ、俺に付いてこねえか?盗みをしなくとも飯が食えるし職にもつける。おまけに着るモンも住むところも付いて来るぜ。ただキツい訓練もついてくるけどな。」
私は喋れこそしないが日々街の人々が話すのを聞いていたので話している事は全て理解できた。勿論返答は首を縦に振る事で伝える。
騎士隊長は兜を外し私の顔を見てニヤリと笑った。
「よし!お前は今日からこの俺、ルーデリヒ・アヴェンド率いる第2番隊の一員だ!」
そう私に告げた騎士隊長の顔は厳ついながら満面の笑み浮かべていた。