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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第九十三話 王都市街の年末

 グレイトフルバッファローのタロウが牽く牛車に揺られて街の大通りを進む。ハナコはご懐妊なので牛車は牽かせられない。

 本来、誰にも懐かないとされる魔獣である、この猛々しい牡牛をユリとタクマだけは操れる。認められた者だけが操れるわけだが、その大きさは威圧を具現化したように大きい。闘気漲るそのタロウを駆るは、その主とされるタクマ・イワオカである。

 今、牛車は商業ギルドの前で佇み、物見高い市民にその姿を遠巻きに見つめられているところだ。

 貴族様の目に留まって没収などされても、絶対言うことを聞くような生物ではない。

 没収しようとしても、あのタロウの闘気漲る突進を喰らう事になる兵士達の冥福(・・)を心静かに祈らざるを得ない。



 テイム条件らしきものがどんなものかと言えば…まず、高位のビーストテイマーである事、または、(つがい)になっている牡牛と角代わりの武器にならない武器を用いた一騎打ち、力比べに正々堂々とやり合って勝利したもの。そして偶に、その牡牛とガス抜きで力比べが出来る群れのボスのような威厳と力のある者である事が条件だ。



 テイムっ、つーかボスの座を獲得しただけと言う身も蓋も無いのがブレイブ・ロックだ。



 牝牛の乳が目的であったがその目論見は達成し、毎日美味しい牛乳が飲めて、乳製品が作れると言う悲願が達成されている。

 ちなみに牛乳はヘモグロビンが入っていない血液のようなものなので廃棄する場合はちゃんと処理しなくてはならない。ラボの発酵ガスでの暖房燃料として使っているので無駄無くフル活用している俺達には無用の処理ではあるが…。

 ハナコに謝りながら廃棄する気まずさに慣れるには、まだまだ酪農家としての時間が足りていないようだ。



 商業ギルドでの用事を済ませた俺達はそのままイグリット教の総本山とも言われるイェルデネ寺院へと足を運ぶ。キリストと日本仏教が六畳一間で纏まった後、戯れに作られたような宗教と言うべきか、大らかで余裕のある宗教観の土着の宗教だ。

 今見渡している景色を説明するならば、クリスマスのミサと縁日と炊き出しが同時に行われていると言えば分かるだろうか?。

 商品名”雲”、”輝きの林檎”、”漆黒のバナナ”、”オクトロール”など見覚えのある代物が縁日の屋台に並ぶ。どれも高いが、この国は物価がかなり高い。これだけ大きな都市であるのにカテゴリ分けすると辺境に分類される。



 純度の高い金を産出するがこれは国の独占であるため市場には影響がない。故にトリエール金貨は他国の純度と信憑性の低い金貨と比べるとその価値は三倍となっている。海を渡った場所に旧王都があり其処では銀を産出するのだという。更にその銀も純度が高いと言うことでこれも三倍だ、銅の産出もあると記されておりこれも他国と比べると三倍近い価値がある。何と言えばいいのか、軍隊を動かせる底力の理由が判明したわけだが、その理由は非常に判り易く精製技術にも恐らく他国には越えがたい何かがあるのだろう。



 尤もアルディアス食堂のレジに投入すると他国の硬貨の純度と混ぜ物の比率は一目でわかる。異世界ファンタジーの基本だから硬貨の混ぜ物等の無駄知識に近い勉強だけはして置いて良かったと思う。金貨の三倍差は厳しい、間違えてしまえば大損する。食堂で金貨なんぞ出されては困るが銀貨は稀に出る。

 尚、このレジスターは純度を量れる魔道具として商業ギルドにも売った実績のある、自家製の逸品だ。

 商業ギルドでも実用化された実績から国の保証付きでもある。客との価値鑑定でのトラブルもギルドと国のお墨付きであると知れれば大体納得して頂ける。

 駄目な場合はギルド員が出張サービスしてくれる、商業ギルドと大店でこの魔道具を普及させる際に結んだ契約の賜物だ。後ろ盾の無いものは喩え便利でも誰も信じてくれないのは何時の時代でも別の世界でも変わらない実相と言うものだろう。



 皆で縁日を楽しみながら、寺院と教会の割合が七対三で寺院が勝る建物に入り、礼拝と寄進を行い今年一年の無事を報告して有難いお説教を聞き、狩りでの殺生を神前で詫びて寺院を出る。

 人込みを掻き分けて寺院前の停車場に辿り着き周囲を見渡すとグレイトフルバッファローを見ている参拝客と興味津々で子供が駆け寄ろうとするのを必死で止める親たちが見える。

 安心して欲しい、タロウは子供に何をされても怒らない。



 そのまま寝ながら待っていたタロウの引く牛車に乗り込み、タクマがタロウの肩を軽く叩くとゆっくりとタロウは目を覚ます。

 御者台にタクマが乗るとタロウが一つ鼻息を鳴らす。気合い十分のようだ。

 一度に五人乗り込んだところでタロウには軽いものらしい。ふとトモエを見るとゆっくりと流れる景色を楽しんでおり、その肩にはクーちゃんが乗っている。

 何故そこに?とエセルちゃんを見るとユリに抱きつかれたまま身動きが取れない状態であった、さもありなん。

 お気に入りのぬいぐるみと戯れるが如くエセルちゃんを振り回しながらご満悦であるようなのでそっとしておく。エセルちゃんのSOSの目線には気付かない、うん、気付かない。



 この牛車(ぎっしゃ)は移動用のものでまだ試作品である。トラックにも採用されている板発条(いたばね)による衝撃吸収機構(サスペンション)を備えている。地味なようでそれなりな効果のある改良だ。

 それ以外にも車輪にゴムをコートしてグリップ力を高めている。あまり派手に現代の技術を投入するのは気が引けたのでチューブもオイルサスペンションも巻きスプリングも無しだ。

 炉もあるし作ろうと思えば…いやガス溶接の装置を作るまでは無理だな。基本的に鋼管を作れないとどちらも形に出来ない代物なので即座に作る事は難しい。鋼板とサスペンションオイルの獲得も必須だ。

 木にオイルサスペンションではフレームの方が絶対に負ける。フレームも金属となるとグレイトフルバッファロー二頭引きになりかねない重さではなかろうか。アルミ鋼材の偉大さとカーボン素材の素晴らしさが身に染みる。

 板発条はその中でも木材に仕込んでも何とかなるサスペンションという訳だ。改良が一番効果ありだったのは座席を布団材質で作る事によるソフトタッチ加工だ、広げれば寝具になる優れモノではあるが形状は寝袋そのものである。下手をすると王侯貴族よりも乗り心地の良い牛車が試作品レベルではあるが乗れなくはない程度に完成した。見た目は装飾も何もない箱型なので目立つことも無い。牽いてる牡牛が目立つだけなのだ。


頭の中の文章と入力した文章が違う事が良くあります。

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