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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第四話 冷気の監獄に暖房魔法を

句読点、ルビ、言い回しの訂正。再読する程の訂正ではありません。2018.06.16

 戦象部隊に落雷が降り注ぐ。

 飛礫ひれきが高速の弾丸と化して象の周囲の人間を負傷させていく。

 電撃の暴威(ぼうい)が生物の神経を焼き、直撃を受けた人間を焼き殺す。

 象とて例外では無いのだが対策がなされていた様で、アースのように地面まで垂れ下がっている鎖が電撃を散らしていた。

 ただし周囲の人間は獣魔程には頑丈ではないので焼死体になることを(まぬが)れはしなかったのではあるが……。



 ウィリアムの戦斧は雷撃をそのまま纏い、吸収し、貯蔵していた。

 いずれ劣らぬ天下の名物であろう戦斧を握りなおすと愛馬の横腹に蹴りを入れ、ドスドスと重量のある突撃を敢行する。



 孤軍奮闘と言うほどのものではないと彼は(うそぶ)く。



 筋力を身体強化魔法で増幅して戦斧を振り上げ、増速魔法を乗せて振り下ろす。

 ただそれだけで戦象の厚い皮と鱗を断ち割れるのだ、己の力と言うより武器の性能でしかない。



 象の前足がウィリアムを襲う。戦斧の面の部分で受け止めて障壁の魔法で弾き返す、又は受け止めず足裏を戦斧で切り裂く。

 二頭ばかりを血の海に沈めた辺りで、血に酔ってのたうつ竜にその場を譲り、ウィリアムは戦象部隊を追う。

 小回りの利く彼に(こう)する事が出来そうな兵は残念ながら居なかった。

 そして、象を料理する彼を(ドラゴン)は襲わなかった。

 何故かなど誰も理由は判らない。



 のっしのっしと歩む愛馬と戦斧を担いだ孤影(こえい)は、戦象部隊の誰の目にも厄災(やくさい)以外の何者にしか見えなかったであろう。





 工兵部隊を丘の上まで導きつつウナギを誘導するために生餌となった僕たちは、当然の如く窮地に立たされていた。

 奇岩【マシェルカ】を中心にウナギが周囲をぐるっと一周(ひとまわ)りして取り囲んでいたのである。


万事窮(ばんじきゅう)すか。」


 退路が欲しければ切り拓くしか無い。

 黙して語らずに僕はウナギの生態を思い返していた。

 (えら)より少し頭側に釘を打つように一本楔を打ち、関東なら背開き関西なら腹開き…。

 違う、これは調理法だ。

 気を取り直して再度黙考する。

 嗅覚は犬並みに鋭く、細長く狭い場所を好む。



「大量の氷で動きを止める事ができるけど…そんなものどうやって…。」



「氷?冷気魔法なら全員で力を合わせれば多少の事は出来るだろうが。」



 ノットがぐるりと周囲を見渡すと魔法を使える兵士達が集まる。

 幾つか魔法的な話を交しつつ、僕が解放された後兵士たちが魔法師団へオーダーを伝えるべく魔法式を羊皮紙(ようひし)に構築し始める。



「アレが寒さに弱いってのは初耳だが、今は何にでも(すが)りたい気持ちだな。」



「僕の祖国ではもっと手ごろなサイズで、美味しく食べる事の出来る生き物なんですよ……。」



 微妙な表情でノットに振り返ると、えっ?アレ食えるの?と言う表情で見つめ返される。

 静かにウナギ(どらごん)の姿を見下ろしながら、天高く(そび)え立つ奇岩に背中を預けながら深いため息を吐く。

 僕は、唯只管(ただひたすら)、魔法師団が動いてくれる事を祈る事しか出来なかった。






 ウナギは自らの尾をゆるゆると追いながら、奇岩【マシェルカ】の周囲をグルグルと回る。

 あのウナギにとってこの奇岩に何某(なにがし)かの因縁でもあるのだろうか…。

 一思いに登坂(とはん)し、僕たちを食べに来ても不思議に感じない程にスケールの差があるのだ。

 この程度の段差が如何程(いかほど)のものだと言うのだろうか?。

 あの大口を開けられれば大人三人を縦に並べた高さになる。うねうねと身体を捩りながら進むその身は、伸ばせば百八十メートルは下るまい。

 精確には通り抜けられそうな隙間はある。

 あるのだがウナギが通った場所はヌルヌルで馬が転倒するのだ。

 粘液は粘りが強く良く滑る。渡河よりも危険度が高く近接戦闘など出来たものではない。

 動きを止められさえすれば戦う手段は見いだせるがこのままではどうしようもない。




 手斧を駆使して三本の針葉樹を切り倒し杭を作っている。

 並みの武器では傷は付けられても致命傷を与えるなど不可能である。そこで(くだん)のウナギに串を用意する事にしたのだが、中々鋭利な丸太の串が出来上がりつつあった。

 残余の歩兵と騎兵で防寒の助けになりそうなものを掻き集めているが、正直焼け石に水だろう…冷え性にお湯……まぁいい。

 あとは燃やすと臭いが酷いものが無いかと尋ね回ったが此方は成果は望み薄だった。



「魔法師団様、助けて。」



 真摯に祈りを捧げているとノットが半笑いで僕の背中を叩く。



「珍妙な祈り方だが此方の要望は伝わったらしいぞ。」



 信号弾のように煌めく魔法弾が空にチカチカと明滅していた。

 上手い事手を加えることができれば花火が作れるかも知れないなと、余計な事を考えつつその煌めきに再び手を合わせる。

 生きて帰って飯が食いたい、その思いだけが僕を支えていた。



 こうなればなんでも利用するしかない、僕たちは騎馬をなるべく窪地に繋いで凍えない場所に待機させると、歩兵も騎兵も区別なく名案はないかと語り合う。



 魔法を用いた串の射出方法を考えるも使用する人間の安全性が皆無であったり、間違いなく魔力に負ける部分に障壁を張る者を選定してみたりと、割と建設的な議論がなされている。

 僕が提案したのは火縄銃の原理を応用したパイルバンカーだ。

 総員力を合わせて一発射出するのに相当の魔力を消耗する。やる前から予測がつく程に無駄の多い魔法運用であった。



 生きるか死ぬかの瀬戸際で携行食糧を齧りながら知恵を振り絞って事に当たる。一体感やチームワークは潜った修羅場の数だけ深まる……とは言えズルズルと死そのものが巨体を揺らしながら周囲を回る姿は湧き上がる熱意を合間合間で冷ましにかかるようなものであった。





 ズンッ…と空気を揺るがす何かが戦場を駆ける。

 事象を根底から捻じ曲げる大干渉が大気中のマナを吸い上げていく。暴力的に吸い上げられたそれはある場所で編み上げられた事象へと姿を変える。

 気象に干渉し、意志によって染め上げられた世界の一部分は、軋みを上げながら臨界まで現実を仮想へと糊塗(こと)していく。



 広域殲滅魔法 氷雪吹雪ブリザード



 吹き荒れる風と叩きつけられる氷塊に過冷却された水がウナギ…と言わず僕たちにも降り注ぐ。

 盾に激突する(ひょう)(あられ)の大きさと速度に舌を巻くが、備えは怠っていない。

 ウナギは徐々に活発さを失い、僕たちは身じろぎも出来ない寒さを魔法によって凌ぐ事に専念する。

 付け焼刃で教わった炎の魔法を何度も失敗しながら凍える手と脳で編み上げる。

 命が掛かっている、失敗してマナを霧散させれば死あるのみ、構築した術式にイメージを乗せる。



 今欲しいモノは何だ?暖房だ、思い出せ!イメージするんだ!。



 近接暖房魔法 温風ファンヒーター



 それは僕の前に炎の箱となって出現し、温かい風を吐き出し続ける。

 マナを供給し続ければそれは維持されるようで勘の良い兵士たちが魔法を真似して量産する。



「馬達にも頼む!!!。」



 凍てつく環境に暖かな魔法が産まれるも、今暫くここは冷気の檻のままである。



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