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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第三十六話 思わぬ伏兵

 第二関所までは少なくとも休み無く疾走(はし)らなくてはならないと警備隊隊長からのご下命であった。

 俺は兎も角、馬に慣れてない三人の悲鳴が止む事は無かった。但しどんな内容であったかは名誉の為に伏す。



 王都より出陣したと聞かされていた騎馬隊が俺たちの横を整然と駆け抜けていく。

 あの威圧感は恐ろしい。だが、騎兵だけで二万を超える部隊を軽々と繰り出せるその財力の方が万倍も恐ろしい。



 教師たちを殺し、生徒達を魔法で従えて連れ去ったあいつ等に捕まっていたら”あの騎兵の突撃”を”盾だけ”持って防がなくてはならなかったのか。そんな想像をすると腹の底から震えが来る。

 そして今から盾持ちて歩く彼等はその突撃を受けるのだろう。生きて再会出来るなどとは到底思えなかった。



 兵士たちが制する馬の挙動は人馬一体を目指して日々訓練に励んだ成果である。当然後ろに乗せて戴いている身分の我々四人はお荷物である。

 全身の力を抜き膝を締めて背筋を伸ばし騎手と馬の呼吸を感じ体重移動に合わせて動く。なんで俺は馬に乗れるのだろうか…。王都に馬車を買い付けて救援を求めたあの日も何故か迷う事無く馬に乗った。

 乗馬の基本も知らないのになぁ…。せめて今後ろに乗っているお荷物としては最上のお荷物になろうと俺は思うのだった。



 第一関所には臨時の兵が置かれており、守備隊隊長と守備隊員二十人が盛大に労いを受け、救出された俺達も手荒い歓迎の後、軍隊の食事だから期待しないようにと念を押されながら、夕食を勧められる。

 食事中敵兵の陣容や逃走中の状況を聞かれ、俺と石岡の二人で出来る限り詳細に質問に答えた。

 警備隊の面々も第二関所どころか王都まで撤退せよとの新しい指令を与えられ、俺たち四人もその旅程に同道する事となる。

 軍馬を二頭貸し出される事となり、俺と石岡がそれぞれ騎手を努め、女子二人は好きな方に乗る様に馬番の男に言われる。

 何やら女子二人で四の五の相談しているようだが、こちらでは石岡が初乗馬だと言う事で警備隊の副隊長が直々にご指導下さっている、俺も近くで拝聴することにしよう。



 又新たに騎兵二万が第一関所に到着し、輜重隊が飯の用意に追われると、警備隊プラス四人は闇夜の中、第二関所への移動を開始する事となる。

 まだあれだけの兵が来るとなれば、そりゃあ寝床などに余剰があるわけがないなと得心がいく。



 第一関所に辿り着くまでに歩兵総勢八万と擦れ違う事になった。もう何かのお祭りの規模を楽々と超える規模だ、その上物々しい気配を漂わせており思わず背筋が伸びる。



 ハシバミの木がチラホラ見える頃になると、朝焼けがゆっくりと迫ってくる。そろそろ第一関所だが予想では其処でも眠ることは不可能であると言う。

 背後の樋口さんと腰をロープで結んでいるが寝落ちしそうなので胴もロープで結ぶ。

 安心したのか寝て仕舞ったのだが起きてるうちに作業を終えたので間一髪であった。

 石岡のほうは西田さんを落としそうになって居たので慌てて馬を寄せて西田さんを支える。


「すまん、流石にひとりでは無理だ。」


 取り合えず襷掛けに緩めに固定し終えて遅れを取り戻すように馬の方が歩みを早めてくれる。

 こうしてカラコルム城が見えるまで俺たちは眠る事なく馬を操り続けた。



 全員の仮身分証が検められ、俺たちは教会預かりの身分とされ、馬車に乗せられて教会まで運ばれる。

 守備隊の皆さんとの別れを済ませたとは言え、流石に展開が早い。

 教会に辿り着くと可也お年を召した神父様により洗礼を受け聖イグリット教の子として祝福される。俺は何も感じなかったが三人は何かを感じたようだ。


「お主は既に神の子ぢゃな。」


 神父はそう言うと俺の肩を軽く叩いて優しく笑う。全員に洗礼名を与えられたが使うかどうかは自由であるそうだ。

 続いて王城の方から派遣されてきた文官が国王陛下直筆の感状一通を手に現れ、俺に金貨十枚の入った袋を手渡してきた。身振りを教えられ左胸に手を当てて一礼し国王への忠誠と王国への帰化を宣誓する。

 其の後渡された幾つかの書類にサインをして身分証を与えられた。


「兵士に志願するも町で働くも自由だ、ただし法を厳守して神を敬い、常に正しくある様に。」


 こうして俺達四人は市民権と当座の資金を獲得したのだが、四人で暮らすには心許無い金額であった。

 概算で金貨一枚三十万円、確かに大金である。だがこんな金額使えばすぐにでも無くなる金額だ。

 生活を安定させるには手に職つける必要があった、俺たちは村社会で生きるならば十分に生活力を発揮できた、では都会では?。


「住むところがないので何処か空き家か何かを紹介して頂けないでしょうか?。」


 何の捻りも無いありきたりな願いを口にした俺を、さも当然の事の様に頷いて数枚の賃貸情報を寄越してくれる文官さんであった。国籍も戸籍も無い難民に家など無い事なんて想定の範囲内だよね。ぐぅ有能。



 そして家賃は安かった。



 普通にボロ屋ではあったが、一階が元店舗で二階部分が住居、申し訳程度の裏庭があり、狭いながらも風呂場がある湯船は無い、無いなら作ろう、そうしよう。

 厨房が存在しており飯屋であった事を思わせる間取りだ。部屋数は二階部分が三部屋で物置として使われていたらしい、魔法で色々と保存していたようでかなり汚れていた。部屋以外は寝起きする分には申し分なかった。だが、流石に必死に掃除せざるを得ない。



 宿屋に一週間宿泊することにして、その間はお掃除三昧である。

 一続きの部屋にベッドが五つ並ぶ大部屋で、フラフラと吸い込まれるように各自ベッドにパタリと倒れ込むと全員眠りに落ちる。

 四十二時間ぶりの眠りの世界であった。



 夜風がそよそよと室内を心地良く駆け巡る。

 倉橋と石岡の二人が朝に川辺を疾駆したしっぺ返しが、ほぼ同時に炸裂した。

 声も出せない動けない。筋肉が自身の意志に従わず底の深い部分の腱や筋が反逆を起こす。

 カラスがい、こむら返り等と呼ばれる悶絶必至の地獄の不意打ち。


 眠っている間に反逆は完了していたのであった。

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