第四十六話 雨を見たかい?
少年少女には木を伐る前に身体強化魔法を再学習させることになった。男子同士女子同士で二人づつコンビを編成し筋線維とは何なのかを解説しながら互いに触れさせ筋肉の動きと呼吸を助ける原理を説明する。
魔法とはイメージでより深く強化される。そこに現代科学と医学とスポーツ力学が加われば垂直で三メートル飛べる程度の強化が可能となる。みんな楽しそうに跳ねている。
武器にも魔法が附与出来ると彼等にしっかりと洗脳を施す。まず先入観を取っ払う。
「武器・防具には鍛冶の神による加護が存在する!、加護の無い武器とは何か?それはそこに魂を込め切れなかったからなんだ、先ずはこの前提をしっかりと心に焼き付けてくれ。」
魔法武器など出来ないと言う思い込みをまず吹き飛ばさなくてはならない。僕達ファンタジー大好きな人間であれば燃える剣のイメージなど朝飯前である。魔法さえ使えれば皆出来る魔法剣だ。
「つまり魂が住める場所そのものはあらゆるものに存在する。先ずは見て貰おう、これは王国紋章が刻印された兵士なら誰でも支給されるただの安物の剣だ、そこにまず魔力を通す。」
光輝く剣を見て彼等の厨二魂が揺り動かされる。
「そこにお前たちが最も強いと思い浮かべられる力をイメージするんだ、先ずはお手本だ!、良く見ろ、これが炎の剣だ。」
火の小精霊が待ってましたとばかりに剣に纏わりつき盛大に炎をサービスする。
注目されて得意げに燃え盛るそれを圧縮して青い炎へ変えると更に歓声があがる。
「この蒼い炎は紅い炎と違って明るさは無いが、完全燃焼しているので紅い炎よりも高温だ、触れたら焼き切れるから剣の鍛錬を毎日欠かさず、少なくとも僕が認めるまで振り回す事は禁止な。」
そして巨木に斜めの切れ込みを入れ乍ら説明を続ける。
「このように武器に魔法剣としての力を注いでちゃんとコントロールして扱えるようになれば、木の伐採に力は必要無くなるんだ。女子にもこの訓練に参加して貰っている理由は、何も戦いは力だけではないと言う事実を体感して、御館様への奉公をどの様な形で行うかの指標にして貰えると有難い。」
翻って男子は女子に負ける可能性に直面して奮起して頂きたい。言外にその意志を込めてはいるが口には出さない。男にはやらなきゃならん事がある。
子飼いの兵と言う言葉がある。今ここに集められた少年少女はつまりそう言う事だ。何人脱落して何人死ぬかはわからない。だが、生き残ることが出来ればこの微かな軋みに似たにじり寄る何かに抗う事ができる。
二人づつコンビ分けした少年少女達に一匹づつ魔物を相手取らせて少しづつ戦いへの恐怖心を剥ぎ取って行く。強化魔法で強化した筋肉をコントロールするために材木を運びながら襲い来る魔物を討つ。
材木は補給物資であり、これが無いと仲間が死ぬと思えと命じる。いやが応にもこれが訓練であると悟って貰うしかない。
場合によっては彼等に障壁魔法と爆発魔法の極地であるドラゴンスレイヤーを実戦で使って貰うことになるのだから。
殺しきれなかった魔獣が瘴気を集めて魔獣としての恪が上がる。所謂手負いの獣という奴である。
爆裂魔法を附与した短槍を女子が構え、身体を理想的なフォームで動作させるようにコントロールする補助魔法でターゲッティングからの投擲を行わせてみる。
「余裕のあるものは照準魔法を付与するといい。男子!いいぞ後退せよ!。」
それなりに距離をとれた事を確認して今日から副官として抜擢したイノに指示を送る。
「投擲開始!投げ込め!。」
「着弾確認赤の2.7.9命中!他は各自修正。」
戦果を記録する副官補佐として抜擢したコンラッドが命中させた班に後ろに下がって魔力篭めの作業に移って貰い休憩を指示する。全て予定通りだ。
「男子程良い距離感を掴め!自分が何をやれるか考えながら狂化した獣に相対せよ。」
「隊長!次弾、準備出来であります。」
「青の全班の後退を指示願います。」
「では男子全体後退せよ、但し無様に後退するなよ、整然とだ!。」
決して獣と目を逸らさず超長槍を前に伸ばして整然と距離を取る。
「イノの判断で投擲を命じよ。」
「赤の全班投擲開始!。」
投擲の手法は様々ではあるが、照準魔法を付与出来ている班とそうでない班とでは着弾点の誤差がやはり酷い。
「赤の1.3.6命中、5.8は精度から焼夷等の範囲攻撃に配置転換を具申します。」
「宜しい、2.7.9班と1.3.6班は交代、5.8班は範囲爆裂魔法を篭める為後退、青の班近接戦闘訓練再開せよ。」
範囲攻撃魔法焼夷。
ゴブリンやオークなどの大暴走への切り札である。
彼等との訓練開始より二週間、織田家の超長槍と夜明けのナパームの共演であった。
超長槍で距離を取り焙烙玉の投擲…と考えていたが魔法を付与した槍の方が断然飛距離があるので短槍に四枚の尾翼をつけた疑似RPG-7に切り替えた。魔法照準の先にある魔法追尾に辿り着く配下が現れるまで、今はこの精度で満足しておかなくてはならない。
防具強化と反射攻撃についても熱く語った。敵の攻撃に対し爆発で相殺しダメージを軽減する概念はまだ理解できないだろうけれど、雷魔法を鎧に付与する事によって打撃を与えてきた相手にのみ指向性を与えた電撃を自動的にお返しするスタンアーマーはどうやら実用化に至ったようだ。
華麗なクローによる攻撃を見舞う少年は半獣半人の狼男である。
鎧に電撃を帯びさせて体術で戦うそんなスタイルだ、何故電撃かというと僕はある種の発展形を彼に伝えた。それは磁力の反発で浮きながら超高速で疾走するリニアの概念だ。
彼はまだ道半ば、必ず至ってくれると僕は信じていた。そして電撃を帯びた彼は超モフモフである。
今は恋人はいないそうだからこれが良いアピールとなってくれる事を願わざるを得ない。
狂化して狂奔していた魔獣の猛りに影が射す。血祭りと言う名の宴もそろそろ幕という事だろう。
魔獣の包囲を解かぬまま超長槍を携えたまま距離をとる。
上空より魔獣に飛来した焼夷が炸裂する。
本来ナパームが炸裂した地点では猛烈に酸素が消費され酸欠者が続出するし一酸化炭素中毒での死者も多発する。消火するのも難しい難消火爆弾なのであるが全てが魔法で構築されたこれはマナさえ取り除けば即座に消火出来てしまう。
不完全な代物ではあるが範囲焼夷魔法は脱出される前に焼き殺す魔法であるから、弱った魔獣など逃げ切れるものでは無い。
細かな誤字修正。性別間違い等。