蟷螂
「好きよ、貴方の事」
「どのくらい?」
ベッドの上でぼくにまたがる彼女にそう尋ねると、彼女は色っぽい仕草で唇をなぞり、考え込んだ。
「食べたくなるほど、かしら?」
僕は可笑しくなってしまった。ベッドの上に裸体が二つ。ある意味、今だってお互いを食べていると言えるのではないだろうか、と考えたからだ。
「はは、食べたくなるほど、か。じゃあ、今夜は僕を食べてしまって構わないよ」
彼女は、僕にまたがったままキョトンとした後、口角をゆっくりと吊り上げ、艶かしく笑った。
「食べてしまっては、今夜で終わりじゃない」
「何故だい?君が愛想を尽かさない限り僕は――――――――」
「食べるって意味……判ってる?」
がじゅっ
「……は?」
彼女が僕に覆い被さり、艶やかな唇が大きく開いて、僕の肩に歯形をつけた。鋭い痛みと流れる血液。
ぐちぃっ
彼女が噛みついていた場所は、『僕の一部』ではなくなった。頬張った僕をくちゃくちゃと咀嚼する。こんな状況でも、口の端から垂れる僕の血に酷く色気を感じてしまう。
それほどまでに彼女は、魅力的だった。
「貴方がが選んだことよ。……あぁ、私もう止まれないわ。本当に食べたいほど好きだったみたい……」
再び覆い被さる。今度は左の二の腕だ。不思議と痛みは感じない。
「ぁん……こんな状況よ……?貴方、頭かおかしいのかしら」
僕の右手は自然と彼女の下半身へと伸びた。生物は本質として、命の危機に瀕すると性欲が高まると言うが、こう言うことなのだろうか。
彼女の下半身は、前戯によってか興奮によってか、かつてないほどに溢れていた。
「僕も同じさ……食べられたくなるほど、愛していたらしい」
そこからは、彼女は僕を貪り、僕もまた彼女を貪った。文字通り、命果てるまで。
朝、その美しい裸体を真っ赤に染めた彼女の体は、僕の鮮血と白濁に塗れ、危険なほどに美しかった。
僕の肉で満たされた彼女の身体には、相反する事に、僕の命が宿った。僕は最後、薄れ行く意識のなか、僕達は蟷螂の様だなぁと思いながら、果て、尽きた。
「……愛しているわよ、貴方の事……」
最後に、彼女は、肉の山と化した僕の唇を噛みちぎる。その刺激的なキスを、肉の山はもう感じる事はできない。
後には、ベッドの上で一人恍惚の表情で腹をさする彼女のみが、朝日に照らされていた。
完