第七十六話 やさしいひと
大精霊が二柱扉を通ってこの世界に来た。
今横にいるクーちゃんと楽しそうにしているから間違いない。依り代を探すとか良く分からない。契約を交すとかいうのはタツヤ兄ぃの言ってた危険な何かのような気がする。
「俺にはお姉ちゃんが居たような気がするんだリボンの似合うあざといお姉ちゃんが。」
そう言うとタクマお兄ちゃんのコブラツイストが炸裂する。
「お前の苗字は、く・ら・は・し、だろうが!、タツヤ繋がりネタとかわかるわけねぇだろ。」
ギブアップをしても許して貰えないのは何時もの事、コントという芸らしい。村人の受けは良かった。
クーちゃんとあの二人の大精霊は二千年振りの再会で楽しそう。青い子がアンちゃんで、赤い子がサラちゃんだ。
他の友達の名前も教えて貰った、クーちゃんは二千年の間に忘れてしまっていたみたい。アンちゃんもサラちゃんも怒ってないみたいだから良かった。で、お名前は、ノンちゃんとシルちゃんだそうだ。
残る二人はまだ向こうにいるとのことで、この世界から離れて新しい世界をやり直していたと言う話だ、なるほどねぇ。
クーちゃんの役目は特異点というものらしく、この世界の最後を記すノートのようなものだそうで、皆の旅立ちを見送る運命らしい。良く分からないです、今度先生に聞いて見よう。
そして私達は魔法使いと変身とキラキラで可愛い魔法の杖について熱く語り合った。三日ほど。
語り疲れて寮の床で眠っていたところを先生に発見されて大事になったけれど大精霊が見えない先生には理解して貰えず、校長先生が学校に戻られるまで医務室で過ごす事になる。
世界は幾つもあって扉で繋がっている。行き来できるものは魂とそれに紐づけられた物。生身で通ることはできない。
世界は神の数だけ其処にあって其処にはない、非常に曖昧なもの。神が見捨てた世界は扉が繋がり易く混在し易く滅び易い。
ダメだ、クーちゃんたちの話のレベルが高すぎて…ゴメン頭に入んない……。
私は知恵熱が出てまた眠ってしまったようだ。
医務室での生活は都合が良かった、大精霊との会話でブツブツしゃべっていても熱のせいと思って貰えてそっとして置いて貰えたし…うん、少し辛い。
双子姉妹がお見舞いに来ても二人は適合者では無かったようだ、むぅ残念。
世界は”界”と呼ばれ、層を為している事から”界層”とも呼ばれる。私達が居る場所はランディリーデンと呼ばれ───。
魔人と呼ばれる”破界”ルッツェゴードスに住む災厄の化身が召喚されそうな異常事態が起こりつつある。
その拠点を───。
大精霊の二人がクーちゃんに助力を求めているのは判ったケド…私意味が分かんないです、キュウ。
其処から暫くの間私には記憶が無い。
人と魔人の中間地点と呼ばれる、又は後世の人間にそう呼ばれる場所の特定を急いでいる。ねぇ、解かんないよクーちゃん…。
魔人っていうのは人の姿をしていて人の皮を被って生きている人間によく似た魔物で倒さなくてはならない敵。うん、どうやって見分けるのかな……わかんないのかーそうかー。
魔人の召喚からのカミオロシって何だろう、神様を造るのね、ええー作れちゃうの?デキソコナイから色々と派生する?ん~???。
私は頑張った。うん、頑張ったよユリお姉ちゃん。
ただの魔法使いの私じゃ無理だよ、どうしよう。
纏めようにも纏め切れない、取り合えず一番急がなくてはならない事、それは…この二人が通った扉の傍で
タツヤ兄ぃが死んでいるかもしれないって事だ。
一番最初に言ってぇぇぇ。
そして二人に問い詰めても効果も成果も何も無かったのだ。
一つ、何処に開いたのかわからない。全速力で逃げた為。
二つ、クーちゃんの加護を受けている人間目掛けて飛んだ。確かに途切れそうだけど加護は全力で掛けてあったそうだ、今は完全に消えている。
三つ、大精霊は長く広い目線で生きているため、短く近い目線は中々困難であると言う事。クーちゃんと同じだねー。
以上の三点から安否不明です。
手掛かりが蜘蛛の巣みたいだよ。
森と扉とザイニンと言う抽象的な要素をヒントにして答えを導き出す。無理です。
「仲間のピンチに駆けつけられるまでは、一人前とは呼べないな。」
タツヤ兄ぃ、頑張って生きてて下さい。
出来る事は祈ることくらいしか無かった。
大精霊三人の古い古い二千年前のお話は眠くなる、まるで子守歌だね。
闇の女神の目的は世界改変で元居た世界に帰るための回廊を建造して生身で渡る事。
女神が居なくなってしまうと世界は支えを喪って崩壊してしまうから嘗て多くの勇者達が何度も彼女を封印して持ち堪えて来た事。
大精霊二人が確認クーちゃんが邂逅した事によって闇の女神が完全に封印から解き放たれて自由である事。
聖地タキトゥスが重しを取り除かれ世界の反転が達成されている事。
今世界は闇の女神の支配下にあり、非常に不安定なまま安定している事。
どれもこれも初耳で理解できないのです、闇の女神さんは倒しちゃダメで封印しなくちゃ世界が終わる。でも誰もそれを要請してはいけないし強要してはいけない。
その立場である神は、もうこの世界には居ない。責任を取るものが居なくなったと言う簡単な事だった。
救ったら滅ぶ、倒したら滅ぶ、見送っても滅ぶ。ボソボソの小麦焼きみたいに崩れてしまう。
闇の女神を犠牲にして世界を維持する。犠牲にされ続けたのにあの人はあんなに優しかった…優しすぎるから犠牲になったのだとしたら、優しさに付け込んで犠牲にし続けたのだとしたら…。なんだかもやもやするよ。
この世界の維持に必要な事って多分そうじゃない、この世界を取り合えず保たせる対処療法にしか過ぎないよそんな事。
深く考えると辛くなる、答えが見つからない。静かに優しい手が私を撫でる。
「安心しなさい、私は何度だって諦めないのだから。」
大精霊三柱が見守るこんな場所でも易々と訪れて私の傍らに彼女は現れる、黒い靄を曳いて。
「だから私の頭を撫でないで…。」




