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「あ、じゃあ、いただきます」


「ひゃっはー! 久々のシャバの空気はうまいな! 人間!」


 宙に浮いたまま伸びをする邪神。異様な光景だ。


 それはそうと、俺たちはあれから二時間ほど洞窟を歩き続け、ようやく外に出ることができた。

 元魔王城が聳え立つのは魔王が滅ぼした国の一つ、ムッソールの最北。元からあった城を魔王が乗っ取り、根城にしたわけだ。

 そんな城の地下500メートルの洞窟。いったいどんな場所に出るのかと思えば……


「2つほど山を越えたみたいだ。そんな歩いたか?」


 俺たちはとある山の山頂に立っていた。ムッソールとの国境沿いにあるバルチア領の街、ミニャルを一望できる。勇者一行が魔王城に向かう直前に立ち寄った街だ。

 ここから魔王城まで行くのに馬車で半日はかかったはずだが。


 そう言って首を傾げていると、邪神が馬鹿にするような口調で言った。

 

「お前、馬鹿なのか? 途中でゲート通っただろ!」


「そうだったか?」


 ゲートとは基本的にはセキュリティに利用される魔法の一種で、来た道をいつの間にか戻されたり、はたまた直接牢屋に繋げられたりする。普通の人間ではまず気づくことはできない、そこそこ上級の魔法だ。


 本来の俺ならば気づけるはずなのだが、何分体力が厳しい状況にある。

 よく考えれば、スタートが地下500メートルだというのに山頂に出たというのもおかしな話だ。


 しかしゲートが仕掛けられていたとなると、こちらからはもう二度と魔王城の地下には辿り着けないことになるな。


「それで、まずはどうする。人間!」


「そうだな……まずは……」


 ――っ


 あれ……やばい、眩暈がする。


「ん?? どうした! 人間! おい! 人間!」


 邪神が動揺した様子で俺の肩を揺すってくる。

 やめて。それ、余計眩暈ひどくなるから。


 でも、これはあれだ。そんな大したことじゃなくて、ただ――


「ハラ、ヘッタ」


 そのまま、俺の意識は遠のいていく。

 




*   *   *






 知らない天井だ。それにふわふわだ。

 俺、今、ふわふわの中にいる。


「目、覚めたようだね。その布団、ふわっふわだろう? うちの()の毛でできてるからね」


「あんたは……」


 体を起こすと、ふくよかな体つきをしたお婆さんが優しい笑顔でそう言った。

 

「私の名前はキャメラ。ここら一帯で羊飼いをしているもんさ」


「キャメラさん。その、助けてもらったみたいだな。感謝する」


「いいんだよ、そんなこと気にしなくて。人は一人じゃ生きられないってもんさ」


 キャメラは片眼鏡をくいっとあげてそう言った。

 そういえば、邪神はどうしたのだろうか。起きてから見かけないが。


「あの、じゃし――じゃなくて、あのーそのー……空飛ぶ小さな女の子、見ませんでした?」


 我ながらとんでもない質問だ。

 邪神と言うわけにはいかないという思いが先行して、妖精を連想させるようなことを言ってしまった。


 あ……でも、それはありかもしれないな。


 それを聞いたキャメラはにこやかに笑いながら、「こっちにいらっしゃいな」と続けて。


「その子ならリビングでパンを頬張ってるよ。あんたもお腹がすいてるんだろう? 遠慮せず、食べていきな」


 リビングへと向かうキャメラの後を追う。

 邪神よ……どうか迷惑なことだけはしないでいてくれよ……

 そう念じながら恐る恐るリビングに入ると――


「もふ! ほひはか! ひんへん! ほのふぁん、めひゃくひゃうめーひょ!」


 口パンパンにパンを詰め込む邪神の姿がそこにはあった。

 ごめん、何言ってるかわかんない。

 俺の心配を返せ。 


「なんか、その。申し訳ないです」


 あまりの申し訳なさに頭を下げた。

 しかし、キャメラは高い声で笑うと、ポンと俺の肩を叩いて。


「いいのさ。ほら、あんたもお食べ!」


「あ、じゃあ、いただきます」


 それから俺と邪神は、遠慮なくパンに食らいつくのであった。





*   *   *





「ふう、ごちそうさまでした」


「うまかったぞ! 人間!」


 籠に積まれたパンを一瞬のうちに平らげた俺と邪神は、それぞれキャメラに感謝を述べた。

 邪神が案外おとなしいのが気になるが、今は触れないでおこう。


 キャメラは籠を手に取ると「お粗末様」と言って机の上を拭きだした。

 なんだか、故郷にいたころを思い出すな。


 それからキャメラは身に着けていたエプロンを脱ぎ、俺たちの向かいの椅子に腰を下ろした。


「それで、お二人さんは一体何者なんだい? 見た感じミニャルの人間じゃあないよねえ」


 特に何かを疑う様子はなく、ただ純粋な質問をしてくる。

 しかし、どう答えたもんか。

 元、勇者一行の奇術師アベルです! なんて言えないし、こいつのことを邪神だなんてそれこそ言えない。

 やはり、さっき思いついたあの手で行くか――


「わっちは邪――」


(待て! 俺に任せろ!)


「……? ……??」


 ふー。危ないところだった。

 とっさに以心伝心(テレパシー)を使ったが、どうにか間に合ったようだ。

 

「俺は精霊術師のアベル。こいつは、精霊の――えーっと、じゃ……じゃ……」


「じゃ?」


 キャメルが首を傾げる。

 いや、もうどうしようもないだろ。これ。


 俺は、考えることを止めた。


「ジャシーです」


「そうそう! わっちは精霊のジャシーだ! って、はあ!?」


 命名。邪神(せいれい)の『ジャシー』。


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