「サキュバスに似てるけど」
あらすじに近しい場面は3話になります。初日は時間をずらしてその3話まで投稿しますので、少々お待ちください。
煌々と光り輝く聖剣が、魔王の核を貫いた。
「ぬぅおおおおぉぉ! おのれえええぇぇぇ! 勇者よ、これで終わりだと思うなよぉぉぉぉ!」
消えゆく魔王の影をトドメとばかりに薙ぎ払い、我らが勇者フランはその手に握る聖剣を天高く振り上げる。
「みんな、俺たちの勝利だ!」
フランの勝利宣言に、俺たち勇者一行は勝利の歓声を上げた。
泣き崩れる聖職者のアーリン。その背中をさすりながら、自らも涙する聖騎士のローサ。肩を組んで笑い合う魔導士のジークと重戦士のガリオ。一人安堵する銃士のルーク。
そして、『奇術師』の俺、アベルはフランに向けてグッドポーズをした。
俺のグッドポーズにフランは笑顔で返してくれる。
「さ、みんな。さっさと引き上げて報告に行こうか! 今夜は宴だ!」
そう言ってフランはみんなの元へ駆け寄る。
純粋な笑顔で心底嬉しそうに、勇者は俺たちの元へとやってくる。
フランと俺たちの絆は固い。特に俺とフランとローサは幼馴染で、生まれてから今日までの18年間、ずっと一緒に過ごしてきた仲だ。
共に過ごし、共に成長し、共に冒険し、共に魔王倒した。これ以上の絆がどこにあるというのだろうか。
――しかし、彼は知らない。
この俺の策略により、勇者裏切りの計画が企てられていることを、彼だけが知らない。
「アベル。本当に君は良くやってくれた。君がいなければこの戦いには勝てていなかったかもしれない」
何も知らない勇者は、首謀者の俺に手を伸ばす。
しかし、残念だがここでお別れだ。
「いやいや、そんなことないだろ」
そう言って彼の手を握り返すその直前、俺は一歩距離を取り指を鳴らす。
その瞬間、彼の足元に仕掛けておいた術式が展開され、直径2メートル深さ500メートルもの大穴が出現し――
「――あ、れ?」
え、な、なにがどうなってる? 確かに発動したはずなのに、なぜ俺の足元に術式が!?
いや待て、そんなことよりもこのままだと俺が落ち――
そう思い咄嗟に回避しようとするが、体が固まってしまって動かない。
これはまさか――
「あー、すまんなアベル。お前の言い分ももっともだったんだがな、やっぱしありえんわ」
やはり、重戦士ガリオの威嚇のせいで体が……
そして、この術式は反転魔法。それができるのは魔導師のジークしかいない。
「僕たちがフランを裏切る? ありえないよ」
もう、全部理解した。そうか、そういうことか。
あーあ。うまく丸め込んだと思ったんだがな。失敗した。
最後に俺はフランを睨んで嫌味を吐いた。
「お前は楽でいいよな。ただ選ばれただけで何の努力もしてない癖に、富も名声も好き放題できる。でもな、俺は知ってるのさ! お前が俺たちを見下していることを! そうだろ? なあ!」
俺の言葉に、フランはすかしたような顔で笑うと、最後に俺の目を見て言った。
「惨めだな、アベル」
その直後、視界は暗闇に変わり、奈落の底へと落ちていく。地上に大きすぎる未練を残して、落ちていく。
* * *
「おのれおのれ! 人間風情が、勝ったつもりでいるんじゃないぞ! おい! 寝たふりするな!」
目覚めはそんなやかましい喚き声だった。
ぼやける目をこすって、軋む体をどうにか起こす。
「いたたた。あれ、俺生きてる。折れても……ない。てかここどこだ?」
両手両足を動かしてみるが、特にこれといった怪我はなさそうだ。軽く痛む箇所はあるが気にするほどではない。
辺りを見回してみると、ここが洞窟の一部であることがわかった。奥に続く道が見えるし、点々と光球が浮いており辺りを照らしている。また、上を見上げると小さく光が漏れているのが目視できる。
それならとりあえず、外に出る方法を探してみるとするか。
「起きたな人間! おのれよくもやってくれたな! 許さないぞ! 許さないぞ!」
――っと、その前に、一応回復しておくか。
「このくらいの怪我ならヒールで事足りるだろ……って、そうか。魔王戦で魔力枯渇してるんだった」
まあいいか。大した怪我じゃないし。
「おい! 無視するな人間! 人間の分際でわっちを無視しようなど、決して許されることではないぞ!」
それにしてもよく生きてるな俺。
ジークの反転魔法は反転率100パーセントのはずだ。つまり俺の仕掛けた穴と同じ深さのはず。少なくとも500メートルは落下したはずなんだが。
「奇跡ってのは、意外と起こるもんなんだな」
「もう、怒ったぞ人間。ちょっと今から殺すから、10年そこで待ってろ!」
「いや10年って長いな! というかさっきから何なんだお前は」
別に無視をしていたわけではない。
俺は死後の世界とか幽霊とかそういう類の現象をまったく信じない性質でな。まさか、そういう幻の類なのではと疑って、気づいていないふりをしていたのだ。
「ようやく聞く耳を持ったか人間! わっちは激おこであるぞ!」
目の前でさっきから喚き散らしているのは、牛のような角と狐のような尾を生やし、天使の羽と悪魔の羽を片方ずつ生やした紫紺の髪を持つ少女だ。少女と言っても身長は約50センチほどで、宙に浮きつつ胡坐をかき、腕を組みながら俺のことを睨んでいる。
「あ、そ。その激おこのお前さんは一体何者なんですかね? 下級のサキュバスに似てるけど」
見た目は少し違うが、サイズや珍しい人型の魔物という点ではサキュバスに似ていなくもない。
「むきーっ。わっちをあの淫乱共に似てると言ったな! むきーっ。むきーっ」
浮いている変な奴は、頬を爆発寸前の風船のように膨らましながら、宙をぐるぐると物凄い速さで回りだした。
それって、どういう行動原理なのだろうか。
「んー、悪かった。謝るから一旦落ち着いてくれないか」
俺が適当に頭を下げると、変な奴は急に回るのをやめた。
そして静かに俺の目の前へとやってきて。
「ぶほっ」
その小さな姿からは想像もできない威力で、俺の頬をビンタした。
え、大丈夫? 俺の顔、ついてる?
「ふん! ひとまずこれで許してやる! 感謝しろ、人間!」
「あ……ども」
駄目だ。この変な奴はそこらの下級サキュバスとはわけが違うぞ。
「まあいい。それで、わっちの正体だが……ちびる準備はできてるか?」
「はあ……まあ、はい」
「うむ! いいだろう。ならば教えてしんぜよう! 驚いてちびることなかれ。わっちの正体は……!」
ちびる準備をさせたりちびるなと言ったり。
突っ込みたい気持ちはあるのだが、変に口を挟んでビンタされては困るからな。ここは黙って受け流す。
すると、変な奴はその小さな体を精一杯大きく見せようと両腕を大きく広げ、首をもげそうなほど反らしながら、自信満々に意気揚々と、声高らかに言った。
「邪神様だ!!!!」
あー、えっと……その……
「――――はい?」
応援していただけると嬉しいです<(_ _)>