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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第四十五話 今なら”英雄”付いてくる

 黒馬を駆る事二日の旅程、倒した魔物は殆ど打ち捨てて行かざるを得なかった。

 ほぼ全力疾走で駆け抜けたにも係わらずノットの愛馬と黒馬はまだまだ余裕の表情で放牧地の柵の向こうへと走り足りない分を駆けていた、一方乗り手であるタケルとノットの方は疲労を隠せず己の馬どもを遥かに見やり厩舎長に後を任せてその場を後にする。

 砦に等しい領主館に入ると、ノットによる互いの自己紹介を提案され、一先ずお茶の席が用意される。



 辺境アルテン、領土は略荒れ地。以上。

 流石に馬を維持する牧草地はあるし農地も少々あるのだが、領土の殆どが荒れ地と言う不毛ではないが人手が足りない上に、何を隠そう水がないと言う実り少なき土地であった。



 文官待遇の何でも屋の二人、エンリコとオゴ。この二人が軸となって補佐が何人か付いている。

 武官で衛士のカント。ノットの替わりに軍務の維持と監督が出来る数少ない武人の一人であると紹介を受けたが、まだまだノットの替わりなど勤まらないと謙遜していた控え目な人物である。どう見ても強そうなので僕は対応を間違えたりはしない。


 やらなきゃならないことだらけで、やらずに済みそうな事は無い。と言う状況であった。

 取り合えず王都からやって来る騎兵隊が到着する前に壊れた柵の補修等の雑事を全員で片付けると言う運びとなった。

 僕の役割と言えば領民の少年少女を専属的に率いて新しい世代の組織を作れとのお達しだった。


「御館様の意図はわかるな?。」


「期待が大きすぎて給料の増額を願いたいところです。有体に言えば彼等に配る飴の代金です。」


 実際、金銭的余裕が無い今は飴と鞭ではなく見せ鞭と鞭しか使いようがない。使われる子供達にとっては堪ったものでは無いがこれも御館様の為と将来の自分の為と言うやつである。



 さて、領地の規模は?と問われれば、アルテン”村”と言い切ってもなんら問題無い。

 一氏族五百騎前後の騎兵を戦地に送り出せる規模の農業それで手一杯と言う現実が”村”と言う呼称に相応しい。

 軍馬一頭の維持費も馬鹿にならない。節約を常に心掛け、王命在らば何時でも出撃!そうであらねば家名に疵がつく。

 金が無いから出陣出来ませんではお話にならないのだ。



 視察がてら荒れ地と草原の境に向かい、大地に向かって音波探針(ソナー)魔法を叩き込み水脈を探す。

 荒れ地を穀倉地に変える方法を問われれば、その基本はズバリ水だ。

 下へ下へと降りていく水を上へ上と誘導し水路へと流す事が叶えばため池も作れるし農地も作り放題となる。

 魔法はどんなものであれチート以外の何物でもない。

 実現したいものがあり、それを為す方法を知っているのであるならば躊躇などすべきではない。

 タケルは日々負い目のある自分を深く内向的に考える傾向が強い。だが、それは一杯の丼に出会ったことで開き直りの境地への扉を開く一歩を踏み出したのだ。


「良かった、標高の高い山もあるし水は深いが流れてる…。」


 タケルはここに大規模な水田が作れないかと調査を続ける事となる。



 一晩過ぎて朝を迎え、少年少女たちが必死に木を伐採している横でタケルが魔獣を何匹もその剣光の下沈めていく。

 牧草地を囲う柵を作る材木を森の中から調達するために運搬をノット等率いる衛士隊に任せ、少年少女たちは命懸けで木を伐り続ける度胸試しに駆り出された。

 その過程でタケルによる魔獣殺しを見せつけて、見た目と物腰とは別の武人の側面を理解して貰おうと言う目論見満載のツアーであった。



 タケルはある程度強い。漂流者の中では石岡、倉橋に次いでの三番目の強さである。

 実戦経験ではタケル、倉橋、石岡の順となり、怪しげな視点からは倉橋、タケル、石岡の順となる。



 今何か変な採点者がいたが…。

 タケルの魔物寄せ魔法が少年達の安全を保障する、但し少年少女たちにその事実は一切教えられていない。スリル満点のツアーであった。



 午前中に伐採した木材の運び出しを終え、昼食に魔物肉の鍋を囲み、午後は交代で井桁に積み上げた材木の周囲と中央に温風魔法の設置と維持を繰り返す。

 材木の乾燥と魔法の練習の二つを兼ねた訓練ではあるが慣れないうちは維持すら難しいので捗ったとはお世辞にも言えない。

 日暮れ前には全員に手土産として魔物の肉を一人づつ手渡し、明日の作業日程を伝え一日の仕事を終える。

 井桁に組んだ材木を回転させて中央に範囲暖房魔法を設置する。これで明日には通常の乾燥速度よりは二割程度増しで早めに乾燥するだろう。

 ただ、余り早く乾燥させると割れてしまうので補助程度のものではあるのだが…。





 早朝誰も起きていない時間から荒れ地の只中に立ち障壁魔法でボーリング作業を行う。

 湧き水を確保して貯水池を作ろうという独自の試みであった。

 御館様からご裁可を頂くには念入りな調査が必要だろうと言う事で先ずは調査を一人続けていた。





 少年少女達を集めて得意な事と苦手な事を聞き取り調査する。先ずは苦手な事をさせてみる腹だが時間が経てば嫌でもわかる話なので腹を明かさず先ずは聞く。



 次に互いの自己紹介も兼ねて御館様にどのような世話になったかを聞いておく。これを忘れるとどのあたりに忠義の源泉があるかを知ることは難しい。概ね親の代で貧困から救われた者が多く自分自身の決意は薄いように思われたのでこれからここをどの様にして行きたいのかを一度決意表明して貰う必要があると感じる。とは言え行き成りは無理であろうから成人に近い者から順番に詰めて行くしかない。



 ここにいる全員には其れほど時間的余裕も無く戦場に赴く指令が下る。これはノットから告げられた決定事項なので絶対に動かない。そこでタケルは魔獣による実戦訓練と材木の切り倒しを平行して行う事にした。覚える事は突撃と撤退、そして待機と伐採である。

 単純な命令ならば十二分に熟せる程度にまで練習を重ねてみようと考え、その意図を彼等に正しく伝えた。



 蛮族との戦闘では魔物の大暴走も人為的に起こされ、毎回多くの犠牲者が出る。

 一同に動揺が走り、不安がその表情を強張らせる。

 その中で一人、闊達そうな少年が僕の提示した訓練内容に遺憾を表明した。当然だな材木を伐り倒す戦闘訓練など聞いたこともあるまい。


「この訓練を耐え抜いたその先に”ドラゴンスレイヤー”の称号があるとすれば、キミはやる気が起きないかな?。」


 英雄への列席と言う甘美な誘惑。僕も割合、詐欺師の資質があるのかも知れなかった。

マウスのブラウザバックボタンで書いたものが吹き飛ぶ衝撃。

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