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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第四十七話 タケル隊始動

 魔獣を使った実戦訓練も習熟を果たせたとは言い難い段階で打ち切らざるを得なくなった。



 少年少女は、軍装に身を包み、鞍上の人となる。

 蛮族の丘を越え、蛮族の谷に橋を掛けて渡る。何れも遭遇戦であったが、初陣の緊張を解す戦いであるといえば確かにそうであった。



 現在ノット隊は、負傷者一名。我が隊は、負傷者二名である。

 タケルによる縫合するマナの糸がウネウネと踊る治療によって、早期の戦場復帰が果たされ、実質被害者数皆無と言う、過去に例の無い進軍が続く。



 騎馬隊到着前に蛮族との前線が崩壊したとの早馬があり、準備も完了していない状況での応戦が決定され、全氏族号令がノットより御館様代行として発布された。



 辺境での戦闘は土地勘がなくてはそもそも勝負にならない。よって新人の少年少女を率いるタケルは全員斥候と言う過酷極まりないローテーションを組み、それを以て現状を克服せんと足掻いていた。

 身体強化魔法を十全と言わないまでもフル活用する形で、山野を忍者のように駆ける事で鍛錬と為し、それを全員に連日強いる。

 集められた情報で地図を作り、力を合わせて精度を高める。



 水場の確保と整備を終えてノット隊に後を任せるとタケルは斥候部隊を率いて先行し、地形情報を把握して戻る。副官のイノもまた斥候部隊を率いて情報を持ち帰りコンラッド率いる情報統括員二名と共にそれらをまとめ上げていた。



 背の高い木に魔法武器により、登れる梯子状の溝を掘り、簡易的な櫓を作ると地形情報の正確さがより一層増す。

 タケルはノット隊に所属している若者を幾らか部隊に頂戴すると即時教育を始め、魔法武器の使い手と身体強化魔法の使い手を増やす。

 援軍出発より二週間にしてクルトゥ氏族の拠点エルンハスに到着したが、其処はゴブリンとオーク、そしてコボルトの大暴走で見るも無残な廃墟と化していた。


「森に逃げ込み生き永らえて居る可能性を考慮し破壊と火魔法を禁ずる。ただし、延焼や破壊を避けられる範囲での魔法剣の使用を許可する。抜刀!。」


 ノットは生存者を捜索するものとして、タケル隊はエルンハスに巣食う魔物の討伐に赴く。もののついでとばかりに町割りを図面に起こし遺物を確認して家名を地図に記載する。

 毀損されていた物を一覧に書き出し、亡くなった者達の亡骸を集めて魔物を引き寄せて迎え撃つ。

 遺体を囮に、いや、彼等の協力で敵を誘き寄せて仇を討つ。周辺の木を櫓として幾つかの木を伐採し生木で柵を築いて町の安全を確保する。



 仕上げにタケルのソナーで隠れた遺体と隠れた魔物をあぶり出して処分を続ける。

 三日三晩不眠不休で町を取り戻したタケルは、エルンハスの領主屋敷を本陣としたノットに安全宣言を報告した。


「生き残りを発見し、ここに帰還すると報告があった、防備は俺達に任せて良く休んでくれ。」


「お言葉に甘えて今夜はしっかり眠らせて頂きます。」


 敬礼を施して退室し、あてがわれた部屋に辿り着くとタケルは着替えもせず寝込んだ。

 部下に遅れる事半日、やっと眠りの世界へ至る事となる。





 翌日、誰よりも早く目覚めたコンラッドは、早速周囲の捜索を開始した。

 大暴走の痕跡は畑に色濃く残され、稀に遭遇するコボルトなどを面倒臭気に刺し殺す。

 食事に困って作物を狙いに入り込んだ所まで思案し、森の傍まで検索する。境界を守護する為に戦った戦死者達の遺骸がそこかしこにある事を目視して町まで運ぶ算段を始める。

 周辺を記録し、防備に備える櫓を仕立てる場所を確認してから領主屋敷の与えられた部屋に戻り報告書を纏める。そこまで済ませたのち彼は、もう一度眠りに就いた。



 コンラッドより遅れる事四時間後、副官のイノは目覚めて報告書の束を手に取り報告内容の整理を始めた。

 生存者たちに伝えなくてはならないことは山のようにあるが、一先ず無事を祝う食事の用意、取り分け食材の確保が急務だった。

 疲れていない兵士など居る訳がないので、太陽が中天へと至る昼食後に、気力が回復した者を選んで狩りに赴かざるを得ない。

 人選はその時にするとしても、さて、獲物は居るのだろうかと不安が募る朝であった。




 涼やかな風が薄絹のカーテンを揺らし、ベッドに突っ伏した男を優しく撫でる。愛おしそうに。


 黒い靄がゆらゆらと部屋を歩き回り、陽射しを避けるように部屋の片隅へと静かに消える。



 目が覚めたが身体が言う事を聞かない。金縛りか何かに合っている気がする。

 枕に顔が埋まっているのだから周りも見えないので頭を撫でている何かが何なのかも分からない。

 寝よう。




 目覚めて副官補佐から裁可を願われた事柄で自分が率先してやらねばならないことに着手することにした。

 死体集めである。

 食い散らかされた骨拾いであるとも言うが命懸けで戦った”明日の我が身”の回収を渋っては流石に寝覚めが悪い。またウナギ…ではなくドラゴンを招くような真似は避けた方がいい。

 残念ながら我が部隊はドラゴンスレイヤーの構築は不可能だ。可能にする構造に心当たりがあるが今の時代にはまだ早い。



 障壁魔法でゴブリンの追い込み猟を続ける訓練を考えている。

 そのような考えに至ったのは障壁魔法のコントロールと維持、そして硬度の設定が曖昧に過ぎる者達だらけだからだった。これでは爆裂魔法を抑え込んで指向性を持たせる前に爆死してしまう。

 少人数で欠損なく即死で無ければ救えるとは思うが、全てを裏切れば当然助ける事は不可能だ。



 障壁魔法もえげつなく使えば魔物をそのまま挽肉にだって出来る。実験済みだ。

 ミキサーを思い出せばいい、あれを魔法で再現するだけだ、構造をしっかり思い浮かべて魔物の立ち位置で織り上げる。

 維持と精度を安定させて内側で暴れる敵の攻撃を障壁魔法で受け止め切る必要があるが、それさえ叶えばあとはマナの限り攪拌してやればそれでいい。



 そこまでの精密さを要求するのは酷だが、硬度を只管高める分には実戦で暴れる敵を捻じ伏せる、敵の攻撃をマナの限り防ぎ続ける、その練度を高めるだけで基準値を越える事は可能だ。



 魔法師としての成長を促すにはやはり無理をし通すしかない。困ったものだ。


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