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「俺は勇者を、ぶっ潰す」

 

 さっきまでぷりぷりと怒っていた邪神が、励まそうとしてくれている。そう思うとなんだかおかしくて、思わず笑ってしまった。


「な、なにがおかしい! 笑うな! 人間の分際で生意気だぞ!」


「いや、悪い。おかしくてな」


 それと同時に、俺はとあることを思いついて邪神に尋ねる。


「なあ、邪神さんよ。お前さっき俺を殺すのに10年待てと言ったが、完全に復活するには何年かかる?」


 予想外の質問に、邪神は腕を組んで「ん? それはだな」と少し考えこんでから。


「少なくともあと二百年は必要だ! それだけの力を使ってしまったからな! お前のせいで!」


 200年か……それだと遅すぎるな。


「どうにか、すぐにでも復活する方法はないのか?」


「どうしてそんなことを聞く」


「いいから、教えてくれよ」


 邪神からしたら確かに俺の質問は不可解だ。

 魔王よりも数100倍強いという邪神復活の方法を聞いているのだから。

 邪神は一瞬訝しに俺の顔を睨んだが、「何を考えているのかわからんが」と続けて。


「勇者が存在する今なら、方法はある」


「というと?」


「勇者の力は強大だ。あの力をうまく取り込むことができれば、元の、いやそれ以上の力をもってして、わっちは復活を遂げるだろう!」


「それは――」


 最高の条件じゃないか。

 

 思わずにやけてしまうのを我慢できず、その悪相を笑顔に変えながら言った。


「なあ、邪神さんよ。お前の目的はなんだ?」


「そんなの決まってるだろ! 人間! 世界を滅ぼし、この世界を魔物の世界にすることだ!」


「なら、その願い、俺が叶えてやるよ」


「何?」


 いくら俺が邪神を倒したとはいえ、この話を地上に持ち帰ったところで信じる人間はいないだろう。それだと、勇者以上の富と名声は手に入らない。

 それならこの邪神を復活させて、地上で暴れさせる。そして多くの人間の目の前で、勇者ではなくこの俺がこいつを殺す――ふりをする。


「がっ……おのれ、にん、げん……何をっ」


 俺は不意を突いて邪神の首を掴み取った。

 別に殺すつもりは無い。ただ――


命の結(ハート・リンクス)


「かはっけほっ……お、お前! お前! 人間のくせに、小癪な真似を!」


 なけなしの魔力を振り絞り、邪神に魔法をかけてすぐに解放した。

 しかし、さすがは邪神だ。俺が何をしたのか理解しているようだ。


「それは、SSランクの奇術師マスターが習得することのできる最終奥義。相手の死を自分の死だと錯覚して死に至る。つまり―—」


「お前が死ねば……わっちも死ぬということだな」


 そう。これは一度しか使えない、文字通り捨て身の禁術。

 一度この魔法をかければ解くことはできない。呪いの類ではないため、お祓いも効果は無い。これはただの錯覚だからだ。


 こんな魔法……死ぬまで使うことは無いと思っていたが、まさかこんな形で使うことになるとは。


「そう。だから、それを承知の上で聞いてほしい。この俺の策略を」


 壮大なヤラセ劇の、火蓋が切って落とされた。




*   *   *




 俺は胡坐をかいて地面に座り、宙で胡坐をかく邪神に策略の説明を始めた。


「俺の目的は一つ。勇者を超えることだ。それには3つの条件がある」


 そう言って三本の指を立てて、話を続ける。


「一つ目の条件は、あいつよりも多くの実績を残すこと」


 目に見える実績を数多く残すことで、世界に俺の存在を知らしめるため。


「そして二つ目はの条件は、あいつよりも高い支持を得ること」


 いくら実績を残そうとも、民衆の支持無くしては勇者に勝ったとは言えない。

 勇者よりもアベルだと、そう思わせることで初めて奴に屈辱を与えることができる。


「最後に、三つ目の条件。奴が成しえなかったことを成し遂げる。この三つ目で、お前の出番がくるってわけだ」


 一つ目と二つ目の条件は俺がどうにかしなくてはならない条件だ。

 俺が俺のやり方で、必ず実績と支持を手に入れて見せる。


「ん? どういうことだ? 人間!」


 いまいち理解していない邪神に順を追って説明する。


「つまり、ヤラセをするのさ」


「ヤラセ?」


「そう、ヤラセだ。俺が勇者を超える実績と指示を手に入れたその時、お前に勇者を取り込んでもらう。ここは俺がどうにかするから安心してくれ」


 さすがにまだその方法は思いついていない。ないわけじゃないが現実味がない。


「そしたらお前は盛大に暴れてもらって構わない。そうだな……世界の半分は滅ぼしてもいい。だがその代わりに条件がある」


「条件……」


 俺に命を握られている今、邪神は無理に暴れようとはせず、真剣に俺の話を聞いている。

 まあ、こいつにとっても悪い話じゃないのは事実だ。


「何、簡単な話だ。俺に負けたふり(・・)をしてくれ」


「……は? 本気で言ってるのか、人間」


 俺の条件に、邪神はとぼけたような顔をした。

 それも無理はない。なにせ、ヤラセの相談をしているのだからな。


 世界の半分を滅ぼす邪神から、世界を救った英雄。こんなに響きの良い称号は他にないだろ。


「ああ、本気だ。そうだな……その三年後くらいに俺を病死でも他殺でも何でもいいから死んだことにする。あとはお前の好きなように世界を滅ぼし、魔物だけの世界を創ってもらって構わない。俺という人間が一人、残ってしまう形にはなるけどな」


 これが俺の策略。名付けて『ヤラセ英雄伝』の全貌だ。


「お前……人間のくせに、相当狂ってるな!」


 邪神がこれまでで一番の笑顔でそう言った。

 正直俺も、勇者を裏切ろうとしていたころの数倍、興奮している。


「いやいや、普通だろ」


「お前の考えはわかった。面白い。だが、本当にやれるんだろうな?」


 もはや、命を分かち合う関係となった人間と邪神。

 どちらかが死ねばもう片方も死ぬ。不思議な運命共同体。

 

「やってやるさ」


 必ず手に入れて見せる。


 勇者よりも多い実績を。

 勇者よりも遥かに高い名声を。

 勇者が得ることのできなかった栄光を。


 俺は立ち上がると、いずれ世界を滅ぼす邪神に拳を突き出して誓う。


「俺は勇者を――ぶっ潰す」


 邪神もまた、拳を突き出し嘲笑うかのように言った。


「邪神様を利用するんだ。それなりに覚悟はしておけ! 人間!」


 こうして、ピエロと邪神の契約が――ここに結ばれたのだった。


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