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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第九十九話 物に込められる思い

 エセルちゃんから正式に許可を頂いて髪の毛一本を頂戴したので、プレゼントへの魔法式を刻む。我々現代人ならば、この意味は簡単に理解できるであろう、DNA情報を認識票として使うマスター設定だ。当然ではあるが、この術式、此方の世界の人間が見て判るものでは無い、だが熟練の魔法師が見て理解出来てしまうかもしれないので、機密保全の為に牛車の中で隠れて行っている。



 先ずは空間拡張による四次元化、有名ッッッ、余りにも有名な、アレだ、青い狸の世界の概念だ。

 そしてアイテムの整理、持ち主の思考とリンクしてどのアイテム呼び寄せたいのかを照合する、亜空間内コンシェルジュとして合成精霊を構築する。どんな風に育てたいのかは持ち主の自由だ。



 多層式魔法陣は、現在構築しただけでも十二を越える。

 フォルダ別けも済ませた上で、機能は少ないが道具袋としては一流だろう。願ったものがバッグから排出されるまでの時間を短縮するための機構のほうが実は多い。座標設定をより正確に、立体的にするために軸の数を増やし、より正確になるように調整を施した。縦軸と横軸だけでは、どうあがいても訳の分からんところへと飛ばされていく、そういう無様な結果を招かないように、斜めや奥行にも軸を置いてGPSのように精確にアイテムを袋の出口へと運ぶ、そこに多くのリソースを割いた、と言う話だ。



 それらの魔法式を圧縮して封じ込めるのにドラゴンの皮の高い魔法抵抗は必須だと言える。構築された魔法陣は大魔法クラスが三、これは防犯用とロック機構と照合用だ。ここを難解にして置かないとセキュリティとしては非常に頼りないものとなる。

 人類の叡智の限りを尽くしたお手製魔法鞄だが果たして気に入って貰えるだろうか?。



 セキュリティの正体はさて置き、このドラゴンの皮が持つ魔法抵抗に対して窃盗を試みる場合、並みの魔法師であれば数十人は必要になるであろうと試算している。皮が魔法を弾くその堅牢さを、強引に貫くには、最低でもドラゴン殺しが可能な魔法使いでも連れてこないと不可能だろう。

 仮に、ではあるが、ユリちゃんがそんな悪さをする事は無いだろうけれど何処まで耐えられるか?と考えてみた、しかし、残念ながら彼女の魔法に、この程度のファイアウォールは無意味だ、本物の魔法らしい魔法は、理論とか理屈をぶっ飛ばしてファンタジーを実現する。結論だけ言えばアッサリ開けられる。例外中の例外なので除外する、抵抗するだけ無駄ってやつだ、絶対に大丈夫とか言われたら先ず勝てない。



 皮の内側は魔法公式で満たされているが余裕が凄い。時間経過も停止させてあるので、生ものを入れても腐らない。これで海産物の移動、取り分け鮮魚の移動が容易になる。いける…いけるぜお刺身を食卓に…、いやいや、これはエセルちゃんの鞄だ、忘れろ俺。



 ガッツリ消耗したマナを回復させるために牛車の寝袋に身体を入れて寝る。ダメだ、マジで起きていられない。




 エセルちゃんの希望を聞きつつお買い物だ。ユリは服飾店での物色を辞める気配が微塵も無いので宝飾店で魔法使いに相応しい魔法石を見繕って差し上げようと考えた訳だ。魔法の補助や魔力を通しやすいものは普通の宝石とは違う性向があって、ただ綺麗なだけの宝石とは訳が違うものだとラノベで読んだ。

 と言う事で大精霊のクーちゃん指導の元、私とエセルちゃんは地味な宝石コーナーでエセルちゃんの特化属性を探していたのだが、全部全く等しく同じように光る。毒だろうが闇だろうが光だろうが全部だ。


「エセルちゃんまでユリと同じかい。」


 要約するとファンタジー要素満載のこの世界に於いても珍しい”全属性”である。私なんて光属性の風と火だ、火属性はアレが原因なんだろうなと遠い目で懐かしき峠の夜を思い出す。

 私の事などどうでも良い。全属性にいい感じの魔法石ってありますかねと店員さんを呼び出して尋ねる。

 やはりと言っては何だが、まぁ固まるわね。ギルドにある属性判定機について聞かれたが、この子魔法学校の属性判定機を壊してしまっているらしいのでおいそれと確認には行けない、弁償とか無理でしょうし。

 商品としては無価値だが全属性だけが使いこなせると云われている無色の魔石が二つばかりあるというのでそれを購入することにした。



 半値まで値切った。

 二人の応援団を引き連れて負けるわけには行かなかったのだ、おねーちゃんとしては是非とも勝ち取りたかった…だが普通プレゼントを値切るのは恥ずかしい事ではないかと気付いたのは嬉しそうに魔力をチャージするエセルちゃんの笑顔を見ている今だ。恥ずぃわ~。



 ユリが店員二人を従えてエセルちゃんを待っていた。

 店舗貸し切りエセルちゃん着せ替えショーの始まりである。

 重めの色から始まったショーを私は楽しく鑑賞していたが四着目の購入が確定したあたりでユリの懐具合を確認する。


「ふぇあ?買えてもあと一着だね!。」


 計算して買いなさい。

 最後は真っ白なステージ衣装のようなデザインであったが縫製を読み取るとユリはそれを店員に渡す。


「これは簡単に解けるからダメね。」


 そうして購入を決めた服は今夜のディナーに着る服と決まり、私もユリも店内を彼是物色開始する。


「んふ~、そうそう。」


 振り返ったユリの指の間に一枚カードが出てクーちゃんに五枚の魔法陣が出る。

 光の糸がすごい勢いで踊って最後の真っ白な衣装がクーちゃんに美しくドレスアップされた。


「はい、プレゼント。」


 粋な事をしたユリはと言えば、そのまま洋服の海へと泳ぎ出した。感動している大精霊のクーちゃんととエセルちゃん横目で確認して私もドレスを探す。

 真剣に探さないと流石に時間は待ってくれそうも無かった。




 女物のプレゼントと言われてササッと決まるほど経験値は無い。服はギルドの付き合いもあって用意するまでも無い程度持っているから買いに行く必要などは無いが、エセルちゃんくらいの子には何を贈るべきかは正直迷う。

 元の世界の妹たちに贈るものの基準とは、間違いなく違うこの危険な世界、ここで生きる彼女にはやはり実用品を贈りたい。

 女子二人には非難されそうだが、実用品こそ至高だと思うのだ。

 店でも使い慣れたお気に入りの包丁、その職人が作っているトラベラーズナイフが狩りの時、この上なく役立つ。ただ、人気のある商品なので果たしてあるかどうか…運次第だ。

 店員を呼んでマフルド作のナイフを所望していると持ちかけると大振りのソードを持って来た。多分要らん事を吹き込んだ犯人はタツヤだ。

 小さい女の子の旅の相棒として持たせるのに、その鉄塊はあまりにも無骨に過ぎる。

 その旨を伝えると小さな小箱とナイフが渡される。女の子向けのクリスマス商品も如何かと薦められたのだ。

 有難い、その心に感じ入りながらリボンを掛けて貰いゆっくりと店を出る。

 やはりナイフは女の子に贈るものとしては、無理があるのだろうかと若干残念に思いながら。


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