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「お前だって俺を、裏切っただろ」


「お前の気持ちは分かったから、もう離してくれ」


 俺はそう言って、そっとローサの体を離した。

 

 ローサの気持ちは理解できるし、おそらく本心であることもわかってる。

 俺達は勇者も含め、生まれた時から共に過ごしてきた幼馴染だ。3人が互いに信用していて、他の仲間たちには申し訳ないくらいの固い絆で結ばれていた。あいつの心の声を聴いてしまったあの日までは。


「ごめん……」


 ローサは涙を拭いながらそう言った。

 しかし、まさか俺にそんなことを言うためだけにわざわざ追ってきたのではあるまい。

 警戒は継続しつつ、俺は質問を投げかけた。


「それで? ローサ。お前、いやお前たちの目的はなんだ?」


 ローサだけが俺に気づいたわけではあるまい。


「違う、よ。これは私の意志だから。みんなはアベルに気づいてない」


「本当のことだろうな?」


「うん。だって、アベル、我の消失(フェード・アウト)使ってたから、魔法の効かない私以外には気づけないよ。ジークだって警戒はしてたけど、アベルだとは気づいていないみたいだった」


 まあ確かに、ローサの言い分ももっともではある。

 ただそれはローサが他の奴らにそのことを言っていなければの話だが。


「だとしても何と言って出てきた?」


「それは……知り合いのおばあちゃんを見かけたから……報告してくるって」


「そう、か」


 なんとも行き当たりばったりな理由だが、それだとこんなに時間かからないだろ。

 

「まあいい。それで? お前の目的は何なんだ?」


 答えによってはローサが敵か味方か決まってくる。味方だとしても、そう易々と「はい、そうですか」と受け入れるわけにはいかないが。


 すると、ローサは胸に手を当て、大きな覚悟を持ったような、真っ直ぐな瞳をして答えた。


「私の目的は――アベルと共に道を歩むこと」


 その言葉には淀みがなく、純粋で清涼で、美しさまでも感じた。

 それくらい、その言葉は彼女の本心で。嘘偽りのない真実で。


 だけど、そうだとわかっていながら、信じ切ることのできない俺は汚れている。

 俺は倒れるジャシーの元に近づきながら。


「お前だって俺を……裏切っただろ」


 人間不信になっていることはわかってる。でも、そうさせたのはお前らだ。


「それは! 私にそんなつもりは無くてっ」


 確かに俺が勇者裏切りの作戦を奴らに話したとき、ローサは賛成こそしていなかったが反対もしていなかった。ただそれでも、信じることは難しい。


 唸るジャシーを抱え上げてローサに振り向いき、淀んだ瞳で睨みつける。


「なら、俺にお前を信じさせる何かを示してくれ。話はそれからだ。もちろん、奴らに俺のことを言ったらそれでお終いだからな」


 そう言って俺はその場を去る。 

 ほぼ不可能に近い条件を押し付けた。ローサが何をしようと、今の俺に受け入れるつもりは毛頭ない。


「わかったよ!」


 突然の大声に足を止めた。


「私は必ず、アベルに信じてもらえるよう、頑張るから!」


 そんな彼女の決意を背に、俺は再び歩き始める。




*   *   *




 警戒しながら酒場の様子を伺うが、そこに勇者一行の姿は見られなかった。

 それから俺達は部屋へと戻り、ジャシーをベッドに寝かせてヒールを使う。すると、見る見るうちに表情が穏やかになっていく。

 

「わっちふっかーつ! ん、いや? 復活はしてないな! ひゃはは!」


 途端に跳ね上がるジャシー。

 てかその笑い方初めて聞いたな。


 まあ、そんなことはどうでもいい。今日はもう疲れた。体を流すのは明日で良いだろ。

 俺は服を脱いで宿舎備え付けの軽装に着替えると、そのまま倒れるようにしてベッドに横になる。


「ん? もう寝るのか? アベル!」


 まったく、元気な奴だな。

 

「ああ。気になることもあるだろうが、明日にしてくれ。今日はもう無理だ」


「ちっ! つまんねーの!」


 明日は起きたら体を流して、『鬼病』についての情報収集を初めて、余裕があれば手軽なクエストで金を稼ぐ。なかなかハードな1日が待っている。


 そんなことを考えながら、俺は深い眠りへと落ちていく。



*   *   *


 コンコン……コンコン……


 そんな物音に、俺は目を覚ました。

 時計に目をやると、時刻は深夜2時過ぎを指している。

 腹部に違和感を感じて見てみると、ジャシーが俺の上で丸まって寝息を立てていた。そっと体を持ち上げて横にしてやる。

 それからしばらくドアをボーっと見つめていたが、先ほどのドアを叩くような物音はしない。気のせいだったのだろうか。

 そうして再び眠ろうとしたところで。


 コンコン……コンコン……


 もう一度ドアが叩かれる音がして、体を起こす。今のは間違いなく聞こえた。

 こんな時間に一体、誰が来たというのか。

 

「はい」


 ドアを開くことはせず、ドア越しに声をかける。

 すると、少ししてから返事が返ってきた。


「私……です。あの、アベル……さんのお部屋で間違いない、でしょうか」


「……? そうですが、誰だ?」


 寝ぼけているせいか声で判断ができない。というかやけに小声だな。

 私ですって、俺の知ってる奴か? ルームサービスじゃないよな。こんな時間にやってくるルームサービスも聞いたことはないが。


「えっと……ローサ、だけど」


「はあ!?」


「し! 静かにして! 大きな声出すと起きちゃうから!」


 思わず大きな声を出してドアを開いてしまった。

 そこには、肌着姿のローサが立っていて、人差し指を顔の前に立てながらそんなことを言ってきた。


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