正体
ホモォォ…┌(┌ ^o^)┐ホモォォ…
ホモォォ…┌(^o^ ┐)┐ホモォォ…
あれから何をどうしたのか記憶が曖昧だが、俺は香澄先輩と一緒に現場へとやってきたらしい。
俺の右手には確かな重量を持った『銃』が、自己主張するように存在感を放っていた。
「俺の、俺の『銃』……」
夕陽を反射してキラリと光る黒金の凶器。
怪しい温もりを帯びたそれは、傷一つ存在せず、まるで新品のようにピカピカである。
そう、ピカピカである……
「……元に戻るよな?」
俺は誰に言うでもなくポツリと呟いた。
その声は誰にも届く事なく、風の中へと消えていく。
「――香澄!どうして貴女がここへ!?」
不意に投げ掛けられる鋭い声。
目を向けると、黒いエナメル質のボディスーツに身を包んだ女性が、こちらへ近付いてきていた。
年の頃は俺達より少し上くらいだろうか?
清楚な雰囲気の香澄先輩とは対照的に、どこか妖艶な色気を放つ蠱惑的な女性である。
「茉莉華さん、アレを見て応援に駆け付けました」
そう言って巨大な人影を指差す香澄先輩。
大きさは六メートルぐらいだろうか?
俺の四倍近くある巨体は、近くで見るとその迫力が良く分かる。
「未契約の貴女が来ても足手纏いでしてよ、さっさと帰りなさい!」
「契約なら、先程済ませました。魔法杖だってちゃんとあります!」
……すげーな、体長が四倍って事は、体積は六四倍だろ?
元の体重が五〇キロだと仮定すると…………
「そう、それじゃあ彼が、香澄の念願の契約者なのね」
「えっ?……あっ…………そうです……はい」
え~っと、単純計算で三二〇〇キロ!?
うへぇ、そんなの怪獣じゃねえか。
そんなの相手に、俺の『銃』でどうにかなるのかよ。
「照れてる場合じゃなありませんわ!……それで、彼の魔法杖は役に立つの?」
「勿論です!凄く大きくて無骨な、大口径の『魔銃』でした!!」
「そう、それなら大丈夫そうね。……でも、そういう事はあまり大きな声では言わないように。はしたなくてよ?」
「あっ、はい……その、気を付けます」
……ってあれ?
あの顔、どこかで見た事があるような気がするんだが……
「そうだ思い出した、モデルの春野スミレだ!!……すげー、生スーミンだ!それもでかい!!」
痛ッ!
視線を横にやると、香澄先輩が俺のお尻を抓っていた。
「…………ばか」
ちょっと頬を膨らませて、小さく呟く香澄先輩。
どうやら、俺が他の女性に目移りしていたのを、見咎められたようだ。
「ごめん」
俺も小声で、香澄先輩に謝る。
「……ならいい、許す」
お尻の痛みが無くなり、代わりに俺の左手が温かい感触に包まれる。
俺も香澄先輩の存在を確かめるように、手を握り返した。
「……」
香澄先輩と目を合わせようとすると、まだ少し怒っているのか、プイッと逸らされる。
しかし、僅かに頬が緩んでいるのが見えるので、そこまで機嫌が悪い訳ではないようだ。
こんな些細な事で嫉妬する彼女が、愛おしくてたまらない……
「――うおっほん!!」
突然の咳払いに驚いて、思わずビクンッとしてしまった。
「イチャイチャしたいなら、帰って下さる?」
ボディースーツの女性――茉莉華さんが、こちらを睨んでいる。
すみません、芸能人を初めて生で見たので、ついはしゃいでしまいました……
「……って、そうだ!アレって、どう見てもスーミンですよね?モデルの春野スミレ。どうして彼女が怪獣みたいになっちゃってるんですか!?」
えっ?何どういう事?
スーミンをこの『銃』で撃ち殺すの?……まじで!?
「……香澄?」
「すみません茉莉華さん。急な事だったので、まだ全部説明できていないんです」
「……教えて下さい、香澄先輩。スーミンは並行世界からやってきた侵略者だったんですか!?」
てっきり特撮ヒーローに出てくる怪人みたいなのを想像していたのに、相手が顔を知っている人間であれば話が変わってくる。
『銃』を向けて引き金を引いた時、その先には春野スミレという人間の死が待っているのだ。
俺は、生々しいリアルな『死』を想像して、今更ながら身体が震えてきた。
……ちくしょう、こんなんで俺は香澄先輩を守れるのか?
「落ち着いて聞いて。彼女は並行世界からの侵略者に洗脳されて、その尖兵である負女使にされてしまっただけなの」
「……負女使?」
「ええ、彼らはこちらの世界で同性愛を広めるために、自分達に都合のいい人間を洗脳して手足として使っているわ。そして、洗脳に適した人間とは、異性に対して強い不信感や嫌悪感を持っている人間」
……そうか、言われてみれば春野スミレは、その条件にピッタリと当てはまる。
春野スミレは、交際相手が妻子持ちという事を知らずに付き合っていたそうで、そのスキャンダルは連日ニュースで報道されていた。
確か、今日もその事がニュースで流れていたと思う。
「洗脳されて負女使となった人間は、異性に対する負の感情を撒き散らし、周囲の人間に伝播させてどんどんBL化させてしてしまうの」
……まさか、それがBL波の正体なのか。
「そして、負女使の中でも特に強い感情を持っている人間は、次のステージに至る事がある」
「それがあの巨大化?」
「ええ、私達はあれを機婦神と呼んでいるわ」
「機婦神……」
なんてこった、聞けば聞く程ヤバそうな相手じゃないか。
例えるなら、負女使は戦隊物でいう所の怪人で、機婦神は巨大化したボスって事だろ?
そんな相手に、いくら『銃』で武装したからって立ち向かう事ができるのか?
「そして、機婦神に至る程に肥大化した男性不信を払拭する事ができるのは、それ以上に強い愛情だけ!!」
「……愛情?」
強い愛情?一体どういう事だ?
「お願い!今、機婦神を退治できる程に出力の高いの魔法杖は、貴方の『魔銃』しかないわ」
「俺の、魔法杖……」
「自信を持って!貴方の魔法杖は、こんなに大きくて立派なんだから」
俺は右手に持った無骨な『魔銃』を見詰め、そして香澄先輩の言葉で覚悟が決まった。
「香澄先輩、スーミンを救う事はできるんですか?」
「勿論。洗脳されて男性不信が肥大化しているだけだから、それが取り除かれれば大丈夫よ」
「分かりました、それでどうすればいいんですか?」
「簡単よ、貴方の魔法杖で…………」
しかし、香澄先輩は最後まで言う事ができず、突然響いた大音量によって、途中で掻き消されてしまう。
『ホモォォォォォォォォ!!』
見ると、巨大なスーミンが天に向かって吠えていた。
【今日のQ&A】
Q これは一体なんの冗談ですか?
A 『愛』が世界を救う!(迫真)