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「おかげですっきりした」


「だからさっきから言ってるだろ! わっちは邪神様なのだ!」


「うん。わかった。わかったから静かにしてくれないか」


「むきーっ」


 自称邪神発言があってから数分がったった。

 しかし、俺がいまいちな反応しかしないため、こいつがさっきから邪神邪神と連呼している次第だ。

 

 俺がいまいちな反応しかできていないのは、決してこの変な奴が邪神であることを疑っているわけではない。そもそも邪神というものを聞いたことがないのだ。

 なんなんだ……邪神って。


「なあ、邪神って……いったいなんなんだ?」


「なっ、お前! 邪神を知らぬというのか! ありえぬ! ありえぬ!」


 自称邪神は、再び宙でぐるぐると回りだした。

 そして俺の頭の上に座ると、鼻息を荒くして言った。


「邪神というのはだな! 所謂ラスボスだ! ラスボス!」


「は?」


 ラスボスと言うと、最後の敵ってことだよな?


「ラスボスならもう倒したぞ」


 そう言うと、自称邪神は俺の顔をゲシゲシと踵で蹴りながら。


「あんな奴、ラスボスじゃないぞ! あれは、わっちが復活するための餌にすぎん! 今回の奴は出来損ないだったけどな!」


 はあ……よくわからんが、つまりこいつはあの、世界の3分の1を滅ぼした魔王よりも強いのか?

 それやばくないか。


「なあ、てことはだ。お前、魔王より強いってことだよな? 前に、魔王が大暴れしたってのは500年前だと伝承にはあるが、邪神のことなんて一言も書いてなかったぞ?」


 邪神復活のために魔王が存在するのならば、500百年前の魔王襲来時にも邪神は現れたはずだ。魔王よりも強いとなれば、記述に残っていないわけがない。


「うむ。わっちは魔王の数100倍強い。強すぎる! しかし! わっちがそんなこと知るわけないだろ! 人間!」


 うーん。やはりよくわからんが……それなら、もう一つ気になることがある。


「うん。お前が邪神で、魔王よりも強いのはわかった。ただもう一つだけ聞いてもいいか?」


「ん。なんだ、人間!」


 俺は今日一番の真面目な表情を作り、真剣にこの質問を問う。


「その、超強い邪神様の見た目が……どうしてそんななんだ?」


 質問を聞いた瞬間、自称邪神は俺の頭から離れ、猛スピードで宙を回りだした。

 それから目にも止まらぬ速さで俺の目の前に来ると、自称邪神はぷんすか怒りながら言った。


「むっきー! お前がやったんだろ! 人間! わっちを馬鹿にするのも大概にしろ!」


 意味が分からなかった。

 俺が、やったとは一体何のことを言っているのだろうか。


「俺が?」


「そうだ! お前だ、人間! お前がお昼寝中のわっちの核をぶち壊したから! 核の修復に貯めてた力を使うことになって! このような姿になったのではないか!」


「あー、なるほど?」


「とぼけるな! わっちがここで眠っていることをどう知ったかは知らんがな! 核をジャストミートでぶち壊すなど! 狙ってやったとしか思えん!」

 

 聞くところによると、どうやら睡眠中の邪神の核を不意打ちで破壊したのが俺ってことか?

 そのような覚えは全くないのだが……


「つまりあれだろ? 俺が落ちた先がたまたまお前の核だったってこどだろ? 悪いが狙ってやったわけじゃないんだ」


 おそらくこの自称邪神の元の姿はこの空間を埋めるほどの大きさで、体も相当ふわっふわだったに違いない。

 それならば核の大きさもそれなりに大きくなり、俺が偶然核に落ちる可能性も少しは高まるし、生きていることも頷ける。


「狙ってないだと! ふざけるな! わっちを侮辱するのもいい加減にしろ! なら、なぜお前は上から落ちてきたのだ!」


「それは――」


 正直考えても無駄だと思っていたから、考えないようにしていた。

 勇者を裏切ろうとしたら逆に裏切られたなんて、笑い話にもなりやしない。


 未練はある。だけどそれは、あの勇者を見下したい。あの男よりも上に立ちたかった。ただそれだけのことで。

 誰かにこの思いを伝えても、どうにもならないことだから。誰にもこの本音を言ったことはなかった。

 まあでも、一回死んだようなもんだし。もういいか、言っても。

 

「俺はさ……これでも勇者に憧れてた。こんな俺でも、なりたかったんだ。勇者ってやつに」


「ん? どうした? 人間。いきなり語りだして」


 俺は遥か遠くに見える光を眺めながら、邪神とかいうわけもわからないやつに、心の内を曝け出す。


「勇者に向かない性質なのはわかってる。こんな暗くて内気な奴、勇者には向かない。だから、あいつは、フランは本当に勇者になるべくして生まれた存在なんだと思う」


「おーい、聞こえてるか―? 人間ー」


「あいつが聖剣に選ばれたって聞いたときは、ああ、やっぱりなって思った。それと同時に、俺は選ばれなかったんだってわかって。それでも諦めきれなくて。一生懸命努力して努力して努力して」


「なー、これいつまで続くんだ?」


「努力の甲斐あって勇者の仲間になれて、本当に嬉しかった。でもな、俺は『奇術師』だから、興味本位で聞いちまったんだよ。あいつの、心の声を」


 『奇術師』特有の魔法『以心伝心(テレパシー)』。相手の考えていること、思っていることを聞くことができる。また、一定の関係値を気づくことで心による会話が可能になる。


「どうしてこいつらは、この俺ができることをできないんだろうな。努力なんかして、馬鹿だろ――って、あいつは俺たちのことを見下していやがったんだよ」


「うへー、それは性格の悪い勇者だな! 人間! でも、これ大丈夫か? ひたすらお前が話してるだけだぞ!」


「あんな奴に富も名声も与えちゃならない。あいつはそれを得るべき人間じゃない。だから―—裏切ってあいつを地の底に叩き落してやろうって、そう決めたんだ」


 だから俺は、魔王城に向かう前夜、勇者以外の全員にこのことを話した。信じないやつも、それでもいいからついていくってやつもいた。それでも俺はどうにか丸め込んで、裏切りの作戦を企てた。


「それで奴を嵌めようとしたら、逆に裏切られて、今にいたるわけだ」


 そもそも俺がこんなことを企てなければ、こんなことにはなっていなかった。

 全部、俺が悪い。


「ん、終わったのか? 人間」


 俺の長い話を邪魔せずに聞いてくれた自称邪神は、いつの間にか再び俺の頭の上に乗っていた。

 

「ああ、悪かった。ありがとな、話聞いてくれて。おかげですっきりした」


 この気持ちを人――ではないが、誰かに伝えたのは初めてだった。

 案外誰かに気持ちを伝えるってのは、気分がいいものらしい。


「まあ、それはいい。お前が落ちてきた理由も何となくわかった。だがな、一つ言わせてもらうぞ人間!」


「ど、そうぞ」


 そういいながら邪神は俺の頭から降り、指を突き付けて言った。


「邪神を倒すということはな。本来、魔王を倒すことの数百倍、名誉なことなんだぞ!」


「……」


 もしかして、俺のこと励まそうとしてる?


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