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黒石の魔女  作者: ku
2章 新たな家族
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彼女なりの指導

「何がおかしいんですか」

 分からず、そう素直に質問すると阿呆を見る目で口をあんぐりと開けられる。

 彼は若干震える手で床に並んだ素材をそっと持ち上げた。表面が金属のような鈍い光沢を放つレッサーワイバーンの翼だ。

「お前、この価値が分かってんのか」

「いえ、知りません。そんなに凄かったですか?」

「阿呆が。中堅冒険者パーティーでも苦戦する魔物だぞ。まさかお前が狩ったんじゃねえよな?」

「頂き物です」

 まさかそんな貴重なものが混じっていたとは。

 ギーガーにはどこかでお礼をしに行かなくてはいけないなと考え直す。この格好で高級街は悪目立ちするだろうか。

「だとするとこの魔石と頭もか。とんでもねえコネ持ちだな」

「鳥の魔石は頂き物ですが、その頭は三人で狩ったものですね」

「あ?」

 正直に答えたらキレられた。しかし本当のことなのだ。

「いや、違うでしょう」

「俺らは後ろで見ていただけで、最初からリーダーだけで倒したじゃないですか」

 そして当時のことを解説してくれる二人にそう言えばそうだったなと頷くと、わしりと頭を掴まれた。

「お前、お前……こいつは変異種か、キメラだろうが」

「変異種? キメラ?」

 初めて聞く単語だった。説明を求めると、多量の魔力を浴びた個体が突然変異を起こすことがあり、凶暴化することや、あるいは人為的に交配された改造獣をキメラと呼んだりするそうだ。

 どちらも希少な存在で、前者は複数パーティーで討伐隊を組まれるか、後者は研究施設で厳重に管理されるのが普通らしい。

「お前、これを一人で倒したのか?」

「まあ。ですがそうなると、この町付近に着く頃には弱っていたのかもしれないですね」

 氷の冷気に当てられて鈍ったお陰ですぐ倒せたが、複数パーティーが必要だったのだとしたら最初から弱体化していた可能性がある。確か、遠方から通過してきたらしいし、魔物とはいえ疲れていたのかもしれなかった。

 そしてこの頭はいつまで掴まれているのだろうか。そろそろ面倒な空気になってきたが、頼むだけ頼んで立ち去りたい気分になってくる。

「それで、この中で使えるのはあるんでしょうか」

「あ、ああ、この変異種は調べてからだが、滅多に採れない魔石と、ほかの皮類はどれも良質だ。充分すぎるほどだぞ」

「採寸はいりますか。型が既にあるなら、宿を取っているので呼んでもらえれば取りに来ますから」

「ちょ、おい、帰ろうとすんな。分かった、分かったから」

 方向転換しようとしたのを襟首を掴まれて引き戻される。

 苦いものを飲み込んだような顔で溜め息を吐いた彼は、仕方ないと頭を掻いた。

「詮索は止す。嘘も言ってねえようだしな。だが、そんな腕前ならそれらしい武具の一つや二つ持っていて貰わねえと、他の冒険者共に示しがつかねえ」

「別に不自由してないんですよ」

「見りゃ分かる。分別もありそうだ。だが、腕があると理解している奴は相応の敵に挑めるだろう。となると、万が一っつうのもあるわけよ」

 中高ランクに進んだ連中にありがちな死因だと言う。

「腕があるなら自衛も怠るな。いいか、せめて生き残る可能性は大きくしておくもんだ」

 強くそう言われれば頷く他ない。怠っていた訳では無いのだが、お陰で嵩張らない防具を手に入れる機会に恵まれたのだ。有難く受け取るとしよう。

 お代は素材分をまけてくれるとのことで格安で済みそうだ。それも負担するのは二人なので、自分の懐が痛むことはない。彼らの粋な計らいに、改めてお礼を伝えた。

「有難うございます」

「いやいや、いいんですって」

「リーダーが礼を言う必要なんか、何一つだってありはしませんよ」

 そう言う二人とも、経歴はどうあれ気持ちの良い性格をしている。やはり金銭的な余裕が生まれれば人は変われるものなのだ。あるいは、本来がこういう人柄だったのかもしれない。

 このパーティーは思った以上に居心地が良い。お試しだとか数日で解散だとか考えていたのが大分昔のことのようだ。確かに、せっかくリーダーに任命されているのだから二人の為にも下手な格好はできないなと改めるのだった。

「じゃあ十日ほどくれや。宿に報せるからよ」

「よろしくお願いします」

 固く握手を交わす。彼の名はウェス。良い素材を求めて辺境の町にやってきた変わり者ドワーフのウェス、そう呼ばれているらしい。ドワーフなんぞ大なり小なりそういう輩ばっかりだがなと笑っていた。

 結局念の為だと言われて全身の採寸をする時に、二人には一応店側に移動してもらってから測った。そこで女であることが判明して目が点になったり、筋肉の付き方を見て訝しんだりと多少のハプニングはあったがどうにか流して測定が終わったと同時に店を飛び出た。

 不思議そうな二人にはもう暫く黙っていよう。あれを何度も体験するのは、正直面倒だった。





 西日が差し込んで町並みが赤く輝いている。ウェスの工房にいたら随分時間がかかってしまった。これから調合をするにも半端な時間なので、宿に戻ってシズを呼んだ。

《また?》

「お願いします」

 町で購入したブラシで彼女の髪を梳く。ハネっ毛なのは元かららしく所々ぴょこんと飛び出ているが、それはそれで可愛いらしい。丁寧に梳いている間、彼女は薄く瞼を閉ざしてされるがままになっている。気持ちいいのかもしれない。

 服も、いつもの店で見繕ったものを渡して着替えてもらっていた。首まで締める控えめなフリル付きブラウスに、シンプルな足首までのロングスカート。靴は好きではないらしく履いてくれなかった。代わりにハイソックスのようなものを購入して身につけて貰っているが、普段から数センチ浮いているので問題はない。ちなみに下着も嫌がって着てくれなかったので、人前に見せるには少々際どい。出ているところは出て、締まるところは締まっている色気たっぷりの体格でそれはまずい。どこがどうとは言えないが、気付かれたらまずい。

 せっかく店員に変な目で見られながらも購入した諸々は影収納に仕舞うことになったが、仕方ない。潔く諦めた。他人に見せる予定もないし。

 他にワンピースなども揃えており、今はこうして着せ替え人形にされるのを許してもらっている。締め付けが嫌らしく、緩い編み込みを施したりと、まあ完全な自己満足なのだがこれが楽しいのだ。文句はないので良しとしよう。

 そして、それが済むと今度は彼女に魔法をご教授願う。

 いまだ教科書のない闇魔法について、良いお手本が目の前にいるのだから学び取ればいいと思ったのだが、これが……中々難しかった。

《こうすれば、こうなる》

「どうすれば?」

《だから……こう》

「こうですか? すみません、もう一度お願いします」

《………視て》

 そして始まる強制的指導。意識が混濁し、夢を見ているような、誰かの視点に立っているような感覚に浸る。

 それはシズの身体だった。彼女の思ったこと、やろうとすること、どこをどう動かしたのか、何が起きたのかを文字通り全身で体感させられる。これは闇魔法の一種で、他者と意識を共有する感応魔法だ。それも、恐らくだがかなり高度な魔法な気がする。

「………ええと、はい。分かりました」

《そう》

 画期的な教え方なのか、壊滅的に教えるのに向いていないのか、この場合はどちらだろう。


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