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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第五十四話 最後の坂

「いやぁ~殺しも殺したりと言う景色だな。」


 半分に折れた槍を杖代わりに笑顔で横に立つノットはオークの死体で築かれた文字通りの死体の山を前にしてそんな感想を漏らした。

 これからコイツらを焼却処分する事に掛かる時間と魔力を思えば───って、待てよ…もうあとは組み上げるだけのアレを使って、チンギス・ハンもやったアレをやってみるか……仕掛けた奴らに仕事させるのが一番だろうしな。


「ええっ、試作機の試験ですか?。」


 コンラッドの隣で少女が声を上げる。担当官だものなそりゃあそんな反応もするさ、苦笑する俺の前でコンラッドが少女に軽く肘鉄を入れる。一応隊長である僕への配慮だろうけどいいよ、そんなのいらんから。


「幸い弾は腐る(・・)程在る。組み上げられるだけ組み上げて随時投入する形でいい。集められるだけの人手を集めてバンバン奴らの村落に叩き込め、構造上の不備や改良点はその時に見つかるさ。」


 コンラッドから手渡された書類に幾つかサインを入れる。結局、動作テストと改良点の炙り出しが行われる事になったのは二日後の正午だった。



 最初、一基目のソレがゴロゴロと石畳の道を進み、既定のレール状に鉄板が敷かれた場所に設置された。

 輪留めを行い、綱引きの人員と何かを積んだ荷車がそれぞれ配置につき、籠状の入れ物に荷車から何かを放り入れて縄で縛って一纏めにする。

 敵村落を確認できる位置まで来た魔法師が高台から照準魔法を構築し、テスト機体とリンクする。


「試験投擲始めます。」


「宜しい、準備出来次第投擲せよ。」


 敵村落にバラバラと投げ込まれる。綱引き、装填、投擲の作業で次々と投げ込まれていく。

 派手な爆発も、光も何もない、只管に地味な投擲が続く。

 ガラガラと荷車が弾をピストン輸送してくる、その後ろから二基目がゆっくりと進んでくる。


 トレバシェット、投擲機、呼び名は幾つかあるが概ね敵に石礫や岩石を投げ込む攻城兵器である。


 今、我々が敵村落に投げ込んでいるものはオークの死体と敵の死体である。


「タケル隊長、この投擲にはどんな意味があるのでしょう?。」


 トレバシェットをずっと担当していた少女から疑問に思ったらしい事を質問される。


「散らかしたものは散らかした奴に片付けさせるってのが目的の全てだ。副次的に伝染病を蔓延させて、守るに有利な地で死んで貰うか嫌でも放棄してもらう。蛮族に医療が無いから概ね気付いた頃には手遅れだ。シャーマンなら呪いだのなんだので蛮族内部はパニックになるだろうな。」


 つまらん事を聞くなと言う風情で少女の兜を小突く。病原体、疫病について彼女たちは知識がない。だが、死体から何かが起こることくらいは分かっている。それでも懇切丁寧に答えてやるには、少なくとも百年くらいは医学が進歩しないといけない。

 そしてふと気付く、顕微鏡も無しに醤油は作れるのかと…。

 今は戦争中だ、考えない事にしよう。


「明日も、明後日も、まだまだ投げ込まなくては此方が伝染病の餌食だ、呼吸が辛くてもマスクは外すなよ。」


 最終的にトレパシェット十台が横一列に並びオークの死体と蛮族の死体、そして偵察に来たフレッシュな蛮族は生きたまま投げ込まれた。


「治癒魔法部隊の間をゆっくりと一列に並んで進め、消毒せずに帰ると死ぬぞ。」


 腐臭漂うトレパシェット周辺にはそろそろ弾が無くなりつつあり、明日には全て焼却処分となる。


「勿体ねぇなぁ。」


「伝染病で兵士随員、諸共全て死なせたいならご自由に。」


 タケルに物凄くいい笑顔で返されて言葉も無いノット代行であった。





 街路の整備として丁寧に石畳を敷く為に、態々王都より高給を約束して招いた職人たちと、獲れたての獣肉で晩餐を楽しんでいたタケル達の下へ、陣中見舞いとばかりに酒を携えた八氏族連合の若き長、リムラト・ハンが訪れた。

 突然の一等国民来訪で軽い混乱をきたしたが、酒を飲もうと訪れた客人を追い返す程、野暮な事は無いので、急遽晩餐は酒宴へと趣を変える事となる。



 リムラト・ハンとしてもタケルがまさか作業員や職人と一緒になって夕飯を食べていよう等とは思わず一瞬驚きはしたものの、彼には彼で目的があるので、おもむろに酒を掲げた次第であった。



 リムラト・ハンの要件は、自領にも石畳の街道が欲しいと言う単純にして明快なものであった。

 そういう事なら悪い方に口を差し挟む事も無い。獣肉と野菜の煮物をアテにしてリムラト・ハン持参の酒を味わいながら親方にアドバイスをする。


「良い仕事に惚れてくれたって事で、一つ受けて見てもいいんじゃないか?。」


 月を仰ぎ見てタケルはそう静かに語る。一献注がれて親方はそれを一息に吞み干すと。


「リムラト・ハン様、若い連中は、この通り今でもカカアとガキを王都に残して、こんな処に来ております。顔は見てぇはなんだのってんで、追加の仕事なんてもんは受けられねぇ、ですが、老い先短いワシらだけでそちらへ赴いて、現場はそっちの若い者から見繕う……ってので良ければ受けられねぇ事もねぇですがどうでしょう?。」


 一等国民が本気になれば、ここにいる職人全て攫って行こうが問題は無い。それをせずに酒を持参し交渉の場に自ら足を運ぶリムラト・ハンを見たタケルは助け舟を出した。これはそういう図式だ。

 だがタケルは酒を飲み月を見ている。これはつまりリムラト・ハンに恩は着せないと言う意思表示であった。



 親方とリムラト・ハンは盃を交し、交渉は細かい部分を除き成立した事となる。



 一緒の肴で一緒の酒を飲み一緒に騒いで月を愛でる。久方振りに静かで平和な夜であった。





 あれから数日後、村落は静かなものであった。近寄り難い程に。

 最後の集落に集結すると言う愚行でも行ってくれないかなと期待していたが、それはまぁ虫が良すぎた。

 蛮族同士の殺し合いが発生し、伝染病の運び屋(キャリア )は未然に防がれた格好だ。



 物凄い坂道がずっと続く岩壁を爆裂ドラゴンスレイヤーで崩落させながら地形を変化させる。

 彼等の聖地とされた山は既に崩れて元の高さの三分の一だ、当然天嶮要害とされる彼等の本拠であるあの険しい山も目の前にある谷を埋めつくす程度には崩してしまう予定だった。



 吊り橋を落とされて多数の犠牲者が出たことで僕の中の何かが外れたのだと思う。

 半月も過ぎたあたりで村落を覆い隠していた岩山は姿を消し、谷は埋め立てられ、今まさに道路が建設されようとしていた。全くする事の無かった騎兵隊の皆様も運動不足解消に道路建設を手伝って下さり、最前線基地が完成したその日に正しく騎兵へと姿を変えていよいよ最後の戦いへと赴く事となる。


「結局は略全てタケル殿の思惑通りであったな。我が父に替わって礼を言う、ありがとう、これで仇が打てる。」


 ゲムルア老が感慨深げに蛮族の村落を見上げ、万感の思いを込めてタケルに礼を述べる。

 彼の老人の人生の全てが蛮族討伐に費やされていた。それは誰もが知るところであり、実際の恩讐の度合いは長く深いものであるのだろう。


「此処に居る全ての者が願った道であり、此処に居ない全ての同胞たちが導いてくれた道です。僕はそのお手伝いをしたまでです。さぁ、背後はお任せ下さいませ。」


 深く一礼を返すタケルを背に、老将軍は愛馬に跨り腰の剣を抜き放つ。


「出陣!。」


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