先輩
しまった、エピローグ用のネタを用意し忘れた……orz
「はぁはぁはぁはぁ……やった、のか?」
機婦神が春野スミレに戻るのを確認して、俺は銃口を下ろした。
見てみると、俺の魔法杖は元の『魔銃』の姿に戻っている。
どうやら、これが黒服の言っていた玉切れの状態なのだろう。
どう絞り出しても、これ以上はもう何も出そうにない。
酷い倦怠感が襲いかかり、文字通り精根を使い果たしたような気分だが、俺は不思議とスッキリとした爽快感に包まれていた。
「……そうだ、香澄先輩。大丈夫ですか!?」
俺は香澄先輩の安否を確かめるために、急いで駆け出した。
「私なら、なんとか大丈夫!あっ……」
香澄先輩の元気な声。
良かった、どうやら無事のようだ。
「……ダ、ダメ!今、こっちに来ちゃ駄目ぇぇぇ!!」
しかし、香澄先輩は何かに気が付いて、俺を押し留めようと大声で叫ぶ。
「どうした!?まさか、倒しそこなって………………あっ」
だが、香澄先輩が制止するも時既に遅く、俺はそれをばっちりと目撃してしまった。
文字通りモデル級の凹と凸と、そしてなだらかな曲線。
山あり谷あり茂みありの、神が創りたもうた一大スペクタル。
……考えてみれば当然の話だった。
機婦神の身長は六メートル近くもあったのだから、身体のサイズがそれほどの変化を起こせば、着ていた衣服がどうなるかなど、簡単に説明する事ができる。
今、俺の目の前には、現役の人気モデル、スーミンが生まれたままの無防備な姿で――
「――えっちぃぃぃぃぃ!!」
「ブフォォゥッ!!」
香澄先輩に思いっきり殴られた。
グーである。
パーでも、チョキでもなく、グーである。
……いや、チョキの方がダメージが大きそうなので、グーで良かったいうべきだろうか。
「えっち!変態!すけべ!えっと、あとは、そのえっと……とにかく、えっちぃぃぃぃ!!」
いかん、余所事を考えている場合ではない、とにかく弁解をしなければ。
「いや、これは不可抗力だから。そりゃチラッとは見えたかもしれないけれど、すぐに目を逸らしたから!全然見てないから!!」
「嘘、じーっと見てたもん!隣に私がいるのにもかかわらず、他の女の裸に見惚れていたもん!!」
……まずい、このままでは香澄先輩に嫌われてしまう。
折角、彼氏彼女の関係になれたっていうのに、その当日に振られるとか悲し過ぎるじゃないか。
「ご、誤解だ!俺が好きなのは香澄先輩だけで、他の女の事なんかこれっぽちも考えてないから!」
それに、『見惚れて』なんていなかったのは本当だ。
今は、妙に気分がスッキリとしているので、不思議とそういった気分にならなかったのである。
「ふ、ふん、そんな事で許されると思ったのなら大間違いよ!もうソレだって元に戻してあげないんだから!!」
そう言って、俺の『魔銃』を指差す香澄先輩。
「…………申し訳ございませんでした」
俺は、一切の言い訳を飲み込んで土下座した。
「…………申し訳ございませんでした」
一も二もなく謝罪を述べる。
「……ふんっ!」
「…………申し訳ございませんでした」
額を地面に擦りつけて、ひたすら許しを乞う。
「……」
「…………申し訳ございませんでした」
なのでコレを返して下さい。
お願いします許して下さい、何でもしますから!
……いや、本当に何でもしますから!!
「――うおっほん!!痴話喧嘩なら余所でやって下さる?」
と、そこへ救いの女神が手を差し伸べて……いやいやいやいや、ここで茉莉華さんの声に反応して顔を上げるのは悪手だ。
俺は香澄先輩一筋、俺は香澄先輩一筋、俺は香澄先輩一筋……よし、これだ!
「茉莉華さん、その……はい、すみません」
「はぁ、まぁいいわ。後始末は私達に任せて、香澄達は先に帰りなさい」
俺は香澄先輩一筋、俺は香澄先輩一筋、俺は香澄先輩一筋……
「でも……」
「元々、香澄はここにいないはずの想定外の人員なんだから問題ありませんわ」
俺は香澄先輩一筋、俺は香澄先輩一筋、俺は香澄先輩一筋……
「……」
「はぁぁぁ……私、もう香澄の恋愛相談に乗るのはうんざりですの」
「ま、茉莉華さん!!」
俺は香澄先輩一筋、俺は香澄先輩一筋……ん?今、なんか凄く気になる発言が無かったか?
「ようやく振り向かせた彼なんだから、いい加減許してあげなさい。もうこれ以上、私の手を煩わせないで下さる?」
「ちょ、ちょっと、それは誰にも言わないって……」
……ん?何だ何だ?どういう事だ?
「はいはい、それじゃあ私は二人の邪魔にならないように、失礼するわね。では、ごめんあそばせ~」
「も、もう茉莉華さん!!」
すると、茉莉華さんの足音が遠ざかっていき、それから黒服達に指示を飛ばしているのだろう声が聞こえ始めた。
「……」
「…………申し訳ございま――」
「――もういいわ、立って」
香澄先輩の許しを得て、俺は立ち上がる。
当然、視線は香澄先輩に固定だ。
余所見は俺の死を意味する…………主に男性的な意味で。
「そんな風にしなくても、スミレさんは保護されていったから安心して」
「……あ、はい」
その言葉を聞いて、ちょっとだけ肩の緊張がほぐれる。
「…………助けてくれて、ありがとうね」
突然、香澄先輩がポツリと呟いた。
「えっ?えっと、何が?」
「貴方がいなかったら、きっと私は機婦神に洗脳されてしまっていたわ。それに、スミレさんも……」
「いや、あれは、その、なんというか……」
くそっ、こんな時、なんて言ったらいいんだ。
もし俺がイケメンなら、きっと香澄先輩がうっとりするような、素敵な一言を言っているに違いない。
……現実はどもる事しかできないがな!
「それに最後のアレ、凄く嬉しかった」
「アレって?」
「機婦神を倒したあの時、私にもう一度告白してくれたでしょう?」
「いや、あの時は香澄先輩の事で頭が一杯で……」
何と言うか無我夢中だったというか、煩悩全開だったというか……
「……ねえ、さっきの件は許してあげるから、一つ私のお願いを聞いてくれる?」
「えっ?……あっ、はい」
一体何をお願いされるのだろうか……想像もつかない。
いや、だが先程の件を水に流してくれるのなら、何でも言う事を聞こうではないか。
すると、香澄先輩はちょっと恥ずかしそうに目を伏せて、小さく口を開いた。
「わ、私の事をちゃんと名前で呼んでくれる?その、もう先輩後輩じゃないんだから……」
ぐふぅぅ、香澄先輩がめちゃめちゃ可愛い!
落ち着け、落ち着くんだ俺。
たたたたたたた、ただ名前を呼ぶだけじゃないか、うん。
「…………か」
……くそぅ、面と向かって言うとなると照れるな。
「……か、香澄」
「……はい」
はにかむような笑顔。
そんな香澄せ……香澄の仕草に、俺の心臓はどうしようもなく高鳴ってしまう。
なんだか、負けたような気がして少しだけ悔しい。
――その時、俺はちょっとした悪戯を思い付いた。
「じゃあ、俺の事も名前で呼んでくれないか?」
「えっ?う、うん」
彼氏が彼女を下の名前で呼ぶのなら、彼女も彼氏を名前で呼ばなければ不自然だと指摘し、その提案は香澄に受け入れられた。
「じゃあ――」
だが、名前を言われる前に、俺は香澄の唇を塞いでしまう。
俺が告白した時もいきなりされたんだから、これでお互い様だよな?
……それから俺は、香澄の身体を抱き寄せた。
――こうして長い一日が終わり、俺達二人の新しい関係が幕を開けるのだった。
【今日のQ&A】
Q おう、なに完結してんだよ、続きあくしろよ!?
A えっ、マジで?書かなきゃダメ?……こんなの長編で読みたいの??本当に???