第四十三話 まほうつかい
王立魔法学校。
それは設立当時王太子であったネア・イクス・トリエールの私財を費やして設立され、後に王となった彼により正式に王立となった魔法学校である。
そこの幼年学科に一人の魔法犯罪人が入学する事となった。名前よりもその犯行が先んじてしまい、爆炎使いだの爆発魔法の申し子などと噂されていた。
そういう恥ずかしいお年頃が寄宿舎生活を行っているのだから、噂や話のタネに餓えてしまい、在らぬ方角へ転がって仕舞う事は避けがたいものである。
さて、その被害者と言えば犯罪人とは思えない笑顔と好奇心で校内で手あたり次第に気になるものを観察している最中であった。
魔法道具や据え置きの魔法陣を研究し、その成果物を校内の至る所で展示、又は実用化している、稀有怪訝の見本市のような場所である、村育ちの田舎娘には、一日あってもその好奇心を宥める事など不可能であるに違いない。
「囚人番号七百二十二番、珍しいからと言って触れて壊せばまた逆戻りですよ。」
入学が完了するまで彼女には名前がない。法で定められている以上それは仕方が無い事であった。
刑務官が彼女に注意を促すとき、それを言葉に発する事を少し躊躇ったのは無理も無い。
学校長室にノックし、返事を確認し補佐官が開いたドアに刑務官が囚人番号七百二十二番と共に入室する。背後で補佐官が扉を締めて施錠する。
「ではこちらにお掛けください。」
補佐官は扉の前で脱走を防ぐように立つ。職務上仕方が無い。
エセル・ティシフォンが生徒となり、名前を取り戻した事により、刑務官と補佐官は笑顔で彼女と握手を交して、学校長室を辞して行った。
最後に「出来ればもう二度と刑務所には来ないように。」そうほろ苦い言葉を残して。
校長は彼女の傍らに立つ精霊に最敬礼を施し会釈を返される。
彼女を常に見守る様に傍らに在るそれは、明らかに高位の存在であることは疑いない。ならば教師としてその力を正しく良い事に、本人が破滅へと突き進まぬ様に教え導く事が求められているのだと理解した、そして精霊もまたそうして欲しいと願っているから付き添い方が保護者のそれなのだろう。
ご家族はハラハラしながらも見守る事を心掛けて出来得る限り力を貸さないように努めて欲しいと願うと、精霊はコクコクと頭を縦に振る。どうやらご了承頂けたようだ。
「クーちゃんとお話が終わったのお爺ちゃん?。」
「ああ、君がちゃんと自分を理解してコントロールが出来るようになるまで手を貸さないようにお願いしていたんだよ。」
精霊を見て名前も知り、意思疎通も出来ている。それは即ち、経験は無くとも魔法使いとしての一歩は既に踏み出していると言う事だ、魔術師でも魔法師でもなく、魔法使い…だ。
「よぉーし、私、頑張ってプリチーでキュアーな魔法使いになります!。」
彼女に魔法使いの知識を与えたのはニシダ・ユリである。
ちいさな女の子に語って聞かせた物語は、彼女が小さな頃に憧れた魔法少女のお話であった。
傍に居る精霊も一緒になって聞いていたのでサポート役がどんなものかも納得している。
腰だめにエセルは正拳突きを放つ。精霊は拍手している。
校長は、この一人と一体が何を目指しているのか判らず困惑しきりであった。
担任教師が決まり教室へとエセルが連れて行かれた後、校長は自身が尊敬する精霊へと交信を開始する。ただそれが実りあるものであるかは何ともいえなかった…。
「ん~魔法使い?。」
ゾリゾリと毛皮から脂をこそぎ落としながらエセルちゃんの質問に答える。
「そうだな、石岡なら女家族だからもっと詳しいが、俺が知っているのは”穢れ”を集め過ぎて世界の理から外れて女神になった魔法使いくらいだな。」
「わかんなーい。」
トテトテとエセルちゃんは走る、石岡にーちゃんの処へ。
「魔法使いか…正義の魔法使いと悪の魔法使いが世界を二分していて、こう…。」
正拳突きを打つ
「戦って倒す。」
「へー、すごーい。」
お婆ちゃんに料理を教わっている鞆絵おねーさんに魔法使いについて尋ねる。
「聖剣とアーサー王の伝説とかそういうのがお望みじゃないよねー。」
「武器とおーさまってジミーとかが好きなお話だよね。」
「ちょっと待ってなさい。」
百合ねーちゃんが来た。
「魔法使いについて聞きたいんだって?、いいよぉ、どんな話からしようかー。」
百合ねーちゃんのお話はクーちゃんも興味津々で、小動物に変身できると聞いて毎日練習を始めたくらい。
私も石岡にーちゃんの技に魔法を乗せて火のパンチと水のパンチと電気のパンチを覚えた。変身は難しい。
「空を飛んでクルクル回って魔法で衣装を作って着るのよ。」
百合ねーちゃんのお話は楽しい。衣装かー、可愛くて戦う服かー。クーちゃんもリボンとか小さいものは作って身に着けられるようになったみたいだけど私は全然ダメだった。
形を顕現するにはイメージすることが重要。と神父さんが言ってたけどそれかなぁ。クーちゃんが首を縦に振ってる。そうみたい。
魔法使いには、正しい心が必要。
魔法使いには、ステッキが必要。
魔法使いには、可愛い衣装が必要。
魔法使いには、格闘技が必要。
皆が「達也にぃの話は聞いちゃダメ。」と言うからメモには入れない。
「僕と契約して魔法使いになってよ。」
物凄く契約したかったけど皆に止められた。あの言葉を言うサポート妖精は危険なのだそうだ。達也にぃは皆、曰くちょい悪なので良く考えて聞かないとダメなんだって。いじわるだねー。
「そんな事より魔法使いには心強い仲間達と必ず出会う運命があるんだ。エセルちゃんがもし、その資格があるならその時に絶対解る。魔法使いは魔法使いと惹かれ合う。」
辛そうなポーズをキメて達也にぃが断言する。
皆、納得していたのでこれは正しいんだなと覚えておく。
魔法使いは魔法使いと惹かれ合う。
それならここで、ここでなら魔法使いが一杯いるこの学校なら、仲間に出会えるんだ。
ずっと一緒だと思っていたお兄ちゃんとお姉ちゃんたちとお別れしたけれど、また会えるよね?。
そうして、私は教室のドアを開けた。
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