第五十話 減らない仕事
蛮族が決死隊でもって、此方の兵を減らそうと試みているのだ。と、重症を負った騎兵隊の隊員から喀血と共に戦況が漏れ伝わる。
年端も行かぬ小さな子供達の両手に武器を縛って持たせ、馬に向かって命懸けで突撃させていると言う。
将を射んと欲すれば先ず馬からとは言うが中々に悪辣だ。
悪戯に軍馬を消耗する訳にはいかないとの判断から、騎兵隊隊長直々に、村落丸ごとの爆破を行う手解きを依頼される。
魔法師としての技量のある七百人を指導する事となり、その期間は集落の監視と其処からやって来る決死隊と延々と応戦する形となる。防戦一方とまでは行かないだろうが魔法師無しでは、どの道深追いなど出来ないので命を無駄に散らせない程度に距離感を保って戦う事を提案し会議を終えた。
短槍に四枚の垂直尾翼を付けた爆撃用の槍にクズ魔石を装填して焼夷魔法を充填する。
焼夷弾とはどういうものであるかの概念の説明とその理解、そして実演を繰り返し何とか形になるまで指導を繰り返す。
範囲魔法の一種であるが、延焼する時間が長い。撃った後行き成りの突撃は不可能であることも付け加える。騎馬の機動性を殺してしまう魔法である事は疑いない。死兵を相手取る今の現状が無い限り彼等には無用の長物なのだ。
短槍の爆撃付与の方は命中精度に難のある者は使えない、味方に当たる危険性が高く場合によっては馬が投擲した槍を追い越してしまう。
どちらも連携をしっかり習熟し、馬が爆音に怯えなくなるまで繰り返し訓練しなくてはならない厄介な武器である。
練度は命中精度を高める魔法の鍛錬も含むものなので防衛戦にも出来る限り参戦し先ずは短槍の投擲を只管繰り返す。
味方の背中を撃つ事だけは誰だって避けたいものだろう。
嫌な上官にスカッと一撃喰らわしたい、その気持ちは解らなくはないが。狙われないように心掛けたいとは思う。
囲いの外へ逃げようと走り出す者だけを狙って粉砕する。態と開けた退路にRPG-7を撃つイメージで結構だ。対戦車ロケット砲と言う名前のしがない武器だ。そう、歩兵が戦車を屠れるようになっただけの安い武器の事だ。
やってることは現代のテロリストと変わらない。だが目指している内容が八氏族の領土からの戦争の根絶という、ささやかな平和の獲得だ。どっちにも正義があるが加担している側の正義を疑えばテロリストだ、少なくとも王国の意向に逆らって王国内で生きようとしても兵士に見つかればあっという間に殺される。
反乱分子は証拠があればその場で殺しても構わない。何故かって?法で定められてるからだ。
まぁ…無くても怪しければ殺すけど。裁判とは貴族のもので一般市民は疑わしきものは処分、気の良い兵士であるなら多少は話を聞いてくれる。本気で死にたくなければ袖の下だ、最後にモノをいうのは金だ。
死肉を貪るアイツ達が、必死の思いで森に逃げ込んできた、疲れ切って声も出せない蛮族に群がって戯れだした。取りこぼしが出るのは仕方が無いな、精々魔獣相手にダンスを踊る時間くらいは見逃してやろう。
コンラッドもどうやら見逃してくれるらしい、良かったな名も無き蛮族の…遺体?。
障壁魔法を弾丸状態にして何発か撃ってみる。だが、成果はイマイチである。
ダメだ、普通に石を投げるのと変わらない。
弾体はやはり現実に存在するものの方が解れる事が無い分キッチリ撃てて対象の頭も貫通する。
撒き散らされた脳漿を浴びた蛮族が慌てている。そりゃ行き成り仲間の頭に穴が開けば驚きもするか。
火縄銃ではなくこれでは石火矢だなと思いながら実験を取りやめる。
「イノ、戦局を決めて来い。」
「はっ!。」
一礼して部隊を率いて突入する。果断速攻、限定戦域で蛮族は瓦解する。それは即ち全滅を意味した。
正直この二人の成長が著しいとても良い事なのだが。それでも僕の仕事は増える一方で減る様子が全く見られない。由々しき事態であると考える。
そして、至った答えは白旗を掲げて助けを乞うことであった。
「すまんコンラッド、この猛烈な忙しさを緩和する為に何人か抜擢したい。候補者に心当たりはあるか?。」
間髪を入れずに数枚の書類が手渡され、各員が何を行うに適しているかの詳細を知る事が出来た。
「いい草案だ試してみよう。この内容で許可する。予算はノットからブン取って来るから期待していてくれ。」
パッと花の咲くような笑顔がコンラッドから返って来る。王都のお姉さん方にその笑顔見せたら毎日遊んで暮らせるぞと思う。
四方を障壁魔法で囲み、完全に退路を塞いでの戦闘で蛮族の掃討が完了した。戦場の片隅に予め開けておいた穴に次々と遺体を投げ込み、焼夷魔法で一晩掛けて燃やす。別に魔物に食わせてやってもいいがスタンピードを誘発しても面倒臭い事この上ない。
隊員全員の点呼を終えてトンネルを抜けた先の宿舎へと帰還する。戦地の中ではあるが久しぶりの休暇が僕達を待っていた。
この急峻で険しい岩山を迂回して到達した先に垂直に近い絶壁状態の丘がある。
ここには七百人の魔法師隊兼騎馬隊が七門のドラゴンスレイヤーを編み上げて射撃練習に明け暮れていた。
絶壁の丘に丸太の通路が構築されるという蛮族の誰一人も予想しなかった結果となっている。
あの丘の山頂に蛮族の聖地があると言う話なので更地にしようと言う事となった。積年の恨みと言う奴は本当に恐ろしい。猛烈に感化されている僕が言うのも烏滸がましい限りだけどね。
身体能力強化組であれば後幾つか足場を構築してくれるだけで山頂まで至れることであろう。
それでも単純計算で五日は吹き荒ぶ山風を浴びながらの登山だ、勿論現代的なウィンドブレーカーも無ければビニールで出来た温かい寝具も無い。
進む手段も道も出来たと言うのに山にアタックする装備が無いのは痛い。そういう知識が豊富な者が居ないか聞いて回る休日になりそうであった。
村落潰しが難航する中オークのスタンピードが発生、蛮族お得意の養殖場の解放であるという。
過去多くの勇士たちが蛮族を追い込んで来たが、いつもいつも押すべきタイミングでこいつらは投入されるという。
ヤレヤレな気分で黒馬に跨ると、槍を手に取って数匹を殺し、感覚を掴もうとする。
「やっべ、鈍ってやがる。」
暫し無言で槍捌きの基礎をオークの命で確認する事にした。ノットにバレたらマジでヤバい。
修正




