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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第八十二話 成長剣クォイス

 探し物が僕である可能性は残念ながら否定できない。

 兄さんは育ての親である僕の父と喧嘩をして出て行った。だから僕を殺さないなんて保障は無い、何処にも…無い。

 兄さんの所属する軍隊の紋章と彼等が掲げる旗の紋章は…同じだった。

 この山は村の子供なら皆が入り皆が遊ぶ、村人ならば誰もが遊んだそういう山だ、だから兄さんが山狩りを行わないなんてことは絶対に無い。

 聖域も全部荒らした後なのだろう、そこに逃げ込んだ者の今なんて見たくも聞きたくもない。妖精の王も妖精の女王も彼等をお許しにはならないだろうけれど……なんで守ってくれないのか?苦しみが押し寄せて止まらない。

 つい最近発見したこの洞窟ですら兄さんは知っていたのだろうか。松明を持った兵士の歩みに迷いが無い。

 七つの石を決められた順に押して隠された扉を開けて中に入る。当然明かりなんてものは無い、あれば便利だが灯せば見つかってしまう。

 暗闇に目が慣れているとは言っても暗いものは暗い。それでも狭い道を進み、兵隊では通れそうもない穴を通ると水の流れる音と空気の動きを感じる。

 妖精の光が飛び交う、ここは聖域だったのかと周囲を見渡すと一直線に僕を目掛けて飛んで来る妖精が居た。


「お兄ちゃん!。」


 随分と小さくなってしまったが、間違いなく妹のルレアであった。

 ただ、全速力で飛び込んで来たので顔面に赤い跡が付くほどの怪我をさせられたが、どうでも良かった。

 両親の死や村がどうなってしまったのかをルレアに伝える、そしてルレアはその命を失ったあと妖精王オベロンに呼ばれ、ティルチェと言う新しい妖精と使命を果たす事になった様である。

 二匹の妖精が僕に語る。オベロン様からの言伝であると。

 ルレアとティルチェに与えられた使命は世界の救済であった。それはこの場所に封じられた魔剣を手にして行うものであり、この妖精の泉の底から引き抜いて手にするものであるという。

 妖精の泉は何処までも透き通っているが、進めば死の国に繋がっており、迷えば即冥界の住人になってしまう聖域であり魂の帰り道の一つであった。


「大丈夫、お兄ちゃんなら認めて貰えるから!。」


「ラゼルさんなら大丈夫、問題ありません。」


 二人の妖精のマナに包まれて妖精の泉に歩いて潜る。急がないと兄が、シェナハ・アストリアが来る。それだけは間違い無かった。



 選定の扉が開いた。但しシェナハを拒んで開かれた。

 扉は巫女と神官の血で穢され、見るも無残な地獄絵図が顕現していた。扉に拒まれたシェナハは祭殿に火を放ったが、扉だけはそのまま無傷で其処に在った。

 腹立たし気に魔法を放つも、業火が噴出し、シェナハとダークエルフの女を残して周囲の兵士は燃え尽きた。


「おのれ!、トーマス、ドルト!軽率な俺を許せ!!。」


 二十人程いた取り巻きを全て殺された怒りを門にぶつけようとしても跳ね返される。そして今反射されたものは放火の報いだ、決して魔法が還ってきた訳ではなく放火の反射だ。


「退きましょうシェナハ、貴方の魔法が増幅されたものが相手では分が悪すぎるわ。」


 顔色の悪くなったダークエルフを連れて祭殿を出ると洞窟は電撃で完全に崩れ落ちた。


「何処までも、何処までも祟りおるわタリュート家のクソ共がぁ!。」


 選定に臨まんとするラゼルの家名を吠えて祭殿の在った場所を一睨みすると山を指差す。


「この山には大小様々な洞窟や遺跡が遺されている、虱潰しに調べるぞ。」


 兵士たちの顔に緊張が走る。そんな事考古学者にでも遣らせろと叫びたい気持ちを必死で押さえつけながら、そしてそんな事は口が裂けても言えないのは何処の組織でも同じことだった。




 手にした剣は最初どんな反応も返しては来なかった、湖底に硬く根を張ったように動くことなど無い様に思える程に。

 やがて周囲のマナに揺らぎが生じ、剣がゆっくりと呼吸を始める。太源を吸ってマナを吐く。


『我が名はクォイス、お前が出陣と言う事は手遅れなのか?。』


「…どういうことかわからない。」


『なんだまだ寝てるのか、まぁいい、契約するなら血を貰うがいいか?』


「お前を抜いて使命を果たすのに必要ならば仕方が無い。」


『では契約成立だ。』


 剣の柄から十本余りの針付きの触手が僕の全身に突き刺さり勢いよく血液を奪い取って行く。

 それを見たルレアとティルチェが、僕に血を増やす魔法を掛けようとするが、全てクォイスに防がれる。

 そして、抜いた血を返却仕切ると触手は全部千切れて落ちた。

 全身に流れる血が可笑しな事になっている事だけは判る。ただ其れだけがわかる。


「成長剣クォイスか…魔剣じゃないじゃないか…オベロン様。」


 湖の底よりさらに深い場所へと降りていく。その下に僕にとって最初に越えなくてはならない敵がいるからだ。

 ルレアとティルチェの加護により湖底は唯の遊歩道のように明るく心地良い。

 妖精の泉と呼ばれるだけあって妖精達が戯れるように周囲を飛び回る。ルレアとティルチェの旅立ちを祝福しているのだろう。



 遺跡の落とし穴から沼地に落下したシェナハの前には青白い光を湛えた剣を片手に携えた少年が、二匹の妖精を従えて立っていた。

 無様な姿勢で泥まみれになっているシェナハと、憎き殺害対象が対照的な姿で睨み合う事になる。

 野良犬と伝説の勇者のような構図でシェナハは抜刀してラゼルに襲い掛かる。

 踏み込み躍り懸かるも足元の泥は殆どシェナハに自由を与えない。

 ラゼルは受けに回ったままシェナハの目を見つめ、斬撃を流して躱す。

 剣を合わせるごとにシェナハの身体から邪気が奪われ、憤怒の思いが吸い上げられて行く。

 人の負の感情を吸い集めて力に替えていく特性を持った剣、それが成長剣クォイスであった。

 では。命を奪えはどうなるのであろうか?、つまりこの第一の試練はそういう意味でもクォイスとその使い手に相応しい試験なのだと認めざるを得なかった。



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