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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第九十話 おなかがすいた

 大精霊のアンちゃんことウンディーネちゃんと、大精霊のサラちゃんことサラマンダーちゃんを校長先生に預けて世界の今やこれから起こる事を教えて置いて貰う。私の頭では無理だったのです…。



 クーちゃんの力で出来る事は世界の中枢であり闇の女神の棺である場所の起動と書庫(ライブラリ)への接続(アクセス)権限の付与とのこと。お墓の管理と図書室の管理?と聞いたらそうだと言ってる。なるほど。

 何故、闇の女神が封じられるのか?と言う疑問は、神が失われた世界は自然崩壊してしまう、多くの神がこの世界を放棄して今はたった一柱になってしまった闇の女神の力で存在しているだけのか弱い世界になったのだという。神は基本的に責任者であり、管理者である。

 自然に放って置いても世界は回るが、それらに対する責任を取るトップが居なくなると消滅する。それを防ぐために封印したと言う理由だ。身勝手だけど滅びたくはないと言う理由、難しいけど本能と言うものなのか…な?。



 扉の管理者であるティルチェ、門の管理者であるルレアはそれぞれ新世界に旅立ったとクーちゃんは言う。

 新世界ってなぁに?と聞くとお兄ちゃん達の居た世界だと答えてくれた。

 生身では通れない筈なのに彼等は此処に来る事が出来た、奇跡の存在。



 管理者も居ないのに扉が何故動いているのかと言う疑問に、クーちゃんは悲しそうに答える。

 闇の女神に管理権限を奪われている。門すらもじわじわと浸食を受けている、だからその内、大災厄が招かれる可能性が高い。恐らく闇の女神はその災厄の力を使って新世界に跳躍したいのではないかと語る。

 でも…あの人は確か…。



 カミオロシは召喚した魔人に神様を宿らせて狂わせて使役する、多くの魔人は自我を失いデキソコナイの神様になる。稀に自我を持った神が生まれるので神降ろし(カミオロシ)と呼ぶのだそうだ。

 ただ、この技術は失伝している筈のものでトゥレラロウと言う場所を見つけ出さない限り不可能だと言う。



 クーちゃんのお話を頑張って頑張って聞いても隙間だらけで何が起こっているのかわからない。

 今はお腹が空いているのでご飯が食べたい、クーちゃん行くよっ!。





「一晩冷ましたから、もう食えるはずだ。」


 行き成りそんな言葉を呟いた倉橋が皆の前に陶器のカップに入ったものを並べ始める。

 スプーンを添えたそれにボウルに入った真っ白なものを一匙づつトン、トンと落していく。


「デザートにクリスマスプディングだ、出来はまだわから。」


 俺と女子二人が我慢出来ずに食らいつく。


「お前ら鶏とハナコに感謝しろよ。」


 そう言いながら悠然と食べ始める倉橋。悪いがお前ほど俺らには余裕がない。

 プリンだ!マジでプリンだコンチクショー。


「ふぉんとぷりんおいしぃ!。」


「ああああ、これっ美味しい!ヤバッ。」


「慌てるなお前達、まだカラメルソースで味わう為に、もう一つづつプリンはある。」


 俺が女なら惚れてるわマジで。


「生クリームがこんなに恋しい存在だったとは思わなかった。」


「男の本能と言うやつかもな。」


 全員のカップに生クリームを一匙づつ落して厨房の冷蔵庫へ向かう。

 餓狼の様な俺達に若干引き気味ながらもカラメルソースの掛かったカッププリンが俺達の前に配膳される。


「重ねて言う、鶏とハナコが居なきゃ食えないんだからな感謝しろよ。」


 申し訳ないがこれを上回るクリスマスプレゼントなど思い浮かばない、助けてくれ。


「いゃぁぁぁ~、美味しいよぅ。」


「カラメルよりもクリーム派だったが此処まで久しぶりだと基本こそが至高だと思う。」


「最高のクリスマスプレゼントに何を返せば良いのですか倉橋君。」


 樋口さんまで敬語になっている、スイーツの魔力恐るべし。


「今日はお昼の営業で終わりだから教会でも行って外食にしよう、予約は取ってあるしな。」


 まさか、クリスマスは静かに家族で過ごす派かっ!!。何という敬虔な門徒でしょうかアーメン、いやイグリット教はアーメンなんて言わないけどさ。


「ではプリンで一日分の元気も貰ったし~、開店いたしますかー。」


 暖簾を担いで看板娘が店の外へと歩いていく。


「手伝うよユリ。店長、跡片付けよろしくー。」


 何時もの風景、何時もの光景であった。そして、何時も通り、営業開始である。





 いい匂いがする。

 何処からかいい匂いがする。焦げている、とても香ばしい何かが焦げている。私が香りを堪能しているとクーちゃんもスンスンと匂いを嗅いでいた。

 これはいけない、胃袋さんが「これを食べよう。」と言っている。でも何処からこの香りが漂ってきているのか特定が難しい。

 ここは食堂街、殆ど貧民街に程近い食のバザール、大市場である。

 色取り取りの露店に商店、大道芸まで居る賑わいの街だ、ちょっとつまみ食いをしたくなるカラフルな串料理、野菜が豊富なスープだって学生街より安く売られている。村のスープを見せてあげたい、特にお兄ちゃん達が来る前の酷いのを。

 お肉の焼ける匂い、美味しそうだけど違う、アノ匂いじゃない。

 お魚の焼ける匂い、好きな味の匂いがするけど今日はコレじゃない。

 クーちゃんが気付いた様だ、赤くて丸いなにかに「う」と大きく大書されている、読めない。


「アルディアス食堂?。」


 一切捻りの無いお店の名前、中は座れるスペースなど微塵も無い盛況ぶりであった。

 店の前に魔法石を削って作ったペンと魔法板が据えられており、名前と人数を書く欄が升目で仕切られている。


「魔…魔道具だぁ、名前と…一人。カウンターとBOX席ってなんだろう。」


「嬢ちゃん、一人ならカウンターが早いよ。」


 白髪のお爺ちゃんが教えてくれたので丸を付けてペンをペン立てに差す。

 名前の行進を見ながら、この精巧な魔道具を見学する。

『アルディアス食堂へようこそ、この魔道具は持ち出し窃盗禁止だよ♪ブレイブロックに斬られたくないなら壊さないように使おうね、お姉ちゃんとの約束だ!、当店は非常に混雑しているお昼時はこれで予約を簡易的に取っています。順番が来たらお名前を呼びますので呼ばれたらお返事、お願いしますね!、御待ちの間咽喉が乾いたら入口の水差しからお茶かお水をどうぞ、それではお待たせして申し訳ありません。』

 魔道具が喋った。クーちゃんも私も、わたわたと取り乱しながらお客さんたちに微笑まれている。

 このお店で待ちあうお客さんの通過儀礼のようなモノなのだろう。

非常に難産でした。

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