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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第七十九話 贖罪と赦し

 この地は、ここ最近で尤も多く血が流れた場所であったが、魂は天に還る前に奪われ怨念や残念の類も軒並み悪魔の食事として奪われている。

 浄化もされず平穏無事と言う異常事態であるが、真相を知るタケルだけはイグリット教の神父とシスターが訝しがっている事が何なのか見当が付かないままであった。



 百人の暗殺者の前で浄化の聖法を乗せた神の唄が歌われる。

 本来であれば聖歌隊が歌うものであるという、崩れかけた文献に記されるのみの失伝しかけていた唄なのだが、ザン・イグリット教団の禁書庫の奥で封印されていた物をザン・イグリット教の司教が発見し正しく書き写して後に紛失した曰く付きのものである。それをディルムッドが古書店で発見し俺の手元に送られてきた奇妙な経緯を持つ唄である。

 何故ザン・イグリット教で禁書指定されたものが流出するのかを一番問い糾したいのだが、その司教がとても不可解な失踪を遂げた事以外の情報が全く伝わって来ない。

 朽ちるに任せた禁書を復元するなどあり得るのだろうか…気になって仕方が無い話だ。



 対魔人用聖歌。つまり魔人退治に欠かせない聖法と記されている。

 イグリット教にある古い聖書、それも原本に近いものにだけ記される”魔人”の記述。

 人は長きに渡る世界を巡る戦いに於いて魔人に幾度も大敗し、その度に”御使い”の力で安定を取り戻してきた。即ち人間だけで魔人と戦えば全戦全敗だと記されている。

 版を重ねる毎に恥ずかしい事柄や、勇ましくない事柄、情けない伝承が削られていく。ダメだなこう云うものこそ大事に伝えて行かないと必要な時に後の人間が困る事になる。



 曰く、魔人とは、人に化け、人に紛れ、人を食い、人心を誑かし、あらゆる異形を産み出し、あらゆる害悪を撒き散らすものである。



 簡潔に言うならこういう存在だ。僕達が居た世界で該当する連中は”犯罪者”であろうか、取り分け危険なタイプのヤツらを想像してみる……近寄りたかねぇな。

 この魔人を見分けるには、人間を止めて聖人になって見分ける眼を手に入れるか、取り敢えず皮を剥いで中身を確認するか…と言う些か厳しい見分け方であるという。

 それでは捜索に手間取り後手に回って全戦全敗も頷ける話だ、神から授かった叡智としての唄の登場によって魔人との戦いは収束するに至ったと記されている訳だから此れを長い間奪われていたイグリット教の不甲斐無さに呆れて物が言えない。ますます(くだん)の司祭が何者なのか気になる存在だ。



 声の濁っていない、活舌が良い、出来得る事ならば変声期を迎える前の声が望ましい。これはウィーンのアレと基準は同じか。国王陛下の肝煎りで合唱団を創設して頂かなければ集まる事は無いだろう。

 為政者の力無くしてイグリット教にもう未来は無いな。



 今編成されている合唱隊は付け焼刃のオッサン合唱隊だ、何処まで効果が出るのか分からないが一人くらい炙り出せれば後は効果の実証と再現性の追及だ、とにかく今は、魔人の死体や生体のサンプルが欲しい。



 教主様は決断なされた、我々と同じく棘の道を歩いて下されるそうだ。何れ明かすべき話はあるが、出来るなら全ての書物を読める身分であるのだから自力で到達して頂きたい、軍家の僕なんかより長生きなさるのだから一年以内は無理でも二年後には気付いていて欲しいものだ。

 甘過ぎるな、ギリギリ過ぎて間に合わないかもしれない。



 簡易ステージを構築し箱型の処刑台に身を収めて聖歌が歌われる。

 追いかけながら次々と歌が始まる。まず真っ先に変化が訪れたのは周囲を流れる風と空気、そして気配だ。

 広範囲浄化聖法のようなモノにあたるのだろうか?、文献にも存在しない浄化聖法(ピュリフィケイション)の上位にあたりそうな化け物のような何かだ。



 環境に与える影響が大きすぎる。日々の鍛錬と研鑽に唄への理解が伴わないと歌い手に死人が出かねない。

 身体に異常が発生したら即、唄うのを止めるように指示して置いて良かった、今倒れている人間に重傷者は居ない。そして唄を浴びせられたステージには複数の人の皮が破れた者達が己の姿を見て絶叫していた。

 本人に魔人であると言う自覚が無いのだから、告解の聖法を用いても喋りはしない、隠し事や罪の告白は出来ても元々知らない事は喋り様が無い。簡単なくせに難しい、誰もそんな事態想定している訳がない。



 ネットが無くて、暇で暇で暇で暇で仕方が無く、耐えきれないので、ディルムッドに街を見て回って貰い、普通は見かけない様な本を片っ端から送って貰ってもまだ足りない。時間が有り余って仕方が無い。

 色々とその本が書かれた背景を想像しながら要らないところまで読み解くと、中には縦書き、斜め書き、韻を踏んだ部分だけを抜き出して本当の内容に辿り着ける奇書にお目に掛かる事が出来る。

 鰹節の製法が記された本や、豆腐の製法と調理法が、呆れるくらい粘着質に書き記された本もあった。豆腐の本の筆者の最後は余り想像したくない。最後の文面は歪んだ文字で”食べたい”の羅列だった。気持ちは判る、同胞だからな。



 結果として”魔人”は存在した。ファンタジーの世界はコレだから厄介だ。

 文献によると、こいつ等数人が覚醒すれば一軍に匹敵する化け物になるという。

 いよいよもって急がなくてはならない。



 魔人達は鎖で拘束して絞め殺す事が出来たが、恐らくこれは覚醒前だからだろう。本来は聖剣が無ければ倒せない化け物だ。そして聖剣については、御伽噺レベルで実在が疑わしい。

 ザイニンと扉の伝承と実際獲得された武器を確認したが、あれはどちらかと言うと魔剣の類ではないかと思う。邪気や瘴気があふれ出る魔素の塊だ、アレに似たものをよく見るから判る、闇の女神の力に染まっている物を人は聖剣などとは呼ぶまい。



 処刑は続き、歌唱は続けられた、何人もの体調不良者を出しながら魔人を引き摺り出す。

 暗殺者から魔人が発見された、その確率九十パーセント。

 ザン・イグリット教の総本山には、今どれくらいの魔人が潜んでいるのだろうか?。

 想像するのも恐ろしい。



 そして、イグリット教教主は大層取り乱していた。

あれはもう仕方が無い、嘗て絶大なる信を置いた者達を断腸の思いで処刑すると決めて、その断罪に臨み、蓋を開けてみれば、人ならざる者達だらけだったのだから。

そりゃあショックの一つも受けるさ、相当に気の毒な話であった。

後半微修正

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