決戦
加熱した物語は、遂に危険な領域へと突入する……
飲み物の準備は出来ているな?
拳銃を携えた黒服の屈強な男達が、茉莉華さんの下へとぞろぞろ集まってくる。
「……申し訳ございません茉莉華様、もうじき玉切れです。我々ではこれ以上、機婦神を足止めできません」
あの黒服が手に持っている拳銃って、やっぱり魔法杖なんだろうか?
そうなると、ここにいる黒服全員が茉莉華さんの契約者という事で…………
……うん、それ以上は考えないようにしよう。
「ご苦労様、お前達の時間稼ぎのおかげで切り札が準備できてよ。残りの玉が尽きるまで、全員でこの坊やを援護なさい」
「はっ、了解です!!」
そう言って、次々と散開していく黒服達。
……茉莉華さんって、一体何者なのだろうか?
「そろそろ時間も無くなってきましたわ。これで坊やの『魔銃』が駄目だったら、全員撤退よ!」
茉莉華さんの言葉を聞いて俺は『魔銃』を握り直し、これから立ち向かう機婦神へと目を向けた。
だが……
「……いない!?」
あれだけの巨体だというのに、少し目を離した隙に完全に見失ってしまっていた。
「上だ!!」
どこからか聞こえてくる叫ぶような声。
見上げるとそこには、こちらに向かって飛来する機婦神の姿があった。
『ホモォォォォォォォォ!!』
推定体重三二〇〇キロもの質量が、重力に従って自由落下し始め……そして着地。
――ドゴォォォン!!
まるで目前に隕石が降ってきたかと錯覚する程の轟音と衝撃。
巻き上がる砂煙が視界を塞いで覆い隠す。
『男に愛される雌の匂いがするぅぅぅ!どぉぉこぉぉだぁぁぁ!?』
何も見えない中、機婦神の耳障りな金切り声が頭に響く。
……一体何故、どうして機婦神はこっちにやってきたんだ!?
『そこかぁぁぁぁ!!』
「いやぁぁぁぁぁ!」
突然上がる香澄先輩の悲鳴。
……まさか!?
『私はこんなに不幸なのに、どぉぉじで貴女だけ幸せぞぉぉなのぉぉぉぉ!?』
徐々に砂煙が晴れて視界が確保されてくると、ようやく事態が把握できた。
香澄先輩が、機婦神の手に捕えられていたのである。
「香澄先輩!!」
機婦神に掴まれている香澄先輩は、体長六メートル程の巨体に比べてあまりに小さく、まるで子供が遊ぶ人形のように見える。
ちょっと変な方向に力が加われば、香澄先輩の華奢な身体はすぐにでも壊れてしまうだろう。
それこそ子供の癇癪に壊されてしまう人形のように……
『貴女もホモになってしまえばいいのよ、ホモォォォォォォォォ!!』
機婦神の不快な叫び声と共に発せられる、指向性のBL波。
「ぐっ……」
こちらにも余波が届き、眩暈のようなものに襲われるが、今回はなんとか耐える事が出来ている。
……しかし、これはあくまでも余波。
香澄先輩はこれ以上のBL波を受けた事になる。
「くっ、この程度で……!!」
案の定、香澄先輩は機婦神の強力なBL波を浴びて、耐えるように歯を食いしばっていた。
『強情な雌ね、だがそれもいつまで保つかしら?ホモォォォォォォォォ!!』
しかし、機婦神はそれを嘲笑うかのように再びBL波を放つ。
香澄先輩が標的にされているというのに、俺は余波に耐えるだけで精一杯で、この場から動く事さえままならない。
「いやぁぁ!!私はBLなんて……BLなんて……私が好きなのは…………」
『ほもぉーっほっほっほっほ、良い具合に染まってきたようね。口では何と言おうと、この世にホモが嫌いな女子なんていないのよ!!』
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
耳を塞ぎたくなるような、香澄先輩の絶叫。
まずい、このままでは香澄先輩が機婦神に洗脳されてしまう。
今は余計な事を考えている場合じゃない。
俺は機婦神に銃口を向け、引き金に指を掛ける。
万が一にも香澄先輩当たらないように、そして極力、素体となっている人間の命を奪ってしまわないように、脚に狙いを付けて。
「……くそっ、こうなったら自棄だ!」
俺は引き金を引いた。
――チュイィィィン!!
甲高い音と共に、銃口から白く細い光が迸り、機婦神の脚に当たってはじける。
『ホモォォォ?』
僅かに動きを止めて首を傾げる機婦神。
「効いて……ない?」
しかし、機婦神は何もなかったように、再び香澄先輩を洗脳しようと動き始めてしまい、俺が期待するような効果があったようには見られない。
「何をやっているんですの!!そんな自分よがりな気持ちで、機婦神が満足するとでも思って!?」
「……じゃあ、どうすればいいんですか!?」
俺は苛立ちを吐き出すように、茉莉華さんにぶつけた。
「貴方の想いはそんな物でして?香澄のあの姿を見ても、貴方は何も思わないのですか?」
しかし、茉莉華さんは諭すような口調で俺に語りかけ、そして機婦神に捕えられている香澄先輩を指差す。
「魔法杖は、人の想いを乗せて戦う武器でしてよ!!」
茉莉華さんが示した先では、香澄先輩が度重なるBL波を必死になって耐えていた。
俺は、言われた通りにその姿を目に焼き付ける。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………うぅっ!」
繰り返される荒い呼吸。
激しく乱れ舞う長い黒髪。
赤く上気した頬。
洗脳に負けまいとする苦悶の表情。
そして……
「うぅっ……んん……んんっ、ああぁぁぁァァァッッ!!!」
……時折上がる艶めかしい叫び声。
「香澄先輩……」
…………凄く、エロいです。
こんな時に不謹慎だとは思うが、目が離せない。
機婦神の素体となった人間は、モデルをしているだけあってとても美人であるし、そんな彼女の責め苦を受ける香澄先輩の姿は非常に官能的で、そして背徳的であった。
それらが、俺の雄の部分を刺激したとしても仕方のない事だろう。
――ドクンッ!
不意に何かが脈打つような感触があった。
「……うん?」
――ドクンッ、ドクンッ!
まただ、またどこかで何かが、とても力強く脈動する。
「あ、貴方……その魔法杖は一体!?」
茉莉華さんから上がる驚愕の声。
俺は、それでようやく理解する事ができた。
先程から鼓動を打っていたのは、右手にある『魔銃』だったのである。
いや、それはもう『銃』と呼べる代物ではない。
ドクンドクンと俺の心臓の音に合わせて、ソレは大きく、太く、固くなっていき、天を衝くようにそそり立つ様は『魔砲』と呼ぶに相応しい。
――ゴクリ。
誰かが息を飲んだ。
「茉莉華さん。俺、香澄先輩の姿を見て、ようやく分かりました」
「えっ?ええ、あの、その、そ、そうね……」
そうだ、香澄先輩は始めから言っていたじゃないか。
機婦神を倒す事ができるのは、肥大化した男性不信を払拭する程の強い愛情だって。
もしも、魔法杖が人の想いを乗せて戦う武器だというのなら……
「俺の香澄先輩への愛情を、この『魔砲』に乗せて放てばいいんですね?」
「あぁ、うん、そうよ。思いっきり、ブッ放しちゃって」
……なんだ、香澄先輩の言う通り簡単な事じゃないか。
俺は抱えるようにして『魔砲』を構え、再び機婦神に銃口を向けた。
今度は、機婦神の中心を捉えるようにして狙いを付ける。
誤射を気にする必要はない、俺の『愛』が香澄先輩を傷つけるなんてありえないのだから。
俺はありったけの想いを込めて、引き金を引き絞った。
――香澄先輩、一目会った時から好きでした!!
「イッけぇぇぇぇぇぇェェェ!!!」
獣のような雄叫びと共に、俺の『魔砲』から白い光の奔流が放たれた。
止めどなく溢れ出る白の閃光が、空に線を描いて香澄先輩と機婦神に迫る。
『ホモォォォォォォォォ!!』
しかし、機婦神もBL波をバリアのように展開して対抗してみせる。
その姿は、まるで他人からの愛情を拒むかのよう。
――衝突。
そして僅かな拮抗。
一瞬だけせめぎ合うような様子を見せるも、俺の『魔砲』はブチンッという音を立ててバリアを食い破り、一本の槍のように二人を貫いた。
『あああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!』
機婦神は絶叫を上げて地面に倒れ、拒絶反応を示すかのようにビクンビクンと痙攣を引き起こす。
そして、しばらくすると落ち着きを取り戻し――
『――暖かい……これが、【愛】…………私も欲しかったなぁ……』
そう小さく呟くと、春野スミレは元の大きさに戻って、眠るように目を閉じた。
【今日のQ&A】
Q これ何てエロゲ?
A いいえ、バカゲーです。